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勝手に月評 新建築2019年12月号


今月号は、約15年間にわたり渋谷の再開発に関わってきた内藤廣氏岸井隆幸氏による建築論壇“都市をつくる”からはじまり、作品も都市を再開発していく中での中核となる施設を中心に17題取り上げられています。

建築論壇“都市をつくる”ですが、はじめの話として、小泉内閣時代の2002年に施行された都市再生特別措置法により超法規的な容積率緩和が起こり、各都市で都市再開発への機運が高まったことにより、各地で再開発の議論がされるようになりました。

渋谷においては、2000年前後には地下鉄13号線(2008年開通の東京メトロ副都心線)のための都市開発の動きであったり、東急東横線との相互直通運転の可能性などの背景がありました。その中で、2005年12月に渋谷駅周辺地域が、国の都市再生緊急整備地域に指定され、再開発への動きが本格化しました。最初は丸の内で行われているような再開発の後追いのようなものとなっていたため、そうではなく、二方らは渋谷には渋谷らしい再開発が必要であると、デベロッパーや鉄道会社へ根気強く訴え続けて今回の再開発へと繋がっています。

都市再生特別措置法では、超法規的な容積率緩和を軸とする法律ではありますが、渋谷という街、つまり複数の事業者、宮益坂、道玄坂などの商店街からなる多様な人々が暮らす場所では、単純に都市全体の容積率を増やしても地域の活性化には繋がらないと考えました。

計画としては、渋谷の地形特性を活かし、駅周辺を行き来できる歩行者デッキである“スカイウェイ”、そして出来上がったネットワークの結節点となる“アーバン・コア”を設けることで、移動する人々を可視化することで、活気づく“渋谷らしさ”をデザインできないか、という方針になりました。

筆者の感覚として、やはり渋谷はグラウンドレベルの街であるという感覚があります。例えば渋谷ストリームでは、再開発に伴う巨大な建物でありながらでも、あくまで渋谷の地続きの部分を大切にされている印象を受けました。また、渋谷駅周辺のネットワークをつなぐアーバン・コア(ヒカリエや渋谷ストリーム、渋谷スクランブルスクエアの低層部に設けられる駅と接続した空間等)は、岸井氏が語られているように、存在が非常に分かりやすくなるようにデザインされていて、読んでいてなるほどと感じました。

良くも悪くも、ごちゃごちゃしていて分かりづらいことが渋谷らしさだと感じていて、その悪い部分を少しだけ整理して、良い部分を大胆に表現することに成功しているのではないか、ただ、事業者としては収益の得られる低層部をまとめて公共空間にしているため、デザインとしての成功と、開発としての成功はまた違った結果になるかもしれません。

また、マスターアーキテクト方式(内藤氏が言うには事業者と建築家のお見合いのようなもの)を採用したことで、ファサードから素材感まで、良い意味でバラけている印象がありました。また、街の中心部に建築家らのデザインが林立するというのは、今までの日本の都市には見られなかったものだと感じました。

最後に内藤氏の言葉からの引用で「建築家はスーパーマン的に立ち振る舞うのではなく、よいチームをつくろうとする強い意識を持つ必要がある。つまり、建築だけでなく、街のいろいろなことに考えが及び、ある程度は理解できるようになることが重要です。」という言葉には非常に共感しました。つまり建築家の、様々なプレイヤーたちのことを理解し、道筋をつくるプロデューサー的な役割を強く意識した方が良いという意味で私は捉え、そのことは都市を考えることだけでなく、建物を設計するときにも大いに考えなくてはならないと、そう感じました。


その中で渋谷スクランブルスクエア第I期(東棟)をどう見るか、ここまでの論壇を読めば、恐らく注目するべきは低層部の公共空間やアーバン・コアであろうと考えられます。

ランダムな縦スリットは渋谷という街のスケール感の呼応のようなものであり、具体的な方法はどうであれ「高層ビルのファサードをある規模のボリュームに分節しているように見せる」方針というのは渋谷ヒカリエや渋谷ストリームにも共通するデザインコードだと読み取ることができます。

