見出し画像

「夏の日の心象スケッチ 京都京北」 【DAY1】ママチャリと、予定不調和な警官と鶏

京都京北の農家さん宅で場をひらく
「農と土と暮らし」
中身はあまり考えていない
意図だけ持って
京北の自然と流れに場を委ねる

寝不足のからだを引きずりながら
新幹線で京都に向かう
京都は案外近い

京都駅にそろそろとメンバーが揃いレンタカーで京北に向かう
京北へ向かう車中はまだよそよそしくて
けれどぴりついた空気はなく
1時間の道中を無難に過ごす
途中食べた鴨丼がなんか美味しかった

宿先に荷物を預け、自転車を借りる
タイヤがべこべこするママチャリ
サドルにまたがると、とたん、みんなの顔がぱぁっとひらく
坂道を一気に駆けおりて
重みを感じるペダルをふみこみふみこみ
ずんずんずんずんこいでいく

青々とした夏の稲穂が揺れている
緑が香る
田んぼの背後には鬱蒼と茂った森
気持ちよくひらけた野の先に視線をやれば
低い山山がずしんと佇んでいる
風と緑を感じて無言でママチャリをこぐ
みんなそれぞれの時間を味わっている

夏のママチャリは懐かしい感じがした
みんなそんな感じだった
童心に戻った瞬間、人の目はきらきら光る
なんだかからだも喜んでいる
自分の中の大切な何かに触れたとき
内側にあった何かが立ち上がる
その一瞬の顔は生き生きとしていて
見ているこちらを嬉しくさせる

五感やからだの無条件な反応は
その人の本来性に届く瞬間
そこに居合わせるだけで
その人とつながった感じがする

素敵なご夫婦が営む農園に着く
どうもこんにちは、とあいさつするや否や
ほぼ同じタイミングで現れたお巡りさん
はいどうもと、家主の祥子さんが笑顔でやり取りし
ああそうでしたかと、笑顔で別れる
飼っている鶏がコケコケ、コッコーと元気すぎて
人間が困っているらしい
「鶏(とり)をやりましょう。」
ということになった

みんな状況が掴みきれないまま
古民家の庭先にある栗の木の下でチェックインする
栗の木はぼくたちを包み込むように
おおらかな曲線を描いてドーム型に枝垂れていて
その木陰で感じる風が気持ちよかった
初々しい青緑のいがいが栗が実っていた

鳥小屋に出向いて
200羽以上の鶏に言われるがままに餌をやる
鶏を観察していると面白い
メスはココココ、オスはコケコッコー
臆病な生き物らしく
大きな音がすると一斉にパニック
少し経つとメスは何事もなかったかのようにまた餌を食べ始める
威厳のあるとさかを冠りコケコッコーのオスは
我を失い力なく鳴きながら右往左往している
その姿がちょっと間抜けでかわいらしい

鳴き声が大きいオスを、やる
四つ角にどんどん追いつめる
ばさばさばさと騒ぎながら全力で逃げ惑う
捕まった鶏は足から逆さに宙ぶらりん
逆さの鶏は何かを悟ったかのように暴れることをやめ
あっけないほど静かになった
茶色の米袋に4つのいのち

古民家の庭に戻る
捕まえた鶏を止めさす
みんなうすうす気づいていたけれど
ある意味での最初の“コンテンツ”が
なかなかに強度の高いものになったもんだ
足を紐でぐるぐるしばって
地面と水平に伸びていた木の枝に括り付ける
少し説明を受けて
1人目が喉元に手をかける
・・・
地面にできていく
緑と朱色のコントラストが鮮やかに輝いていた
・・・
見ている人の反応は様々だった

ぼくもやった
淡々と、でもたぶん必要以上に力みながら
最後までやった
すべてが終わってみると
いのちがどうとか、そんな感情はなかった
はじめのうち心の中に立ち上がった
「ごめんなさい」という言葉は
案外すぐに消えた
目の前にあるもの、刻々起こる現象と只向き合う時間

手触り感を持っていのちと向き合うって
そういうものかもしれない
机上で思っていた
いのちを尊ぶという言葉や自分自身に
ちょっとした噓くささを感じると少し恥ずかしくなった
子どものころ無邪気に虫や魚やカエルたちと戯れていたときの記憶が蘇る

数分木に吊るしたあとの、まだ生温かい鶏の羽をもいでいく
その時感じた体温は止めさすよりもずしんと心に響く
生きてる?死んでる?
手から感じる体温が
今にも動き出しそうな、不思議な感覚を呼び起こし
少し頭がパニックになったのだろう
羽をもいだ後は捌いて部位ごとに解体していく
いのちはものになっていった
すべて捌ききる
凝縮された瞬間が目まぐるしく起こっては消えていく
夕陽がきれいだった

火を起こしてBBQをはじめる
乾杯のしゅわしゅわが爽やかにからだに沁みこんでいく
暑さと緊張で喉が渇いていたようだ
こだわりの野菜や鶏を焼いて食べる
ホクホクとしたズッキーニが美味しい
鶏も食べる
とても野生の香りと味がした
捌いたときの香りと同じ味がした
そのまままるごと頂いた

ゆらゆらゆれる焚き火を見つめながら
話して、食べて、だんまりしてと
思い思いに過ごす
夜の京北の風は涼しかった
星が綺麗だった
新月だった

いい頃合いで古民家をあとにする
薄暗い中、ゆるやかな下り坂をべこべこママチャリで降りていく
夜を走るママチャリ集団は、1日やりきった部活帰りの仲間みたい
下り坂で浴びる涼しい夜風も相まって
この日1番の気持ちよさだった
突然、暗い森の中から現れたシカの群れが
1頭、2頭・・・6頭と順々に道路を横切っていった
明日はどんなことが起こるのだろう

宿に着いてお風呂に入る
やり切った1日の汗をシャワーで流した瞬間の何とも言えない感じ
お風呂ですっきりしたあと
みんなで集まって1時くらいまで飲んで話して、寝た

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?