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「光る君へ」メモ 第11回「まどう心」妾なんて耐えられないまひろ、ますます好きになった

すごいねー。先週、あんなにも一途に、何もかもかなぐり捨ててまひろをかき口説き愛を語っていた道長が、一週にして急に現実的家父長制を内面化して「妾になれ」と迫り、断ると激怒するんだもん。

この豹変には説得力がある。なんたって、道長とまひろが結ばれるのとほぼ同時に「寛和の変」こと花山天皇(本郷奏多)を退位させる陰謀事件を描いたのが効いてる。

事件のあと、行成が道長を見て「顔が変わったような‥‥」と言う。
当然、道長がまひろと結ばれ大人になったことを示唆しているんだけど、そこには苦みが付随してるんだよね。

結局、都を捨てず、右大臣家の三男であり東宮の叔父であることも捨てず、それどころか父・右大臣兼家の陰謀に加担した。
女にも政治にも関心の薄い、のんびり三男坊の道長はもういない。

大人になるって、イノセントを失うということでもある。

公任たち朋輩に陰謀の内幕を隠し、新帝の玉座に置かれた生首を処理して隠ぺいする道長。
泣きじゃくり、泥まみれになりながら直秀を葬った彼が、無残に扱われた骸を「鴨川に捨てよ」とすげなく処理し、他言すれば命は無いぞと近習たちを脅す。

道長の性格上、苦もなくそういうことをやれるほど(少なくとも今は)タフでもダークでもなく、そうやって“己の宿命を受け容れ”ようとしているのは、「まひろが望んだことだから」と言い聞かせている部分もあるんだろうね。
出世欲も権力欲もない道長には、本来、右大臣家の繁栄のために汚れ仕事に手を染めるモチベーションがないわけで。

そのうえ、まひろの家の窮状にも心を痛めている。
花山帝を退位させる陰謀の成功は、まひろの父・為時の失職につながった。しかも、父はまひろをにべもなく追い返し、あまつさえ「虫けら」呼ばわり。
「妻(=妾)になってくれ」には、その罪滅ぼしの意味合いも含まれている。
右大臣の三男の妾になれば、きつい水仕事なんかする必要はなくなるのだ。

このシーンの前に、宣孝や倫子とのシーンがあったのもうまいよねー。
「生活の糧? 婿をとればよいではないか」
「妾としてならいくらでも需要がある」
「自分にも幾人かの妾がいて、平等に慈しんでいる。文句を言う女はいない」
「それが男の甲斐性ってもの。男を信じろ」

打毬のあとの公任たちの雑談の裏返しで、男が身分の低い女を妾にして恋愛を楽しんだり癒しを求めるなら、身分の低い女のほうは男の経済力をあてにする、それでwin-winじゃん、って話。
貴族社会のセーフティネットにもなっている。
寧子(財前直見)のように、強い夫をテコに我が子の出世を望む女もいる。多くの男女が「モノ(システム)は使いよう」と割り切って、妾をもったり妾になったりしているわけです。

道長にしてみたら、世間のシステムに則ってまひろを妾にすれば、一緒にいられるし、大手を振って経済的援助もできるし、一石二鳥。これ以上ないソリューションなんだよね。

人間にはそれぞれに社会的な所与の条件があり、その中でわきまえつつうまくやる者が賢いとされる。
まひろを気にかけ心配しつつも、身分の差を決して超えることはない倫子なんてその最たる例かもしれない。

そんな宣孝や倫子を、狡猾な小人物としてではなく、実際に賢く、しかもすこぶる良い人として描く脚本が良いなーと思ってるんだけど、それはおいといて。

「妾になってくれ、覚悟を決めてくれ」という道長の言葉の裏には、「自分も覚悟を決めたのだから」という思いがあるんだろう。

上に行くために何でもすると覚悟を決めて、やりたくない汚れ仕事にも手を染める大人になった。それはそもそもまひろの望みなのだからおまえもイノセンスを捨てて大人になれ。きっとそう思ってる。だから、「妾は嫌だ」と言うまひろが幼く身勝手に見えて苛立ったんだろう‥‥

それにしても、「二人で駆け落ちしよう、何もかも捨てて」の舌の根も乾かないうちに「妾になれ」「勝手なことばかり」って、極端だよね。

人間、苦しい時ほどそういう「ゼロかイチか」「二者択一しか道がない」みたいな思考に陥りがちだし、現代人への批評っぽくもあるなーと興味深く見てました。

「北の方にしてくれるってこと‥‥?」という、まひろの最初の返答が悲しい。「生きていくのは悲しいこと」「人は悲しくてもうれしくても泣く」なんて、達観しているようでも、まだ子ども(10代だよね?)。
しかも、道長が好きで人間性を信頼してるし、生活は困窮してるしで、一瞬夢を見ちゃったんだよね。

でも、ここまで書いてきたいろんな前提があるからこそ、「そんなの耐えられない」と拒むまひろ、大好き! それでこそ主人公だよ!!!

駆け落ち(現実逃避)、妾になる(現実をまるっと受容)、どちらも選ばない。
直秀の死を「しょうがない」と思えないし、好きな男の数多くの妻妾の一人になるのも耐えられない、それが人間ってもんだよ!!!

「鳥辺野で(直秀を葬りながら)泥まみれで泣いている姿を見て、以前にもまして道長様のこと好きになった」とまひろが言ったように、かんたんに現実に妥協せず、結果、道長にひどいことを言われて去られ、苦しい涙を流すまひろの姿を見て、ますます応援したくなった。
まひろと道長以外についてはまとめて別稿でメモしたい!(んだけど時間が‥‥)

2024.3.21 wrote


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