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虎の子渡し-定野司の読むだけで使ってはいけない金言名句集

予算発表時の、ある首長の発言です。

「税収の好転がこの先も期待しにくい中で、財政基盤の強化に力を入れました。行政改革を進め、新たな公会計制度も活用しながら、無駄を排し、施策の効率性や実効性を向上させる取組みを徹底することによって、虎の子の基金残高を確保するなど、将来への備えもしっかりと講じました」

あれから10年。
1兆円近くあった虎の子が、底をついてニュースになりました。
新型コロナウイルスと、その恐怖が日本を、世界を、襲ったのです。
その後、政府の「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」による医療機関への支援、ワクチン接種体制の整備などが実施され、そのほとんどが全額国費で賄われることになりました。
また、自治体がそれぞれの地域の実情に応じ、必要な事業を実施できるよう、「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」が創設されました。
感染拡大の防止や医療提供体制の確保、地域経済・住民生活の支援等を行うための地方単独事業や国庫補助事業の地方負担分、営業時間短縮の要請に応じた飲食店に対する協力金等が財源措置されたのです。
総額は26兆円(2020年決算)。
その結果、何とか虎の子も息を吹き返すことができました。
しかし、この26兆円の財源のほとんどは借金(赤字国債)です。
いつか、誰かが返してくれんだよなぁ~
昨今の地震や豪雨などの災害、その当面の応急対策、緊急事態に備えるためにも、「財政調整基金」は自治体運営に欠かせない存在、まさに「虎の子」と言えるでしょう。

ところで、この「虎の子」ですが、どうして他の動物の子どもではなく「虎」の子どもなのでしょうか?
実は、虎は自分の子どもをたいへん可愛がることから、「大切にして手放そうとしないもの」、これが転じて、大切にしている財産(お金)を意味するようになったのです。
確かに、「ヒトの子」じゃあ、物足りない。
しかし、動物はみな本能的に子どもを大切にするのではないでしょうか?
自分の子どもを虐待してしまうヒトの親にも、この本能は残っていると信じたい。
「虎も我が子を食わぬ」という諺があります。
あの獰猛な虎だって自分の子どもを可愛がる。
このギャップが、「虎の子」を生んだのでしょう。
日本のプロレス界を舞台にした漫画「タイガーマスク」(原作:梶原一騎、作画:辻なおき)に登場する「虎の穴」の「虎」です。
「獅子(虎)は我が子を千尋の谷に落とす」という諺を、漫画の中の台詞で覚えたような気がします。
愛する子どもに試練を与えよ、という意味で使われる言葉ですね。
「獅子の子落とし」とも言います。


一方、「乳虎の怒り」という言葉があります。
乳飲み子を連れた虎は誰か(動物)が近づくと狂暴になる。
大いにギャップを感じます。
それでは、やさしい動物が子どもを可愛がる言葉、諺はないでしょうか。
ありました。
「猫可愛がり」です。
「虎」を「猫」に変えてみましょう⇒「猫の子」。
猫の手は借りたいところですが、「猫の子」では、ありがたみや希少価値を感じません。
そもそも、「猫可愛がり」とは、猫を可愛がるようにひたすら愛を注ぐことを意味します。
見返りを求めない無償の愛。
無償ですから、「財政調整基金」にはなり得ません(笑)。
孫は目入れても痛くないというくらい、祖父母は孫を猫可愛がります。
孫は幼くて、その時点では恩返しできず、恩を返せる頃には祖父母は亡くなっている。
まさに無償の愛です。
その無償の愛を搾取する「子育てハンドブック」ならぬ「孫育てハンドブック」が自治体の間で流行しています。
「母子手帳」よろしく「祖父母手帳」を配付している自治体さえあるのです。
もっとも、昔と違って今の祖父母は長生きなので、無償が無償でない日が来るのは時間の問題でしょう。
「あのときの愛を返せ!」
と親から祖父母から迫られるのは、子や孫にとって何とも理不尽な話です。「親ガチャ」、「祖父母ガチャ」と言いたくなるのも理解できます。
この「猫」は、「虎」と同類です。
正確に言うと、虎はネコ科の動物です。
つまり先祖は同じ。
ネコ科には、体の大きなライオンから、体の小さな猫(イエネコ)まで、数十種類の動物がいますが、数百万年前に遡ると、たった1種類の動物に行き着くそうです。

さて、本日のタイトル「虎の子渡し」とは、中国のクイズです。

<もんだい>
虎は3匹の子どもを産むと、最初に生まれた虎は虎より三本髭の多い彪(ヒョウ)になると言われていました。
母親が目を離すと彪は他の虎の子を食べてしまいます。(兄弟を食べるなんて、こんなことはあり得ません)
母親の虎と3匹の子どもが川にやってきました。
子どもは自分ひとり(一匹)で川を渡ることができず、母親は1回に子ども1匹しか川を渡すことができません。
母親が虎の子を運んでいる間に、彪と虎の子を二人(匹)にしてしまうと、彪は虎の子を食べてしまいます。
さあ、母虎は、どうやったら3匹の子どもを無事に渡らせることができるでしょう。(3分で解ければ小三レベル)




<こたえ>
➀ 初めに、彪を対岸に渡します。
② 次に、虎の子Aを対岸に渡したら、①で川を渡らせた彪をもとの岸に戻します。
③ 次に、虎の子Bを対岸に渡します。
④ 最後に、もとの岸に残した彪を対岸に渡します。

この問題を解く鍵は、3匹の虎の子を守るため、一度、川を渡らせた彪をもとの川岸に戻すという知恵、クリティカルな考えでした。
同様に、虎の子の「財政調整基金」も、ただ積んだり取り崩したりするだけでなく、出したり入れたり、充当したり繰り戻したりして、予算や決算をコントロールするために使っています。
そのロジックはまさに、「虎の子渡し」です。
以前、「母屋でお粥をすすっているときに、離れですき焼きを食べている」と揶揄した財務大臣がいました。
すき焼きを食べずに貯めた虎の子を、政府は虎視眈々とねらっています。
ご注意下さい。

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