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一級建築士の街歩き04 表参道・原宿 “素材達”シリーズ ...変幻自在の“ガラス”達【前編】

01~03では表参道・原宿(オモハラ)にある新旧たくさんの魅力的な建物を
“木”という素材に注目して見てみました。
今回は2つ目の素材として“ガラス”に注目してみました。

皆さんはガラスに対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。

透明で平らで四角くて割れやすい、または冷たいイメージを持っていないでしょうか。

実は最近ではガラス製造技術や性能、取付け方法なども改善著しく
設計者の感性を大いに駆り立ててくれるガラスも豊富に出て来ています。 

そこで今回はこうしたオモハラの“ガラス”達に注目して建物の設計への関わり方、
“ガラス”のもたらす効果なども含めて“ガラス”をキーワードに
そして時には“ガラス”の気持ちになってそぞろ歩きをして見ました。

そうしたら今回もまたいろいろな“ガラス”達の素顔が見えてきました。

いつもの様に明治神宮から表参道を南に下るルートで歩いて行きましょう。


目次

1 “ガラス”は分身

2 “ガラス”は創る

3 “ガラス”は映す 

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“ガラス”は分身
まずは足慣らし。いつ行っても沢山の人がこのエスカレーターに乗っていきます。

万華鏡のトンネルの中を通るエスカレーターは足下注意!です。

誰もが万華鏡の天井、壁を見ています。
この誘引力抜群の建物は再び登場の中村拓志設計の東急プラザ表参道原宿

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エスカレーターを降りて振り返るのが定番の撮影ポイント。

設計者の中村氏はガラスだけでなく木を活かした静謐な空間、渦巻きの様な建物を始め、最近では村野藤吾氏設計の数寄屋建築「佳水園」の改修を手がけるなどガラスのように変幻自在に活躍しており、
この万華鏡も中村氏の分身の様に負けず劣らず変幻自在です。


“ガラス”は創る
この建物、当初は外国車ディーラーのショウルームとして設計、人目を引く建物、シー・ディ・アイ青山スタジオ設計のIceberg です。

イメージは名前の示すとおり氷山。
水平垂直が殆ど無く徹底的に斜めっています。
よくぞここまでやったと感心する事しきり。
まるでガラスが氷山を創り出したようです。

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このIcebergと左に隣接するガラスのビルを比べてみると
Icebergが天然の氷山ならば、左のビルは製氷機で作った氷でしょうか。

このIceberg設計するのも大変でしょうが、
施工するのはもっと大変だろうなと思わせるこのガラス張りの変形建物を成立させているのがDPG(Dot Point Glazing)工法と言うガラスを“点”で支える技術です。
ガラス枠が必要なく大変すっきりした構成が可能で設計者に人気の技術です。

有名な例ではルーブル美術館のガラスのピラミッドがありますが同じ技術です(逆ピラミッドの方)。

もとはと言うとこのDPGはイギリスのエンジニアリング会社アラップの技術者ピーターライスがパリ、デファンスの科学産業博物館の大ガラス面向けに開発した技術。

さしずめ氷山を支える水面下の技術と言えます。

ちなみにルーブルピラミッドの設計者I.M.Peiはずっと以前にワシントンDCにあるナショナルギャラリー東館で地下へのトップライトとして既にガラス製のピラミッドを設計しています。

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Icebergは更に良く見ると徹底してガラスで作られています。
建物本体は勿論、庇、搬入口、入口扉前の床もガラス(ノンスリップ仕様)です。
特に搬入口にはここまでやるかといった感じでとても感心してしまいます。

例外的にエレベーター(EV)シャフトは垂直。
斜行EVも無くはないがここでは採用されず。

コールハース設計の北京のCCTVも当初斜めEVを検討したようですが結果的には垂直。

日本にも斜行EVは有りますが、どちらかと言うとケーブルカーの様な構造で、高速で建物内を上下する斜めのEVを私は残念ながら見たことがありません。

水戸にある水戸芸術館のシンボルタワーは正四面体を組み合わせた螺旋状ですが、EVはまっすぐです。

他にアメリカ、セントルイスにあるサーリネン設計のゲートウェイ・アーチはアーチ状にEVが行き来します。
学生時代にこれに乗りアーチのてっぺんに行きましたがEVと言うより観覧車といった感じでした。

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サーリネンと言えば小品ですがボストンにあるMITチャペル
祭壇の上からの光に金属片が輝きとても印象的な空間で好きな建築です。  

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Icebergの全景を見たいときは道路の反対側から見ることをお奨めします。
また、ふと脇を見ると鋭角の極小敷地に建つハットグのお店が、何とシャープ!
尖り具合はIcebergに負けていません。

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“ガラス”は映す

Icebergから脇道を進むとキューブを積重ねた建物に出会います。
中央アーキ設計の神宮前ビルディング、通称 Block house。

建物の中は天井がガラス張りでそこを通して上の箱の下面が見通せます。
その面はステンレス鏡面に仕上げられています。
オーナーと設計者の思いがストレートに表現されています。
知人が以前たまたまこの建物を見ていると
オーナーが建物内外を快く見せてくれました。
そうしたオーナーの真っ直ぐな人柄をこのガラス天井は映しているように感じています。

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私自身のガラス天井の思い出は
ウィーンで見たオットー・ワグナー設計のウィーン郵便貯金局の光天井で
カタガラスを通して差し込む光がとても心地よくいつまでも居たい空間でした。


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さて前編は以上ですが、このあと更に魅力的な“ガラス”達を見ていきたいと思います。


つづく

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