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僕らの地球②「菜の葉に飽いても・・・」

私は智恵利。

お婆ちゃんが名づけてくれた。

でも誰もそんな風には呼ばない。

「チェリー」って呼ぶんだ。

しかも、これも言い出しっぺはお婆ちゃん。自分でつけといて、あだ名も自分で決めちゃうんだから、なかなか勝手な人だと思う。私が大好きな人の一人だけどさ。

それから、今は説明のためにお婆ちゃんなんて呼んだけど、私だってそんな風には呼んでない。普段は真智子さんって呼んでるんだ。うちではお母さんのことも梨恵さんって呼んでるし。

わかりにくいよね。つまり私は、真智子さんの子の、梨恵さんの子の、智恵利ってことね。

二年前の夏、東京から真智子さんの故郷、ここ富士宮に引っ越ししてきたんだ。

真智子さんは学生時代に上京し、その後はずっと東京で暮らしていたのだけれど、二年前に家族で話し合って、みんなにとって良い環境をと考えた結果、真智子さんが少女時代に暮らした富士宮で一緒に暮らしましょうということになったんだ。

転校するとき、私はすごく泣いた。だって小さい時からの幼馴染で、しかも小学校で1年半も一緒に過ごした友達と別れるんだよ。いくら家族にとって良い環境になるからって、淋しかったよ。元気かな、塚本小のみんな。

でも、奇跡的に私は淋しさを引きずらずに済んだんだ。

こちらに来てすぐ、私には、桃子ちゃんという友達ができた。

桃子ちゃんのお婆さんはみづえさんと言って、こちらもお婆さんなんて言葉は全然似合わない。夏みかんみたいな感じの明るい人だ。伝わるかな?

みづえさんは真智子さんと幼馴染で、みづえさんのおかげで、近所のバリアフリーの大きな空き家を紹介してもらえたから、私たちは富士宮に引っ越しできたんだ。

そんなこんなで、引っ越して以降、みづえさん一家とうちの一家は近所同士仲良く行き来している。

 

引っ越して、二回目の春を迎えた今年は、はじめて盛大な花見食事会を企画し、今日がその当日なんだ。

ちらしずしを作ったり、お魚を焼いたりするんだって。

親たちが話したり、料理を作ったりしている間、桃子ちゃんと私はいつもの遊び場に出かけることにした。

近所の空き地が、私たちの遊び場なんだ。

シロツメクサの花で首飾りを作ったり。オオバコの茎を絡ませて引っ張り合いっこしたり。カタバミの茎を繊維だけ残して葉っぱをヒラヒラぶら下げて遊んだり。

今日は、桃子ちゃんと、四ツ葉のクローバーを探そうねと話しながら来た。

空き地に着いて、持ってきた水筒をクローバーの上に投げ出して、四つ葉のクローバー探しを始めた。少しの間探して、二人とも一つずつ見つけたころ、菜の花やタンポポの周りを、モンシロチョウが飛んでいるのに気づいた。

私たちは蝶々の歌を歌いながら、蝶々を追いかけ、一緒になって舞い踊った。

♪ちょうちょ、ちょうちょ

菜の葉にとまれ

菜の葉に飽いたら

さくらにとまれ♪

踊り疲れて、草むらに座り込むと、本当に菜の花に飽きたのか、蝶々が、クローバーの上に投げ出したままだった桃子ちゃんのピンクの水筒に留まった。

私たちは、蝶々を眺めながら、暖かな春の陽射しにうっとりした。

気づくと蝶々の姿は遠くに消えていて、桃子ちゃんが

「ねえお腹空いてこない?」と言いだした。

「そうだね。そろそろご飯かな?」

二人は、帰ることにした。

帰り道、道端にタンポポがたくさん咲いていた。1本ずつにしようねと言って、

摘んだタンポポを頭にかざして、お日様(おひさま)をたっぷりあてて、お日様のチカラをいっぱいいっぱいタンポポに詰め込んだ。

「オスシ、オスシ♪」

「お寿司、押すし♩」

「お寿司、ですし♬」

タンポポをかざしたまま、私たちは又オリジナル曲を歌いながら、家に戻ってきた。

 

家に着いたら、なんだかとても賑やかだった。

真智子さんとみづえさんが、みんなの前に並んで立って、はしゃいで歌っていた。

「地球の男に飽きたところ…」だとかなんとか。それを聞いて私たちは、顎が外れるくらい驚かされた。

「えーっ!哲おじちゃまが聴いているのに大丈夫なのー?」

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