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【コラム】共通価値の創造(CSV)をアクセサリーブランドを通して知る

ある日の友人夫婦の会話

10年前、結婚したばかりだという、ある友人の夕食に招待された。その時の友人は新婚だけに、お医者様だという旦那さんに脇目もふらず甘えていて幸せに溢れていた。

「ハニー、次のバースディは、ダイヤがもう1つ欲しい~」

「この間あげた結婚指輪で、充分ダイヤがあるじゃないか~」

私はちょっと友人にあきれて(し、失礼)、一人よろしく、サーブされたスープを一人で啜りながら2人の会話を聞いていた。

そして旦那さんは、一言こういった。

「ベイビー、知ってるかい?鉱山でダイヤを見つけている人たちの収入は2ドルだってこと。」

友人は旦那さんの言葉を無視しながら、友人のルイーズは、誕生日に何カラットのリングをもらったのだの、テレサはルビーのネックレスをもらったのだの、ぶつぶつ言っていたが、私はスープから目を彼女の旦那さんに移し、2人を見つめていた。

「僕はそれを聞いてから、ダイヤは2度と買う物か、と思ったんだよね。まぁ、僕がつけるわけじゃないけどね、ははは。」

友人はキッチンに移動していたが、旦那さんは一人でそう話していた。

正当な賃金形態と就業機会を追求するブランドに出会って

以前、私は3年前に出会ったシンガポールのジュエリーブランドを記事にしたことがある。

そのうちの1つのブランド『Eden+Elie』は、世界中の質の高いビーズを使い、熟練された職人の技術が光るジュエリーブランドだ。シンガポール航空の機内販売アイテムとしてセレクトされたり、大使関連のパーティがシンガポールで開催された際も、安倍元首相夫人を始め各国要人ご婦人にも注目を集めたブランドでもある。

もう1つのブランドはWoonHung。フィリピンに多く育つ優しい色を持った木材をうまく生かしたアクセサリーブランドだ。

私がこれらのブランドを知り、更に好きになった理由は、昨今気になっているテーマを真剣に受け止めて、具体的に活動として落とし込んでおり、そこに真剣な着眼点をもって会社を運営しているからだ。

Eden+Elieのジュエリーは、シンガポールの自閉症の方達のコミュニティーにアプローチ、彼らの巧みな技術力で製品を美しく仕上げている。

「以前は人生に意義を見出せなかったコミュニティーの皆さんが、Eden+Elieを通して素敵な製品を作成してくださり、ご自分の作った製品が店頭で売られているのを知って、本当に嬉しい、とご両親に話され、そして人生を楽しんでくださっている。そして働くということに意義をもちながら、私達の製品を感動的なものに仕上げてくださっている。私はこのコミュニティーにずっと還元していこうと思っている。」

元建築家のEden+Elieのデザイナー、Stephanieさんは涙をこぼしながら語っていた姿が感動的であった。

WoonHungでは、フィリピン、セブ島の小さなコミュニティーで生産。以前から彼らは自由で奔放なデザインのアクセサリーを作っていましたが、デザインそのものはよくても、それこそ「無骨な」もので、イマひとつ「垢ぬけていない」ものが多かったそう。長年のデザイナー歴があるYvonneさんが、その彼らのデザインを洗練したもの、売れるものとしてディレクションし、商品として仕上げている。

「うちの製品は”意外に高い”と言われます。でも私は価格を安くして、ガンガン量を売るようなことをするつもりはないんです。」

安い賃金で生産者にものを作らせて利益を搾取するという考え方ではなく、自らもそのコミュニティに入り、皆でものづくりを行い、そしてそのコミュニティを活性化させる、そしてそれが貧困層となっている地域の経済自立性を高めることになると同時にYvonne さんのビジネスも拡大する、といったエコシステムの体系にこだわって物をつくっていきたい、と話されていた。

またWoonHungでは、WoonHung Miaシリーズというモデルも展開しており、このモデルの収益でフィリピンの小学校に寄付活動をしたり、台風で被害にあったコミュニティに還元しているという。

消費者である私には、何ができるのであろう

「消費者である私には、何ができるのかって考えてしまう」と言った私に、WoonHungのYvonneさんは、「こうやって購入してくれるあなたも、地域に貢献しているんですよ。」と言って下さった。しかし私はなんだかんだいって、少しでも安ければと思いながら購入していた1人の人間に過ぎなかった。

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しかし近年は、大量生産に疑問を思い始め、自分で選んだ物を長く使うようになったり、人がいらない、と捨てる寸前のものをいただいてリメイクして再び使ったり、生産者の気持ちを思いながら使うようにしている。こういう気持ちをもってアクセサリーに携わることも消費者として大事なのだと思う。

共通価値の創造を目指して

これらのブランドの出会いは、私に以前マーケティングの業務で出会ったMicael E Porterというアメリカの経営学者が提唱するCSV( Creating Shared Valueー共通価値の創造)を思い出させてくれた。業務で研究した割には、記憶の片隅におきっぱなしにする自分の意識の薄さに辟易してしまうが。このCSVは社会の課題に対し事業を通して解決していこうとする、新しい考え方で3つのアプローチを提唱しているのだが、そのうちの1つ、地域を支援する産業クラスターを作るという方法がある。

ある企業では労働者が搾取されたり、サプライヤーに適正価格が支払われなかったりするなど、生産が悪化することがしばしばあったのである。

特にこのアプローチを積極的に行っている有名なブランドは、食品ブランドNestle(ネスレ)やCocaCola(コカ・コーラ)である。コーヒー栽培をしているワーカーさんに、適切な栽培方法を教授したり、サポートを行い、以前よりもより質の高いコーヒー豆を生産できるようになったり、また水質が悪いベトナム田舎で、生産性のない仕事で稼ぎの少ない女性に、清潔な水を販売できるKioskショップを提供することで起業機会を与えるなど、様々な活動で貢献しながら、様々な地域で企業も販路を伸ばしている会社もある。

話はダイヤモンドから、CSVと壮大な話にまでなってしまったが、このテーマは常に忘れず、アクセサリーに接していく所存だ。本日は当方の誕生日なので、心意気も含めてこの話題を書いてみたのである。

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参考:CSV時代のイノベーション戦略 藤井剛 著



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