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勝手に月評 新建築2019年9月号

今月号は,先月の集合住宅特集と比較すると大規模な作品が目立ちました.前半では開催を来年に控えた東京オリンピック関連施設が作品として取り上げられ,後半の作品群もエネルギーのある作品となっています.また,他の特徴としてゼネコンが実施(基本)設計から入り,そのまま施工を行うデザインビルド方式で建設された作品が多くなっています.


表紙にもなっている東京オリンピックのメインスタジアムである新国立競技場は,思い起こすと今開催されているラグビーワールドカップでこけら落としされるはずだったという話を思い出します.


オリンピック関連施設では,デザインビルド方式で建設されているものが多いです(今月号の中では新国立競技場整備事業,東京アクアティクスセンター,有明アリーナ,有明体操競技場,HARUMI FLAGなどがデザインビルド方式となっています).新国立競技場のザハ案が一度流れ,彼女が再度コンペに挑戦する際も“組む施工会社がいなかった”ために参加を断念した,という話もまた思い出されます.

今回のオリンピック関連施設の建設では,多くのパターンが大手組織系設計事務所(基本設計)+大手ゼネコン(実施設計・施工)か,アトリエ系設計事務所(基本設計or(and)デザインアーキテクト)+大手組織系設計事務所(基本設計or(and)実施設計(監修))+大手ゼネコン(実施設計・施工)
という体制となっています(なかなか複雑です).

とはいえ,私が新建築を読みだしてからまだ日は浅いですが,それでも月に1作品はそのような体制で建設された作品が掲載されているイメージがあります.

このような設計体制というものは,以前からも多くあった体制ではありますが,東京オリンピックという大きな行事で採用された方式であるので,成功とみなされれば今後積極的に採用されていく方式であろうと考えられています.


デザインビルド方式というシステムを今一度考えてみると,設計という行為の分業化が,ヨコ(意匠・構造・設備)だけでなく,タテ(デザインコンセプトから基本設計,実施設計までのプロセス)にもコマ切りにされ,専門化されていくイメージがあります.つまりここではそれぞれの分野のスペシャリストが必要とされている体制になります.


逆を言えば,それらの専門化されたデザインを統合するためのアーキテクトという存在が何となく分かりづらいなあと思うことがあります.個別の専門性はのり付けされているだけで,完全に接着(統合)されていないといえば良いでしょうか.つまりデザインすることの責任がすごくわかりづらくなっていて,ここがデザインビルドの問題だと思っています.


近年ではBIMなどの普及により,設計事務所側から施工方法の詳細な提案が可能になってきています.ここでお互いに仕事の領域が重なり始めていることも事実で,このことに関する記事を読んだりすると,それを対立的な構造として読む人もいれば,コラボレーションの期待を込めて読む人がいます.私個人としては,後者として読んでいきたいと考えています.


その読み方を前提に,各作品について見ていきます.


先にも書いたように,今月号に掲載されているオリンピック関連施設は,ゼネコン主導によるデザインビルド方式が取り入れられています.そのため,施工方法がかなり具体的に記述されていることが特徴となっています.もちろんそのほとんどは工期を短縮とコストを低減しながら品質を保とうとするアイデアとなっています.

新国立競技場整備事業では,外周に張り巡らせた木目調塗装されたアルミルーバーと,内部の大屋根では鉄と木のハイブリット架構を採用し,主構造となる鉄骨は白く塗り込まれることで存在感を消し,徹底して木の存在感を表現しようとしたものでした.

木を利用する以外の空間のほとんど,観客席とそれを支えるレイカー梁と,スタジアムの基礎部などをPCa化することでシステム化を行い工期の短縮を図っています.内装の様子はまだはっきりと伺えませんが,木材を多用しているとのことで,更に観客席も木漏れ日を意識したモザイク状とすることで,PCaによる躯体の無表情を取り除こうとしているように感じました.

