写真を撮ることの手軽さと自由さについて

大学生のころの写真の授業がきっかけで、父から譲り受けたCanonのA-1を使って写真を撮り始めた。とにかく撮るのが楽しくて、勢いにまかせて若手の登竜門の某コンテンストに応募。だけど審査員からは辛口なコメントが多く、心が折れた。それ以降、写真を撮ることは少なくなっていった。20代のゲーム雑誌のライター時代、取材用にコンパクトデジタルカメラを使ってはいたものの、それだけだった。

再び写真が好きになったきっかけは、「インスタグラム」だった

インスタグラムというスマートフォン向けのカメラアプリがあると知ったのは、2010年の10月。リリースされた直後だった。正方形の画角で、色々なエフェクトをかけられる。使ってみてその楽しさに感動し、会社のお昼休みや休日にはインスタグラムで写真を撮る日々。被写体は街角にある面白い看板や建築物、山や空までさまざまだった。

▲何か気になったものがあれば、インスタグラムで撮影した。

1年くらいインスタグラムを楽しんで、どこか物足りなさを感じるようになった。単純に「背景をぼかしたいな」と思った。ちゃんとした一眼レフのカメラが欲しくなったのだ。

ちょうどそのころ「RICOH GXR」という、レンズユニットごと交換できるデジタルカメラが一部で人気を博していた。ライカのMマウントのレンズがつけられるマウントユニットが発売されると、好事家がGXRを買い求めた。僕もGXRのマウントユニットと「voigtlander nokton classic 40mm f1.4」という、「背景がぼける」単焦点のレンズを買った。細かい説明は省くけれど、F値(絞り値)が小さいほど、背景がぼけるからだ。

▲桜の小枝。GXRを手に入れた当初は、背景をぼかすのがとにかく楽しかった。

愛機で写真を撮りまくる、楽しい日々

GXRというカメラを手に入れてから、会社帰りに夜の街を撮影し、休日は出かけた場所で被写体として面白そうなところを撮影したりと、バシバシ写真を撮影し、「Flickr」という写真のSNSサイトにアップしていた。マニュアルフォーカスだけれど「フォーカスアシスト」という機能があったため、ピントを合わせるのも難しくはなかった。GXRのマウントユニットは、シャッターボタンを押すと「カチッ」という音がして、撮影しているという手応えがあった。

まあ、妻と出かけると写真ばかり撮っているので妻がスタスタと歩いていってしまい、迷子になることもしょっちゅうだったのだけれど(今もそう)。またレンズも「SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Aspherical II」という超広角のレンズを買い足したりして、撮影の幅は広がっていった。

▲背景をぼかすのも面白いけれど、もっと引いて写真を撮るのもいいかなと思いはじめたころ。

▲より引いて撮影するようになってきた。今でも、こういう写真を撮影することが多い。

やがてライター時代の先輩のクラブイベントでVJ(音楽をかけるDJと違い、スクリーンに映像を投影する役割の人)をやるかたわら、写真を撮影することになった。最初はGXRで撮影していたのだけれど、さすがに暗所で動きまわる人々をマニュアルフォーカスで撮影するのは限界があると感じた。そこでちょうど暗いところでもピントが合いやすいカメラがPENTAX(現:リコーイメージング)にあると耳にし、「PENTAX K-5IIs」とSIGMAのF1.4のレンズを購入。それで瞬時に合うオートフォーカスの便利さを知った(遅い)。

写真表現の自由さに僕は強く感動した

もうその頃は、「インスタグラムで写真なんて撮ってらんねーや」と、ド素人のくせにいっぱしのカメラ通を気取っていた。今考えると恥ずかしさで穴があったら入りたい気分だけれど、インスタグラムで撮ることはほとんどなくなっていた。そんなとき、ある本と出合った。それは、写真家のホンマタカシ氏が書いた『たのしい写真 よい子のための写真教室』だった。本の中では、写真の歴史を振り返りつつ、写真という表現がいかに自由なのかを説いていた。そこで、ブロックノイズが発生した粗い画質の写真らしきものが掲載されていた(※1)。海と氷山のように見える。最初は掲載ミスかと目を疑った。

次に、トーマス・ルフの写真を見てください。なんだか画質の悪いインターネット画像みたいですね。それもそのはず、実際にルフはインターネットで画像を見つけてきて、何が写っているのかギリギリわかるところまでわざと画質を粗くしたうえで、自分の作品として発表しているのです。もちろん自分で撮影していません。それでもこの「写真」はトーマス・ルフの作品として発表されているのです。(中略)これまでであれば、写真家ははるばる南極まで行って、苦労して撮影して初めて自分の作品だと言うことができました。しかし、ルフはインターネットで易々と検索して画像をダウンロードします。そして、画像ソフトを使って著作権を無効にする。それが、彼の作品なのです。

ガーンガーンガガガグァーーーーン!!!!! 僕はこれを読んで、大きな衝撃を受けた。それなりのカメラを使わないと写真とは呼べないと凝り固まっていた素人カメラマンの頭の中は混乱した。トーマス・ルフの作品が好きかどうかは別として、これも写真なんだと。確かに最近は明らかにレタッチで合成されている写真でも、表現として優れていれば写真と認められているくらいのことは知っていたけれど、トーマス・ルフはそれを軽々と飛び越えていた。写真って、なんて自由なんだ! カメラという道具にこだわっている自分が、バカバカしくなった。

カメラにこだわらない写真撮影を楽しむようになった

それから僕は、インスタグラムをはじめ主にカメラアプリで気になった被写体を撮るようになった。スマートフォンをさっと取り出し、撮影する。ときどきは雰囲気のあるエフェクトをかけて、twitterやFacebookにアップする。ムービーも撮影したりする。最近のスマートフォンはきれいに写真が撮影できるので、コンパクトデジタルカメラいらずだ(それゆえにカメラ市場が縮小しているというのもあるけれど)。

とりわけインスタグラムは世界中で流行していて、日本でもインスタグラムで有名になった「インスタグラマー」は数多い。誰もが手軽にオシャレで、芸術的な写真を撮影できる時代なのだ。もちろん、センスは問われるけれど。

じゃあデジタル一眼レフカメラを使わなくなったといえば、そうではない。GXRはコンパクトなので街撮りに使用。レタッチやコラージュも楽しんでいる。PENTAX K-5IIsはもっぱら娘を撮影するのに使っている。娘の写真がうまく撮れたときなど、なんとも幸せな気分になるのだ。

僕の写真熱は、しばらくは冷めなさそうだ。

※1 トーマス・ルフの画像をダウンロードして加工した写真のシリーズ「jpegs」の一部が、以下のサイトで閲覧できます。
【インターネット時代を代表する写真家】トーマス・ルフ【画像集】 - NAVER まとめ
http://matome.naver.jp/odai/2136500773693667801

※2トルコロックの撮影した写真は、以下のページにアップしてあります。
https://www.flickr.com/photos/cosmiclab/

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