枠を超えた要求はどうしたら?―第1回新しい自治体財政を考える対話会1/3

こんにちは!

前回の記事では2021.7.29に開催した「第1回新しい自治体財政を考える研究会」(以下、「研究会」とします)で行われた、参加自治体の方と今村さん、安住さんの質疑応答の様子をご紹介いたしましたが、実は当日は時間が足りず、全ての質問に答えることができませんでした。

そこで、当日答えることができなかった質問に答える場として、2021.10.11に「第1回新しい自治体財政を考える対話会」を開催しました!
この対話会では研究会で「枠予算」について基調講演を行っていただいた福岡市教育委員会総務部長の今村寛さんに参加自治体の皆さんからの質問に答えていただきました。
今回の記事から3回にわたり、対話会での内容をご紹介いたします。


〈今村寛さん〉
1991年に福岡市役所へ入庁。
9年間勤めた財政課での経験を基に、地方自治体の財政運営について、自治体職員や市民向けに語る出張財政出前講座を出講。
また「明日晴れるかな」という福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティングを主宰し、職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。
2021年から現職。
-著書-
「自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと?」
『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』
今村さんnote
今村さんfacebook

**********************************

※ここから対話会当日の内容です。
対話会の雰囲気も感じていただきたいので、可能な限り当日の発言のまま紹介します。


1.参加自治体の自己紹介と今1番聞きたいこと

【事務局】
本日は、7/29に開催した「第1回新しい自治体財政を考える研究会」にもご参加いただいた4団体の皆さんにご参加いただいています。
簡単な自己紹介と、前回の研究会の感想をお聞かせください。

A市【人口約8万人・関西地方の某自治体】
本市では、枠配分を導入して4回の予算編成を経ました。
令和4年度予算に向けて5回目の枠配分を考えています。
経常経費の削減は進んでいる一方、ビルド&スクラップはなかなか浸透していないなど、壁に当たっています。
前年度予算をベースに、経費ごとに削減して、枠を渡していく方式です。
そこに、政策的な濃淡をつけたり、人件費もコストに含めた枠配分ができないかなど、検討していますが、よい解決策が見い出せていません。
それを打開するヒントがもらえないかと思い、今回は参加しています。

B市【人口約3万人・九州地方の某自治体】
本市は、枠配分予算をまだ導入していません。
今後検討しなければいけないと思っています。
まだ枠配分予算について勉強できていない状況で、導入するに当たっての基本的なことを伺えたらと思います。

C市【人口約11万人・関西地方の某自治体】
本市では、数年前から枠配分予算を導入しています。
最初の頃は、スクラップ&ビルドを進めることができましたが、最近ではマンネリ化し、鈍ってきています。
あと、公共施設マネジメントについて、今後、公共施設の費用がかさんでいく中で、それを全て予算に反映するとずっと右肩下がりが続くので、枠をかなりの率で毎年削減しなくてはならない可能性が高くなります。
これで原課のモチベーションが下がってきているので、どのように工夫したらよいか、ヒントが得られたらと思います。

D市【人口約4万人・九州地方の某自治体】
本市では、令和2年度分の当初予算から枠配分を始めました。
今回が3回目です。
周知はなんとなくできているが、最後の事業整理の部分がうまくいかないところがあります。
前回の研究会で、みんな同じ悩みを持っていることが分かり、安心しました。
事業整理が時間切れになってしまい、そのまま予算がついてしまうことが繰り返され、様々な財政的手法でなんとかやっていますが、限界を感じています。
そろそろ、事業整理をしっかりとする流れまでつくりたいと思っています。

【事務局】
ありがとうございます。
4団体様、それぞれ課題をお感じのようですので、さっそく今村さんにお繋ぎします。

【今村さん】
今村です。
前回、7月末に1回目の財政研究会をしましたが、質問をあまり受けることができなくて、フラストレーションが溜まったり、困ってるのではないかと思います。
今回のミニ勉強会は、前回満腹にならなかった人たちに、満腹になって帰ってもらおうと思います。
今日は、4団体の皆さんと、財政の話を深めていきたいと思います。
前回は、「枠予算のすすめ」ということで、枠配分予算のことを中心に話しました。
今日は、それ以外のことも含め、ちょうど予算編成が始まり、財政課として一番長い季節を乗り切っていくための知恵やヒントの助言をしたいと思います。
今から、それぞれの団体の質問に答えていく形で進めていきます。
関連する話題が出てきたら、乗っかってください。
そうすることで、4団体の質問に対する回答がミックスされ、皆さんが聞きたいことが聞けるようになります。
まず、先ほどの自己紹介でも触れてもらいましたが、今日一番聞きたいことを端的に教えてください。

