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金亀換酒-定野司の読むだけで使ってはいけない金言名句集

仕事で松山市へ出かけるときは同じホテルに泊まります。
朝食をとるとき、レストランの大きな窓に面したカウンター席に座ると、ちょうど正面に、勝山(標高132メートル)の山頂に立つ松山城が見えるからです。

江戸時代以前からの天守が現存しているのは、松山城を含め全国に12城しかありません。
別名、「金亀城」(きんきじょう)。
仕事が無ければ、この景色を肴にお酒をいただきたいところですが、それは叶わぬ夢。
そこで、12天守を並べてみました。
弘前城(青森県)、松本城(長野県)、丸岡城(福井県)、犬山城(愛知県)、彦根城(滋賀県)、姫路城(兵庫県)、松江城(島根県)、備中松山城(岡山県)、丸亀城(香川県)、伊予松山城(愛媛県)、宇和島城(愛媛県)、高知城(高知県)。
なぜ、「天守閣」でなくて「天守」なの?
「天守閣」というのは江戸時代後期になってから生まれた俗称で、「天守」が正しく、しかも、天守には数種類あって、大阪城などは復興天守、名古屋城などは外観復興天守と区別され、12天守(現存天守)は建造された天守が残っているという点で「別格」なのです。
海に囲まれた四国が海運の要衝であり数多く城が築かれたこと、そして、太平洋戦争の空襲被害が比較的少なかったことが、四国に4つの現存天守を残しました。

その奇跡の松山城(伊予松山城)ですが、12天守の中にある「備中松山城」のように、同じ「松山城」が全国に11城もあるというではありませんか。
せっかくなので、11城を並べてみました。
松山城(愛媛県松山市)。
以下、みんな「松山城」なのでお城の名前は省略します。
岡山県高梁市、宮城県大崎市、山形県酒田市、福島県須賀川市、埼玉県吉見町、千葉県匝瑳市、奈良県宇陀市、島根県江津市、福岡県苅田町、鹿児島県志布志市。
松山城の別名になっている「金亀城」も全国に3城ありました。
彦根城(滋賀県彦根市)は「こんきじょう」と読みます。
松山城(愛媛県松山市)と臼杵城(大分県臼杵市)は、「きんきじょう」と読みます。
どうやら、この「金亀城」という名称は、お堀の奥に金色の亀が住んでいるという言い伝えが由来のようです。
しかし、金色の亀が実在するわけではなく、金運が上がるという「銭亀」にしても、甲羅が小判型をしているところから「銭亀」と呼ばれているのであって、金色ではありません。

さて、「金亀換酒」(きんきかんしゅ)の「金亀」は、唐の時代の役人が身に付けていた亀の形をした金の装飾品で、役人の証であり、極めて価値の高いものでした。
それを「お酒に換えてしまった」というのです。
余程お金に困っていた?大酒飲みだった?
いいえ、官給品を横流ししてでも、「大切な友人」を「もてなす、もてなした」という意味です。
しかし、どんな理由があっても官給品の横流しは感心しません。
ヤフオクでは、次のような品物が出品禁止物に指定されています。

「警察、消防、公共交通機関、郵便・運送業者等の制服や警察手帳、公的機関の身分証など、身分を偽るために用いられた場合に個人の住居、公共の危険が発生する場所等への侵入を容易にする可能性が高いと当社が判断した物品等」

この官給品の横流しの話の元になったのは、唐の二大詩人のひとり、李白の五言律詩「対酒憶賀監詩序」(さけにたいしてがかんをおもうのじょ)です。
賀監とは、李白の才能を見出したとされる唐の役人であり、詩人でもあった、賀知章(ガチショウ)のことです。
金亀をお酒に換えて、ご馳走したのは賀知章で、ご馳走になったのは李白です。
 
 四明有狂客 風流賀季真
 長安一相見 呼我謫仙人
 昔好杯中物 翻為松下塵
 金亀換酒処 却憶涙沾巾
(和訳)
 四明山に変わった人がいる。それは、風流人の賀知章だ。
 長安で一度合ったが、私を仙人と言ってくれた。
 賀知章は酒好きだった。その賀知章は、今は墓の下だ。
 金亀を売って、酒を飲ませてくれた。
 酒を飲むたびに思い出し、涙を流さずにはいられない。
 
このことからお分かりのように、李白は相当の酒豪だったようです。
唐の二大詩人のもうひとり、杜甫は李白のことを「李白一斗詩百篇」と「飲中八仙」の中で詠っています。
この「飲中八仙」とは8人の酒豪のことで、もちろん、賀知章も李白も含まれています。
一斗とは18リットル、一升瓶10本ですから、どれだけ飲んだのか?
日本とは違い、中国で一斗は10リットル。いや、唐の時代では6リットルくらいだったと言われています。
それにしても、ワインのボトル8本はすご過ぎる。
 
李白一斗詩百篇
 長安市上酒家眠
 天子呼来不上船
 自称臣是酒中仙
 
皇帝に呼ばれて参上できないほど酔いつぶれていたのに、自分は「仙人」だと豪語する。
それでいて、何ら処分を受けた様子はありません。
それは、李白の得た官職が正規ではなかったからのようですが、僅か2年で退職することになったのは、酒癖が悪かったからだという説があります。

話を「金亀」の亀に戻すと、思い出すのは久須美酒造の「亀の翁」です。
漫画「夏子の酒」(1988~1991年 尾瀬あきら)のモデルになった、あの幻の酒です。
正確には、「亀の尾」という酒米を復活させ造ったお酒の一種です。
「夏子の酒」は、1994年、和久井映見の初主演で連続ドラマになりました。
当時、なかなか入手できない貴重なお酒でしたが、仕事を終えてから三鷹のお店まで出かけて飲ませていただいた記憶があります(笑)。

最後に、話を「松山」に戻すと、松山へは仕事の往復だけで、松山城に登城したことがありません。
いつも目の前にあるのに~
次回は、お酒をいただく前に、登城したいと思います。

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