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Lo Moon 『I Wish You Way More Than Luck』(2024)

7/10
★★★★★★★☆☆☆


Talk TalkPeter Gabrielに影響を受けた丁寧で上品なインディアートロック。この手のバンドは2024年も一定数いてどのバンドも知的なサウンドを作っているが、その中でもこのバンドの完成度の高さはデビュー作の時点から圧倒的に抜きん出ている。

音は1st, 2ndとほとんど変わらない。主張は強くないが多彩な音色を使い分けるドラム/打ち込みと基本に忠実なベース、その上でシンセ、ピアノ、コーラス、サックスが柔らかく夢のような叙情を繰り広げる。キャッチーなボーカルメロディも過去作では魅力だったが、本作ではその役割の比重が減り、よりサウンドの構築美、洗練、躍動、トータルデザインを優先した作りになっている。世に蔓延る安易な癒し系/感動系とは完全に一線を画す、細部の意匠まで徹底してこだわり抜かれたプロの芸術作品という趣がある。

アップテンポでキャッチーな#2”Waiting A Lifetime”, #5”Water”だが根底には浮ついたところのない思慮深さがある。#1”Borrowed Hill”, #4”When The Kids Are Gone”, #7”Mary In The Woods”などはまさにTalk TalkSpirit Of Eden』チルドレンともいうべき繊細で丁寧な音作りがされているし、同時に自然な盛り上がり・躍動感も見せる。#6”Day Old News”はカントリー風のシャッフルするリズムとスライドギターが意外性に満ちているが、しかしやはり彼ら特有のドリーミーな音作りが前提となったもの。#8”Evidence”は一緒にライブもしていたThe War On DrugsのようなBPM110越えのタイトな8ビートが途中から走り出し、更にハイハットが8分を叩き出して加速していく、アルバムのクライマックス。礼拝堂の雑踏の音声を用いた#9”The Chapel”を挟み、最終曲”Honest”はピアノの弾き語りで、ストリングスも交えこのバンドらしく上品かつ丁寧にアルバムを締める。

…他のバンドと比べるのは野暮ではあるが、Coldplayが3rd『X&Y』の後にTalk Talkにかぶれていたらその世界線では4thアルバムとしてこういう作品を『Viva La Vida』の代わりに作っていたかもしれない、そんなイメージが湧いた。

音楽には大きく愚別して二種類あると思う。現代社会で生きることに付きまとう苦悩や権利を訴えるものと、現実とは全く異なる世界を音によって作り上げそこに浸るものだ。メインストリームの音楽は前者がほとんどだと思うし、後者は「インディ」「オルタナティヴ」とまとめられ、脇に置かれることが多い。

しかし私は、俗世間からかけ離れた芸術本位の世界を提示してくれる後者の方を断然愛している。いつの時代にも、メインストリームのポップシーンと距離を置いた音楽にこそ隠された美が存在するし、それに出会う喜びを私は幸運にも知っている。本作はそんなリスナーの欲求に応えてくれる作品だ。

Water”のインストアライブ。ボーカル・ベース・ドラムは洗練された見た目なのにギタリストだけ90年代UKロックバンド風ファッションなのが面白い。



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