【A市】
固定資産の償却資産で大きな税収がありますが、毎年1億円単位でどんどん減少する要素があります。
それに対応すべく、公共施設の再編なども進め、枠配分も取り入れてやり繰りしています。
その中で、各施設や経常経費の削減が、財政課の目線で見ても、削り代がもうなくなっています。
よく言われる、「枠配分を数年間やったけど、結局、一件査定に戻っちゃった」という局面にぶち当たっています。
経常経費の削減を一層進める取組や、この局面を打開するような具体的なヒントが得られないでしょうか。

【B市】
本市は、枠配分予算をまだ導入していませんが、導入に向けて何から始めたらよいか。
まだ一件査定をしており、各課の事業実施について、財政課が「よい」・「だめ」の判断をしています。
枠配分予算を導入することで、各課が自主的に事業に対する関心を持ち、どれを削減し、どれを進めるかが見えてくるというメリットがあることを前回学びました。
具体的に、どういったことから進めたらよいかを聞きたいと思います。

【C市】
公共施設マネジメントの財政に与えるインパクトが大きくて、これを毎年入れていくと、ずっと右肩下がりの枠配分になってしまいます。どう財政に反映させ、みんなが納得できるような枠配分を進めていけるか、悩んでいます。

【D市】
枠を超えた事業整理についてです。
ここが、最終的に全然減りません。
どんな流れにすれば、うまく機能するのか。
この流れづくりについてお聞きしたいです。


2.枠配分を超えた事業整理と公共施設マネジメント

【今村さん】
A市とD市は、悩みが似ていますね。
枠配分をやっているが、事業の廃止・縮小が追いつかない状況。
D市は、枠を超えたものを受け取って、その後、査定するようなことを今やっているんですか?

【D市】
令和3年度の当初予算に関しては、骨格予算になりました。
企画課が要整理事業を挙げ、骨格で予算化する際に部長級職員でプレゼンをしましたが、結局そのまま予算がつくということになりました。
財源は、臨時的な財産収入や、ふるさと納税の収入、あとコロナで不要となった経費が結構あり、その分でどうにか回しました。

【今村さん】
1年限りで、骨格予算だったし、D市では市長選があり、新しい市長のやりたいことのために取っておいた財源があったから、全復活みたいなことができたんですね。
通常の予算編成だと、そうはいかないですよね。
枠配分の段階で、ギリギリで配分するだろうし、枠を超えて持って来ても追加で配分する財源がない。
査定をするか、基金を取り崩して財源を捻出するかのどちらかしかないですよね。
枠予算を導入した自治体がよく悩むところですが、枠を超えた予算要求を受け取ってはだめです。
受け取るぐらいなら、枠対象外にして、枠配分額からも減らし、財政側でしっかり議論し、査定案を市長に判断してもらう形にしないと。
枠を守らない人に追加でお金をあげると、枠を守った人が損したことになりますよね。
モラルハザードが起き、「最後は財政が助けてくれる」と思われてしまいます。
何年か枠予算をやっていると、だんだん見直せる部分がなくなってきて、枠が守れなくなる。
仕方なく財政課が引き取り、一件査定に戻る。
これが、よくあるパターンです。
そうしないためには、大きな見直しについては、枠とは別に、議論するテーブルをつくってあげることが必要です。
私も、財政健全化のプランを平成25年から28年までの4年間でやりました。
当然、枠予算で、一定の枠を各部局に与えて、その中に収まるように事業の見直しをしてもらいました。
例えば、義務的経費の任意的扶助をどう見直すか、人件費をどう見直すか、という話は、枠から外れて、全体のフレームの中で議論しなければいけない話です。
このフレームに関する議論は、当然、枠の外で。
プランの中で、4年間で議論することを掲げ、首長のコミットメントの下で議論していく。
枠の対象であっても経常的経費であっても、施設の廃止や、大幅な受益者負担をもらうことが想定されるものは、枠外できちんと議論する。
たった1年で議論することが難しければ、2年、3年かけてでも結論を出す。
難しい課題は原課に預けず、財政課と原課できちんとテーブルをつくる。
当然、首長のコミットメントも必要ですし、議会の了解も必要ですし、場合によっては市民の意見も聴く必要もあるかもしれません。
枠予算だけで行革はできません。
枠予算に加えて、大きなものは別のテーブルで議論することが必要です。
A市にお聞きします。
枠以外のところで、大きな議論をする動きはありますか?

