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女と男と人間

周りはあまり好きな人がいないけれど、私は結構村上春樹の描く人間像が好きだと思う。彼の物語に出てくる男性になぜか共感できる。基本的に合理的に生きていて、その上で教養がある程度含まれた「あえて無駄なことをする愉しさ」に少なからず自信を持っているような。その上で異性という一番自分の遠い存在に触れ、恋という感情に振り回され、困り果てたり、見ないふりをして見たり、当人の問題点なのに変に客観視して傍観していたり。そのせいで味わった少しの苦味と後悔でさえも、小説にしたり小粋な音楽と一緒に思い出にしてしまうことで自分の皮を厚くしていこうとする図太さとか。

映画に合わせて『ドライブマイカー』を読んだのだが、もしかしたら自分は男性的なものの方が強いのではないかと自分のアイデンティティが不安になるくらいに共感する。小学生の時に重松清が描く父親像にも謎に深く共感していた。それらの男性に対する共感を裏付けるならば、私は女の子に頼るよりなんとなく男性のように頼られたい、守りたい助けたい気持ちで接することがあるし、自分が感性や感情が豊かすぎる女の子としてキャラ付けされるのが苦痛で仕方なかったこともある。しかし自分に女である自覚がないわけではないし、ありすぎるくらいかもしれない。少なくとも20年間ほどは自分が社会的に女性であること=ジェンダー上の女性をやってきているし。

仮にここで社会的規範としてのジェンダー・ステレオタイプな男女の価値観をそれぞれ「男」「女」と呼び、私の中に両性の価値観が存在し拮抗していると仮定する。その時、特に自分の「女」が如実に出るのは容姿に関してだ。髪、服、肌については女である限り自分の美意識を持ってしてアウトプットしたいというプライドがある。しかしメイクに関してはなぜかあまりお金を投資しようと思わない。単に物持ちがいいからなのかもしれないが。混沌、危険、妖美、突発的な理論のない行動、突き動かされるもの、第六巻、感性。

「男」であるのはまず一つ目に「女」をやっている女の子と接する時、その「女」を補完するように自分は「男」の役割を担おうとしてしまうとき。二つ目に思考面において、特に何か安直に安定した物事に対して反骨精神で批判をするときなど。自分がそれに対して敏感に反応しあることについて細かに分析をし、その上で自分の極限まで納得のいく意見を構築すること(あるいはこのようにそれを文章化し後から見返すこと)1つのこだわりを持ちながらそれを貫く、しかしあくまで紳士に他人に譲るべきところは譲る。見守る。論理、挑戦、経験、批判、補完。

ここまで書いてみたところで私が思い出すのは親の存在である。自分が男性的であるとき、私は父親から学んだものを無意識に真似し、自分が女性的であるとき、母親から学んだものを真似しているのだと思った。しかしその割合としては、圧倒的に男の時に父親の真似である程度の方が遥かに大きい。

それは私が女であり、女子が多い環境で育ってきて、「女」というものはどれだけ多様でその鉤括弧では一括りにできないということをよく知っているからかも知れない。逆に私は、男というものを知らない。それは「女」から見た男ではない。あくまでフラットに男が男をどう思っているかという意味で、男を知らない。だから時に怖い。自分の我慢ならない男への無知を、勝手な偏見で埋めてしまおうとしてしまう時がある。それはきっと男性も同じなのだろう。

男をいくら知ろうとしても、それは「女」から見た男でしかないのだということに、私は軽やかな絶望を覚える。一生逃れることのできない鎖である。 男性によっては、私といういち女性と接している時に、「女」から見た男を演じる場合がある。私はそれをすぐ感じとるため、自分は「男」から見た女をしなければという義務感に苛まれる。それはとても疲弊する。 でも例外もある。ただごくシンプルに、人間と人間として、お互い作りは違くても他の動物から見たら全く同じ見た目である、同じ種類である人間として、交わることができる。その時私はとても嬉しい。それは開放的だ。私が勝手にそのように感じている場合がほとんどで、相手はちゃんと気を使ってくれているのかも知れないが。

そのように思った時に、人間である彼らにやはり共通しているのは、その精神の中に「女」も「男」もきちんと持ち合わせているということだ。男性的でもあり、女性的でもある。それが人間的であるということなのだ。

私がこれから社会の中で、どのように心地の良いと思える自分らしさを構築して行けば良いのかはまだわからないが、精神は両性をもちあわせた人間的でいたいと思う。それが現代で盛んに叫ばれているダイバーシティにつながるのではないかと思う。少なくとも、大学でそのような多様性やマジョリティの持つ特権、文化などを少しばかり学び頭を悩ませてきた人間は考える。

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