建設される以前のイメージパースを見ていると、ファサードをえぐり取るようなデザインが一体何のためにあるのかが想像できませんでしたが、あの部分はアーバン・コアとして機能している空間で、ファサードからえぐり取られることで表出する人の動きを可視化し、アーバン・コアとして人々に分かりやすく存在を示すことというコンセプトに対してしっかり答えたデザインが、あのようなファサードを生み出していることが分かります。

渋谷スクランブルスクエアだけでなく、ある都市再開発に応じた建物を見るときには「今あるコミュニティの保護と、新しくどう人々を引き込もうとしているか」「ある再開発のテーマがあるときに、建物がそのテーマにどう分かりやすく建っているか」このことを見る必要があるなと個人的には感じました。派手な建物という話ではなく、土地の特性と交通のインフラを読み込んだうえでのアイコン的建築は、再開発の勝ち負けを決める大切な要素であると感じています。


そして、日本橋室町三井タワーCOREDO室町テラスでは、低層部にかなり大きな公共空間を設けている建物となっています。

発注元である三井不動産が進める官民・地域一体となった「日本橋再生計画」のひとつであり、そのプロジェクト自体が、親水空間であったり広場空間を大切にしているものとなっています。

まず、低層部の計画に関して、高層部の存在をなるべく感じさせないように、広場の屋根の計画であったり植栽の計画に取り組んだと感じました。加えて周辺地域への電気・熱を供給するエネルギープラントとしての機能も持っており、目に見えないところでもネットワークを作り出すことによって、より街区同士のつながりや関係性が見えやすくなっているのかなと感じました。


東岡崎駅周辺地区整備北東街区有効活用事業 OTO RIVERSIDE TERRACEでは、東岡崎駅に接続するペデストリアンデッキ(藤村龍至氏のデザインコーディネート)からつながる複合商業施設です。

岡崎市の157Haを対象とした乙川リバーフロント地区整備事業というプロジェクトの、現段階で緑地の整備や商店街の空き店舗改修など行われているなかで、駅周辺の開発プロジェクトとなっています。本プロジェクトでは乙川に向かって建築を開くことをコンセプトとしていて、またそのような建物とはどうあるべきかとシンポジウムやデザインシャレットなどを重ねて生まれたものとなっています。

ここでは藤村龍至氏が街と社会をつなぐ建築家として様々な取りまとめを行っており、ここでの活動は、多少の違いはあれど、内藤廣氏日向市でのまちづくりで取り組んでいたものと重なりました。(藤村氏の方がいい意味でドライで、内藤氏はウエットな印象ですが。)

こういった、建築家が社会や街とどう関わるのかというスタンスは今後様々なパターンが見られていくのだろうと1年を通して感じました。


また、ICI CAMPでは、原田真宏氏による「完成」から「プロセスへ」というテキストに共感を覚えました。

建築や都市において「全く、成る」という状況は成り立たないのではないか、それだったら、建物をプロセスの一部としての立ち位置とすることがこのプロジェクトの肝となっています。

築50年弱の廃校を改修し研修棟と宿泊棟とし、木のえんがわと呼ぶ木と鉄骨の混構造でできたホールなどの多目的空間となっています。特に改修部では、「竣工しない」ようにデザインしていて、これは利用者のイメージによって部屋をアップデートしていくことを許容するためでもあります。これは先月11月号で語られていた、建物を開かれたプロセスとし、改善改良型の建築の在り方でもあると感じました。加えて、前田建設工業がこういったオープンなプロセスを持つ建物に関わることに意味があると感じていて、外部の建築家とのコミュニケーションによってゼネコン設計部が新しい方向に向くことができるのではないかと可能性を感じた作品だと思っています。

一年を通じた感想として建築家たちが社会にどうコミットしていくのか、という問題意識を持った小・中規模の作品と、主にデザインビルド方式で建設されたオリンピックへ向けた大規模建築や、都市開発に応じた高層建築という潮流があるような気がしていて、どこか同じ方向を向いていないように感じました。どこでその2つの流れが利害一致し、同じ方向を向けるのか、もしくはお互いにかみ合わないまま走り続けるのかは分からないですが、私としてはICI CAMPで起こったようなコラボレーションが出続けていくと良いのではないかと感じています。


久木元大貴


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