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時間旅行者レポートVol.29 note de 小説


「あれはセーヌ川のほとりです。

プロを目指してパリにたくさんの
画家がいました。

その中で唯一の光に見えました。

吸い寄せられるままに
その人の絵の前に立ちました。

ボクは絵画に対して何の
造詣もありません。

ですが一目でわかりました。

この絵が
この若者が
この画家が

歴史になるんだなって
いうのが、です」

「ふむ。それで?

おそらくその絵は
この世に現存していない。
誰も知らない絵だよ。

君は見たんだろう?

どんな絵だったのかね?」


「どんなといわれても・・・

セーヌ川。
単なる風景画に見えましたが」

「そうか・・・

いや、すまない。
彼と会話をした人間は
確実に君だけだ。

ゆえに君は生き証人だ。

実をいうとね。
ピカソというのは
あまたいる画家とは違う。

では何が違うのか。

それはビジネスの目だ。
彼は芸術家でもあり
優秀なビジネスパースン
なのだよ」

ピカソを論ずる
テュラム大統領の
饒舌さには驚かされた。

大統領は大のピカソ好きで
知られている。

大統領の語るところによると
こうだった。


青年ピカソは他の画家と同様
売れない時期を過ごした。

自分の売れない理由は
一般に知られていないから
だと。

そこで彼は対策を練った。

大衆が当時、
一番目にして
一番手に取るものに
自分の絵を印刷して認知度を
上げようと考えたらしい。

それは
ワインボトルのラベル
である。
ワインはフランスでは
ポピュラーな飲み物で
誰もが目にする。

そこに目を付けて、やがて
大成功を収めたのだ。

「書けば売れた」往年の
彼の土台はここにあるのだ。

「どうだね?

青年ピカソからそんな印象を
感じたかね?

今後、誰しもが
いつぞやの偉人に
自由に会いに行ける時代が
やってくるね。

面白い時代になるじゃないか!

Dimentionz社の発明は
素晴らしい。

タイムマシンは本当に
人類の至宝だ

諸君、これからも楽しみに
見させていただくよ。

オリバー君、君もだ。
ピカソでつながる
友達になろうじゃないか」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

こうしてフランス代表団との
会談は円満に終了した。

これもすべて
テュラム大統領の
人間のなせる業だと思った。


さて、次は
ヤーパン首相との
会談である。


しかし、ここで
予期せぬ事件が起こる。

午後11:00を
少し回ったころ

Dimentionz社幹部の間に
激震が走った。


急遽アメリカ代表団が
会談のタイムスケジュールに
割って入ってきたからだった。


相手は共和党のドン
フーバー大統領と
その取り巻きたち。

フランスとは一転して
イケイケで知られている
世界中から煙たがられている
人物だ。

「戦争屋」の異名を持つ
このフーバー大統領は難癖つけて
侵略し自国の軍事産業を
急発展させた。

現在、月面の支配権を
めぐってChinaと
摩擦を起こしている。

「宇宙軍」を創設し
月面艦隊を組織した。
つまり

USーLUNARである。

2080年ごろから
各国は宇宙への覇権を
狙い

実際に活動拠点を
宇宙空間に展開していた。

むかしもいまも
アメリカ合衆国は
かわらない。

そして会談の場所を
変更してきたのだった。

DimentionZ社の部屋から
合衆国側へと。

順番待ちのヤーパンの
首相は手をこまねいて
会見を見送った。

世界の大王はいったい誰かを
アピールするための
演出でもあるのだろう。

部屋に入ると、それはまるで
大統領選挙の討論会の
配置だった。

片方にはボク。
もう片方に米大統領。

それを囲うように
CNN、NBC、ABCなど
アメリカ主要メディアが
埋め尽くす格好だ。

そしてそこにDimentionZ社幹部の
入る隙間は与えられていなかった。

つまりボクは
東洋の言葉を使えば

四面楚歌だった。
まさに戦いの場所だった。

防衛装置を剥ぎ取られた
一隻の船が
敵艦隊のど真ん中で
何ができようか。

混乱するDimentionZ社の
人間のなかに冷静を保った
男がひとりいた。

08である。

彼はボクに告げた。

「keine Sorge(心配しないで)。

うまくいきますよ。
ただ、あなたを待っているのは
針のむしろです。

気を付けてくださいね。
誘い出されてタブーを
口走らないように。

彼らはただ誘っているだけです。

それ以外
なにもできやしないんです。

黙秘を通しても
シラを切ってもいいんですよ

いいですか、あいつの名前こそ
Hoover(フーバー)氏ですが

Fubar(フーバー)氏が正しいのです。
あまり馬鹿者の相手をなさらないで」

それだけいうと、その場を
足早に去っていった。

ただ耐えろ、ということか。

ならば耐えて見せる。
鼻持ちならぬアメリカの
強引さに半ば苛立ちを
覚えていたボクの心は
戦うマインドに変わっていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

PM 11:30
アメリカとDimentionZ社の
直接会談が米代表団の特設サイトで
始まった。

これも先程の
フランス同様に
世界中に中継されている。

そのなかには
大統領支持率や
世界の株式市場の数字など

政治やビジネスに使う
ビッグデータとして
瞬時に処理される。

この速報で気になったことが
さきほどの会談でテュラム大統領の
支持率が急落し、右翼政党のそれが
急上昇したことだ。

『地獄を見る欧州に興味はない』
が国民感情にどう作用したのか
定かではないが

個人的な意見が
時として愛国心を
疑われてしまうのかも
しれない。

アメリカとの会談が
始まってもその事が頭を
離れなかった。

「おい、オマエ!
なにをボーッとしてるんだ?

ここをどこだと思ってる?」

急に金切り声が
押し寄せた。

驚いたボクを
見下したように

フーバー大統領が
火を吹いた。

さぁ、戦いが始まる。


遠くの報道席に08が
こちらを静観してるのが
見えた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

つづきます。


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