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表通りのウラノさん

私はその日、3日後に発売を予定しているCDのプレリリースライブは満席との報告を受けていた。

オープン一時間前にはリハーサルが終了し、私は楽屋でメンバーと寛いでいた。店内がお客様を招き入れる時間になる頃、私は楽屋のドアを少し開けて店の様子をうかがった。お店のスタッフが次から次へとお客様をテーブルに案内する様子が見えた。

客足も落ち着いてきた頃、私はお客様の元へご挨拶に回った。久しぶりの人もいるし、先日会ったような人もいる。みんな顔がウキウキしていた。ライブハウスというのは非現実の世界だ。一度ひとたび音楽が始まればたちまちみんな魔法にかかる。

会場を一通り回って楽屋に戻る時、客席にハンサムな男性がいることに気がついた。男性は妙齢の女性と談笑していた。席と席の距離と年齢的なものと纏う空気の違和感とで、お二人がどういう関係なのだろうという疑問が一瞬脳裏をよぎったが、その疑問は本番の波に押し流されていった。

第一セットが終了し、しばしの休憩中に「皆さん、サインをお待ちです」と声をかけられ、私はCDの販売コーナーに向かった。こんな時の私の脳内は忙しい。次のセットの諸々の段取りに思いを巡らせつつ、人の名前、顔、知っている方ならその方とのエピソードを素早く思い出し、更に時間が偏らないような気遣いをしつつ、お客様との時間を楽しむことに集中する。こういう日は、私の脳内記憶エリアはほぼ音楽のことに養分を取られているため、忘れるはずもない人の名前を簡単に忘れがちなのだ。

その時、ふいに声をかけられた。

すみません、コアなファンです

と私の右手から先程のハンサムが声をかけてきた。背の高い人だった。私は瞬時にその顔をスキャンし、脳内にある顔面リストに検索をかけた。誰だ?六本木か? それとも麻布か? いや銀座か? 誰だ誰だ思い出せ。企業系社交界かセレブ系社交界か趣味系社交界か… この思考を巡らせる時間、およそ0.3秒。

「あ、noteでお世話になっている、ウラノです」

えええええ!? いつか来てくれると信じていたけど、今日来てくれたんだ! 嬉しい!!!

自分の胸に一気にバラが咲きこぼれる音がした。
ライブやコンサートにふいに来てもらえることほど嬉しいことはない。私の胸の中は喜びのバラで満開になった。

しばらく言葉を交わした後、ウラノさんは席に戻っていった。一緒にいる女性との関係は謎だったが、私の中では「女性は大学教授か研究職の人。ウラノさんとは仕事を通しての知り合いで、女性の方はウラノさんに興味あり」という設定が出来上がっていた。私は心の中でその女性に「私は敵ではありません」という念を送った。

私の中で、ウラノさんは少しぽっちゃり設定だった。
なぜなら、お仕事で万年睡眠不足だし、飲んでるし、美味しいもの好きだし。でも実際は、シュッとした知的なギラッチハンサムだった。ちょっとビル・エヴァンスに似てると思った。

ウラノさんは私に差し入れをくれた。黒い厚めの保冷バッグに入ったものとそうでないお菓子をふたつくれた。保冷バッグに入っている方を渡してくれる時、ウラノさんは真剣な顔で「解凍されたら日持ちしないからすぐに食べてください」というようなことを何度も私に言うので、私はすごく貴重なものを頂いた気持ちになった。

ライブは大盛況に終わり、私はお客様からたくさんの花束と、立派な蘭の花を頂いた。蘭の花は、私がよく通っている新宿二丁目のゲイバーからだった。蘭はライブが始まる前に花屋から運ばれてきた。お店のスタッフが気を利かせて入ってすぐのところに飾ってくれた。ライブ開始前、二丁目のママ(おっさん)が飾られた蘭を品定めするように眺めに来て「ん、まぁまぁちゃんとしてるわね」と小さく独り言を言っていたのを私は聞き逃していない。

すげー立派。まだ咲いてるのよ。

翌朝、私はウラノさんからの差し入れをまじまじと見た。っていうか、差し入れには似つかわしくないいかつい布の保冷バッグに大注目だった。これこの商品のために買ったのかな…。

保冷袋の圧と情報量の多さがすごい。何度見ても笑える。

そう。ウラノさんは ”ケーキショップノリコ” の美味しいお菓子を私に差し入れしてくださったのだが、まずこの出オチでハートを掴もうというサービス精神に震える。

出オチのための箱。ちゃんと見なくてはならない。

箱にNorikoとある
ほれ

もう一方はクッキーということだった。クッキーの箱の方も情報量がすごかった。

吹き出しを描くところにバランスの良さを感じる。
「ではまた。」がじわじわくる。

まじめな人なんだなぁとしみじみした。
ちなみに、サムネ画像はケーキショップノリコのイチオシであるプチチーズケーキだ。一口食べたら美味しくて、我慢できなくて2つ食べちゃった後に慌てて撮影した。オヌヌメだけあって、雪解けのように柔らかいのにこっくりと濃厚で本当に美味しかった。

でも何より、来ていただけて本当に本当に本当に嬉しかった!!ウラノさん、最高!

ウラノさんのライブレポートはこちら。


ウラノさん、来てくださって本当にありがとうございました。手土産もガチめなやつを本当にありがとうございました。美味しくいただきました。
記事の中でいぢり倒しましたけど、ご容赦ください。

#ライブレポート #きっと #想像より面白い人だと #感じました #たぶん #本人は気付いてない

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