東京アクアティクスセンター有明アリーナで驚いたことは,作品に関するコメントが匿名であったことでした.内容に関しては,鉄骨トラスで支えられる無柱の大屋根空間の施工方法であるリフトアップ工法と,工事空間を有効に使うためにサブアリーナを先行で施工して,そこを作業構台(トラベリング構台)にするトラベリング工法についてでした.

ここでは作品のデザインに対して誰が先頭を切って語るのか(つまりデザインの責任を誰が負っているのか)が難しかったのかなと感じました(これは邪推かもしれません).

一方有明体操競技場では日建設計による木の器という基本構想を,実施設計でいかに実現させるか,という関係となっていました.このことは,実施設計の全体の監修を行なっていたことも理由ではないかと感じました.前2作品では基本設計を行なっていた設計事務所が実施設計アドバイザリとして参画していましたが,実施設計監修と実施設計アドバイザリはどのように立場が異なってくるのでしょうか.ただネーミングの問題なのか,実際に業務として異なるものなのか,個人的には気になるところであります.

他にデザインビルドの作品として,国家公務員共済組合連合会 虎ノ門病院読売並木通りビルが掲載されていました.いずれも都心に建つ大きなプロジェクトとなっています.

どちらのプロジェクトでも気になったことは,基本設計者も実施設計者もプロジェクトの大まかな説明をしていることです.虎ノ門病院では基本設計者がコンセプトデザインの説明を,実施設計者が建築計画の説明をしており,読売並木通りビルでは基本設計者も実施設計者もコンセプトデザインから建築計画にかけてのコメントをしていました.

私のイメージではもっと,基本設計者がおおまかなコンセプトデザインと建築計画について,実施設計者が細かな納まりの検討について語ると感じていました.このことは先の東京オリンピック関連施設の建設と話が繋がっていくのですが,どうもイメージしている基本設計と実施設計との関係と実情が随分と違うのではないかと思いました.実際私が実務にもっと関わっていくといずれ明らかになるでしょうが,例えば学生たちにこの関係を雑誌の中だけで読み取ることはできないだろうなと思いました.いずれ分かれば自分なりに書き起こしたいと思っています.

デザインビルドの話は終わるとして,他にも済寧市美術館L’Arbre Blanc,サーペンタインパヴィリオンといったエネルギッシュな海外作品が今月号には掲載されています.

済寧市美術館では,引きで全景を見たとき,見事に背後にある湖と風景が一体化して見えるところに感銘を受けました.そして内部に使われている地元の煉瓦も,場所の雰囲気を感じさせるものとなっています.また詳しい記載はありませんでしたが,敷地のうち多くを公園として使っており,ランドスケープやフォリーの設計も積極的にされているようでした.

加えてL’Arbre Blancですが,南フランスの温暖な気候と人々の多くが外部空間で過ごすライフスタイルをくみ取った結果,バルコニーが建物外周に張り付くような,ある意味根本的なアイデアからかたちになったものです.写真を見ている限り,バルコニーはかなり気持ちよさそうで,住民同士の距離感も遠すぎず近すぎずとなっているようでした.日本でやるならば,と考えるのは野暮でしょうが,なかなか日本でこの形式を実践することは難しいように思いました(良い悪いではなく,国のライフスタイルの問題として).このような形式の発明は大変意義があり,今後の展開が気になると感じました.

サーペンタインパヴィリオンですが,300mm~400mm,厚み50mmのスレートを一枚ずつ葺くことで大屋根を架け,それを106本の柱によって支えられる大空間となっています.石がそのまま隆起してきたような,はたまた人間の為に作られた空間ではないような,そんなことを感じました.

ここ最近では,目を引く大きなプロジェクトのほとんどが海外のものでした.今月号では国内でも特に大きなプロジェクトが掲載された月でしたが,デザインビルドの是非や,今後の縮小社会において巨大建築や,開発がどのように変わっていくのか,むしろ祭りの後に起こる問題点が見えてきたような気がして,このテキストが書き終わるころには気が引き締まる思いがしたところで,今月の月評を終わりたいと思います.

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