【A市】
大型事業を含めると枠に収まりきらないので、一部は財調の取り崩しも含めて、枠外に出すなどしています。
大きな事業については、政策レビューも同時に行っています。
理事者を含めて大きな見直しもしていますし、受益者負担も行っています。
枠をはみ出たものは、制度改正などによる仕方のないものは政策枠として整理したり、査定をしたり、補助金のとり方の助言なども行っています。

【今村さん】
福岡市がやっていたことと同じように感じますが、それなら上手くいくのではないかと思います。
うまくいかないと不安に感じているのは、なぜですか?

【A市】
この何年かで、成果はものすごく感じています。
財調も取り崩さず運営できるようになってきました。
しかし、少子化に加え、本市特有の毎年何億円も税収が落ちる特殊事情があり、削っても削っても追いつきません。
公共施設の数も多く、見直しの話も出てきています。

【今村さん】
公共施設は、見直しのしづらい分野なので、どうしても後回しになります。
経常的経費の枠配分とすると、各施設の経費を少しずつ見直してスクラップしていく。
「薄く削る」と私は言います。
施設の統廃合や、老朽化に対応させるための新たな投資の財源については、議論になります。
難しい問題が出てきたときは、首長、職員、議会、市民で共有しなければいけない。
福岡市でも、私が財政健全化プランをつくっているときに、公共施設の維持管理経費(=修繕経費)が、緊急修繕しかできず、計画修繕ができない状態でした。
予算をそぎ落としてしまって。
それは、長年、経常的経費にシーリングをかけ続けたことと、私が枠予算の導入の範囲を拡大した結果、物言う市民に対するサービスを削らず、物言わぬ施設のお金を削ったからです。
施設の維持修繕経費がごっそり落ちたので、枠配分の枠を2つに分けました。
普通の枠と、アセットマネジメントの枠です。
公共施設総合管理計画の前身であるアセットマネジメント実行計画があり、その中に、計画修繕のために必要な金額の積み上げがあったので、その積み上げの6割から7割程度の一般財源をアセット枠として、財政局でプールしました。
それを枠配分予算のときに、アセット枠と普通の枠の2つを別々の区分で配分します。
各局は、配分された枠の中で、複数ある施設のうち、どの施設に使うかを自分で考える。
こう整理しました。
建替えや統合という大きな話は、枠では議論できないので、別の政策決定のテーブルに乗せて、市民の意見も取り入れながら進める。
私の在任中に、いくつかの施設は廃止になり、土地を民間に売却したりしました。
福岡市の場合は、まだ人口が増えており、市民サービス施設そのものを減らすトレンドにはなっていません。
より効率的にするために統合する、時代背景に合わずに使われなくなった施設を廃止する、ということしかできていません。

【C市】
先ほどの、「6割から7割の一般財源をアセットマネジメント枠に」という話について、これは、事前に立てた修繕計画から、その時期が来たものに対して機械的に6割から7割の一般財源を配分する考え方ですか?

【今村さん】
原則はまず計画を立てさせます。
それは中期計画です。
福岡市は実行計画でしたので、4年間がずっと続くような計画をつくっておいて、最初の4年分の財源だけきちんと決めておきました。
実際に計画した額と、その年度で本当に必要な額を照合しながら、予算要求の中で枠要求をさせ、「計画上はこうだが、実際にはこう」と言わせ、計画と実際の乖離を見ながら枠配分をしました。
「この施設にいくら」と個別に配分するのではなく、それぞれの部局に配分した一般財源の中から、来年度に必要なものをやってもらいます。
前倒し・後送りは、局で判断してもらいます。
これは、平成25年度から、もう7~8年やっています。

【C市】
公共施設マネジメント全体だと金額が大きすぎて、目標値を定める際に、そのまま更新することは難しい状況だと思います。
それぞれから出てきた計画に対して、財源不足が発生する場合があると思いますが、それをどうするかの議論を別途したのでしょうか。

【今村さん】
福岡市の中で議論されていることはないです。
というのは、福岡市はまだ成長途上にあるので、都市を縮小していくことの議論がまだ始まっていない状況です。
概念としては、都市が縮小して人口が減っていくと、当然、サービスも縮小していかざるを得ない。
どのサービスを残し、どのサービスを捨てるのか。
これは、市民全体で議論しなければいけません。
福岡市の都心部で、いくつかの小中学校を統廃合しました。
これは、少人数よりも、クラス替えのある複数学級にすることで教育環境を向上させることが目的でした。
これを説明し、地元の納得を得た上で、4校を1校に、3校を2校に、と統合を進めました。
サービスが細っていったときは、ある程度集約しなければ、それぞれのサービスが薄くなり、市民にとってかえって不便になります。
それを行革だけではなく、それぞれのサービスについて丁寧に説明することが大事だと思います。

続きは次の記事へ

**********************************

ありがとうございます!