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【コンサル物語】会計士誕生の歴史①〜19世紀イギリス〜

 今でこそBig4コンサルとしてコンサルティング業界で確固たる地位を築いているBig4各社(Deloitte・PWC・EY・KPMG)ですが、会社としての始まりをたどっていくと19世紀のイギリスにさかのぼることになります。この時代に会計士という職業が誕生し、ロンドン市街に構えたいくつかの個人事務所は、後々数十万人を抱える巨大組織(Big4)へと成長していきます。そこで数回に渡り、19世紀のイギリスで会計士が誕生した背景や当時の会計士の実態を紐解くことでBig4が誕生した歴史に迫りたいと思います。

 そもそも19世紀イギリスとはどのような時代だったのでしょうか。イギリス史、会計史に関する本をまとめるとおよそ次のようなことが書かれています。

 産業革命を経たイギリスでは様々な製造業が発展していたが中でも鉄道産業、鉄道会社の誕生は経営・会計という観点において大きな影響を与えた。何しろ扱う資金はこれまでの産業とは桁違いで莫大な金額であり、しかも鉄道という事業の特性上、初期投資に莫大な資金が必要な産業だったのです。そのため、当時のイギリスの鉄道会社は高い配当率を約束した株式を投資家に買ってもらい、株式会社として経営するところが多かった。

 1830年に乗客を乗せた最初の鉄道がマンチェスターとリバプール間で開通したのを皮切りに、鉄道は大発展をとげ20年後には9700㎞、30年後には1万6000kmもの区間が開通していた。会社も大規模化し1850年時点で最大の鉄道会社であったロンドン・アンド・ノースウエスタン鉄道には他に類を見ない1万5000人もの従業員がいた。投資家から莫大な資金が投じられるようになり、投資家に事業の成果を報告することが求められた。また潜在的な投資家を呼び込むためにも財務資料の整備と開示が強く求められるようになったことは想像に難くないだろう。

 一方で巨大産業となった鉄道会社の会計は複雑化し、投資家でさえ会社の経営や収益構造が良くわかっていなかったようだ。会計は複雑化しているにもかかわらずコントロールする法律や規則がないため、鉄道会社から報告される内容は必ずしも正しいものではないことがあった。特に1840年代にイギリス国内全体の不況の影響と合わせ鉄道会社の業績が下向きになってくると、鉄道会社の中には帳簿をごまかし不正会計に手を染めるところも出てきた。

 鉄道以外に目を向けてみると、イギリス国内では株式会社ブームが起こっていた。実はイギリスでは1720年から約100年間、法律により株式会社の設立が国王の許可制になっていたため株式会社の数が激減していた。1825年にこの法律は廃止され、そこから会社設立ラッシュが続いた。当然のことながら全ての会社で事業がうまくいくことはなく、途中で破産に追い込まれる会社も出てくる。設立会社が増えるに合わせ破産する会社も増え、1817年には2311件だった倒産件数が50年後の1869年には5倍の1万396件にまで増えていた。多くの倒産会社で破産業務の要求が増えてきていた。

主な参考文献
『会計学の誕生』(渡邉泉 著)
『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール 著 村井章子 訳)
『バランスシートで読み解く世界経済史』(ジェーン・グリーソン・ホワイト 著 川添節子 訳)

 このように19世紀のイギリスでは、鉄道会社のような巨大で複雑化した会社の帳簿を正しく財務報告すること、粉飾決算を見逃さないこと、増加する会社倒産の破産業務を担えること、そのような会計の専門性が求められるようになりました。それは会計士という職業の登場を待つ状況でした。そしてイギリスには会計士と名乗る人が一人また一人と現れ会計業務を専門的に行い始めたのです。

 イギリス政府も帳簿や会計に要求される変化をくみ取り、無法地帯だった会計分野にルールを適用することで会計士という新しい職業を法律の面から後押ししました。その一部をご紹介します。

1831年 破産法
政府ははじめて会計士という職業を認め、商人、銀行、会計士、貿易商だけが破産を管理することができると定めた

1844年 株式会社法(登記法、会社法)
・企業財務に関する規則が定められ、専門教育を受けた会計士が監査を行うようになった

1856年 改正法
・具体的な貸借対照表のひな形が例示された

1862年 会社法
株式会社の設立時、事業活動期、解散時と、あらゆる段階で会計士が必要とされることとなった

 関連法が整備されることで会計士の需要は高まり、職業として確立されていきました。その結果、会計士を目指す人が増えていったのでしょう。実際、ロンドンでは会計士が大幅に増えており、1799年にわずか11人だった登録者が1860年には300人以上(27倍)に増えていましたが、そのほとんどは1840年以降に登録した人達でした。会計事務所自体も1811年には24ヶ所しかなかったのが、1883年には840ヶ所(35倍)に増えています。ウイリアム・デロイト会計事務所(1845年 後のDeloitte)、プライス・ウォーターハウス会計事務所(1849年 後のPWC)、ウィリアム・クーパー会計事務所(1854年 後のPWC)のように20世紀にBig4として巨大な組織になっていく会計事務所もこの時代のロンドンで小さな個人事務所として誕生しています。

 新しい会計業務と会計士という職業に対して、国は法律を制定することで発展を支える結果となりました。19世紀にイギリスで誕生した会計士は20世紀を前にして各国に渡って行きます。その一つアメリカ合衆国に渡った会計士達は20世紀に経営コンサルタントという職業を新たに生み出していきました。


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