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そうではなかったのに

いつの間にか、春がキライになった。

正確にいうと、春が苦手になった。

空気の温度はもちろん、風のにおいや、街の色、人の声、すべてが日々刻々と変わっていくのを感じると、ひどく取り残された気分になる。
身のまわりに変化が否応なしにおとずれるというのに、自分はまるで変わらない、いや、変えられないと思う。

どの季節がいちばん好きか?
何人ものひとに、ぼくは訊いてきた。

夏が好きだと言うひとは、巨大な絶望や深い挫折に触れたことがないのだろうと思う。

秋が好きだと言うひとは、社会や組織の中で責任を負うことが、おそらく、ない。

冬が好きな人は、自分の居場所や在りかたが確立している。

春がいちばん好きだと言うひとは、新しいなにかを求めている、たとえ、その時期だけだとしても。

かつて一人だけ、どの季節も味わいがあるので順位はつけられない、と答えてくれたひとに逢った。
そのひとは、中学生のときに激しいいじめに遭っていたそうだ。

さて、ぼくはどうだろう?

どの季節も特別に好きだとは言えない。

ただ、春は嫌いだ。

以前はそうではなかったように思うが。

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