カラスが鳴いたら

僕らは家へ帰らなきゃ。
ママに怒られる前に… ママのために

この家には、少し厄介なパパと、それに怯えながら暮らすママと、それを悲しんでる僕と、そこをたまに抜け出してる猫がいる。自由気ままにこの家を出入りする猫を、下校中に貰えるパンの耳で釣って、よく近くの公園まで連れ出したもんだ。僕はいつもそこで同じことばかりを話していた。相手は猫なんだから、まぁ独り言と変わらないよ。

もしも、もしも、神様が本当にいるのなら、僕のたった一つの願いを聞いてくれないだろうか。
”いつかあいつの心臓を街の隅に投げて、カラスに喰わせてやってほしい。”
だけどね、そのときカラスたちはきっと、ツンツンとあの真っ黒なくちばしでつつきながらこう言うと思うんだ。
「コイツぁ確かに腐ってるけど、なんだか嗅いだことのねぇ臭いだな」
「さすがのオレたちでもコイツぁひどく臭いぜ」
「おれ、これはいらねぇや」って。
そうやって笑われてしまえばいいんだ。

こんな風に毎日、神様の代わりに猫に話をしてた。

…なんて昔話が僕にはあるんだけど、そしたらあの子は泣きながら
「打ち明けてくれてありがとう。」
なんて言ってきた。
「君の傷ついた心は、これから私が癒してあげるからね」
とまで。
なんだ、僕は心底がっかりしたよ。あぁこいつもそう言うのかって。きっと君がいま想像している痛みや苦しみ、絶望なんてものは僕はこれっぽっちも感じたことない。みんなどうして勘違いするんだろう。
僕はただ、猫と遊んでただけさ。
カラスが鳴いたら家へ帰って、ご飯を食べたらまた猫と一緒にいた。
全部全部、ママが1人で耐えてきたのさ。

僕は猫と遊んでただけさ。
みんなどうして勘違いするんだろう。

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