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航空重力測量、ルート設定の意図を読む

7月22日、調布飛行場で「航空重力測量」の出発式が行われました。当日は残念ながら視界不良で離陸シーンはありませんでしたが、梅雨明けの天候回復とともに連日のフライトが続いています。
「Flightradar24.com」で探してみたところ、調布飛行場を出発し、独特の飛行ルートをとるセスナ208を発見。飛行高度から見ても、航空重力測量の機体に間違いなさそう。にしても、このフシギな飛行ルート。そこにはちゃんとした理由があるはずです。

離陸直後にキャリブレーション、なるべく直線飛行

離陸直後のうねうねした軌跡は、センサーのキャリブレーションだと聞いています。スマホの電子コンパス初期化のため、本体をグルグル回すあの操作と似ています。そして高度を5000mに保ち、東進→西進→東進とルートを南にずらしながら直線飛行。予め設定されたWaypointを自動操縦でクリアしていくそうです。人間が操縦するよりデータの質は良いのだとか。

最初は「へー、成田の上空は通るんだ」とか「都心は避けたのかな」かな、なんて思っていましたが、さらに飛行を見守りながら、いろいろ調べてみるとルート設定の「意図」が見えたような気がしてきました。

重力点の真上を通過、の理由を推理

真東に飛行しながら成田空港と犬吠埼の真上を通っていますが、実はそのどちらにも、正確な重力値が計測されている「一等重力点」が設けられています。成田空港では第一ターミナル中央棟B1の薬局の向かいに、犬吠埼は銚子地方気象台の敷地内です。重力の絶対値がわかっている場所の上空を飛ぶことは、航空機で測定した重力値を地上に置き換える上で、補正手法の検証などに大きな意味を持ちます。

犬吠埼通過後もしばらく洋上を東進したのち、進路は南南西に。

なんでかな? と思いながら見ていたら、犬吠埼の真南でターンして、北上しながら、再び重力点上空を再び通過しました。

同じ地点を、東向きと北向きに通過するということは、地球の自転に飛行速度がまるごと乗っかるケースと、まったく関係ないケースの両方でデータを取るということになります。補正アルゴリズムの検証などでさらに重要な意味を持つことでしょう。

さらに犬吠埼を超えた機体は、ひたちなか市上空で南西に向けターン。今度はちょうど、石岡測地観測所と国土地理院本院の真上をまっすぐに通るルートです。

「世界の中の日本の位置」を決めるのは、石岡に設置されているVLBIアンテナです。同時にこの場所には、日本国内にある絶対重力計(地理院や産総研、東大地震研などが所有)を持ち寄って較正するための重力測定室もあります。もちろん国土地理院本院にも重力点があるわけで、どこよりも詳しく絶対重力測定が行われている場所の上空を飛んだこの日のフライトは、プロジェクトの今後にとりわけ大きな意味を持っていたわけです。(断定調)

(追記)国土地理院の担当者からコメントが

というような「発見」にひとりニヤニヤしつつ、国土地理院に「当たってますかね?」とメールしたところ、丁寧に読んでいただいた上で、お返事が届きました。

「地上重力点との関係で測線設計の考察をして頂いているのですが、
 実のところは地上の重力点の位置は全く考慮していません… 」

なんと。成田も銚子も、石岡もつくばもぜんぶ空振り!? さらに、

「南北方向の測線は移動のみで、計測は行っていません」

ガーン..。顔にタテ線(南北方向の測線)が入った、ちびまる子ちゃんの気分です。

「(いろいろと推理して頂いたのにお応えできず申し訳ありません…)」とカッコつきでお詫びまでされてしまいましたが、いえいえ、とんだこちらのカラ回り。だからといって航空重力測量の大事さが微塵も損なわれるわけではありません。悪いのは私です。では気をとりなおして。

データ取得は20Hz、つまり「20分の1秒」ごとに

機上の重力計は、ジンバルやエアダンパーなどで宙に浮いた状態で保持されていますが、それでも精密測定を行うため細かな振動が測定データに載ってきます。実際の運用では、測定値の前後60秒の値を重み付け平均する「ガウシアンフィルタ」で周期の短い変化の成分を消しています。

さらに飛行時には、GNSSもIMUも重力計も20Hzでデータを取得。GNSSは約2週間後に公開されるIGS精密暦を使って、地上の電子基準点と基線解析を行ない、20分の1秒ごとの空中での位置をセンチメートル単位の精度で求めます。

その解析で求められる位置は、GNSSアンテナの位相中心となりますが、機体天井のGNSSアンテナと、機内の重心位置近くに設置された重力計のセンサーの位置関係は、測量機器を使って事前に計測されています。なので容易に値を移すことができます。これにより、センサーの示す重力値と、センサーの緯度・経度・高度の情報、さらにその差分で得られる速度の情報が20Hzで取得でき、それをもとに地上の重力値が推定できるようになります。

「ジオイド+GNSSで標高決定」が必要なのは

航空重力測量の目的は、日本全土の一様な重力値取得です。得られたデータを使って高精度重力ジオイドモデルを構築し、これとGNSS測量を組み合わせることで、標高決定が迅速に進むようになります。3Dの位置情報を必要とするドローンの自動運行なども恩恵を受けるはずです。

そもそものモチベーションは東日本大震災です。標高が決まらないと工事に着手できないが、人手と手間をかけ急いで測っても、大きすぎる余効変動でデータが無駄になる。解決にはGNSS+ジオイドによる標高測量しかなく、ジオイド高精度化には航空測量しかない、というところから始まったプロジェクトといいます。

地味で大事で、とても真摯な取組みですが、出発式の激励の言葉にもあったように、日本の測量史に大きく刻まれるプロジェクトとなるのは間違いありません。事故なく成果が得られるよう願っています。




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