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「宇野亞喜良さま 特殊印刷カード アバロンセレクト箔押し」

こんにちは、現場の前田です。

今回、コスモテックの note でおなじみの 『 デザインのひきだし 』 編集長 津田淳子さまからお声がけいただき、日本を代表する挿絵画家・グラフィックデザイナー 宇野亞喜良さまの特殊印刷カードの箔押し加工をお手伝いさせていただきました。

宇野 亞喜良( うの あきら )
日本の挿絵画家・グラフィックデザイナー。
ペンなどによって描写された人物などが特徴とされる。寺山修司の舞台、宣伝美術を手がけるなどした。イラストレーター以外にもキュレーターや舞台美術、芸術監督等も務めている。

ウィキペディア( Wikipedia ) より

加工の際、津田さまが箔押し立ち会いのためにお時間をつくってくださり、コスモテックの現場で箔の定着具合いや箔押しの圧加減を直接確認してくださいました。


◉ 憧れのアバロン

宇野亞喜良さまの特殊印刷カードの箔押し加工で使用した箔は、津田さまが 「 憧れの箔 」 と呼ぶ、ドイツの箔メーカーKURZ( クルツ )社の 『 SB ABALONE SELECT 』( 以下、アバロンセレクト )です。

ドイツの箔メーカー KURZ( クルツ )社 の箔のサンプル帳より
今回加工で使用する箔は 『 アバロンセレクト 』
『 アバロンセレクト 』 の箔のロール
貝殻の真珠層のような光彩を見て取れる


『 アバロンセレクト 』 は、私もひそかに推している箔で、コスモテックのサービス 紙×箔お任せ名刺作成! でも使用させていただいているのですが、貝殻の内側のような美しい虹色の光沢感と柄が特徴のホログラム箔です。

ホログラム箔の中でも煌びやかすぎず、落ち着いた風合いが私の中での推しポイントになります。宇野亞喜良さまの幻想的で繊細な線画に 『 アバロンセレクト 』 を用いて箔押し加工をするといったいどのような表現になるのか…!?

実際の加工に入るまでドキドキしておりました。

「 アバロン 」 という名の響き( 文:青木 )

少し前、 X( 旧Twitter ) に投稿された津田さんの投稿が多くの人に拡散され、大きな話題をよびました( 下記参照 ) このクルツの箔見本帳内には今回の 『 アバロンセレクト 』 も収録されております( 2024年現在 )

そして、さまざまな柄のホログラム箔の中でも、なぜか気になる 『 アバロンセレクト 』 。 ちなみに 「 アバロン 」 という名前を聞いて真っ先に私の頭に思い浮かぶのは、『 アーサー王物語 』 に登場する伝説上の島 Avalon( アヴァロン )です。

お打合せの中で、お客さまからいただく声の中には 「 アバロンという名前の響きが良いですよね。 」 「 中世ヨーロッパのような。どこかロマンを感じますよね。 」 という方も多くいらっしゃいます。

Avalon( アヴァロン ) = 伝説上の島 の名前、アヴァロン島
Abalone( アバロン ) = アワビ( ミミガイ科の大型の巻貝の総称 )

しかし、『 SB ABALONE SELECT 』 の綴りは "Abalone" なので名前も柄もアワビ貝が由来となっていると推察されますが、その名前の持つ独特の響き、また、箔見本帳内のさまざまな柄のホログラム箔の中で 「 おっ!? 」 と目を惹く魅力がある箔であることは間違いありません。

『 アバロンセレクト 』 の箔の抜け殻
大きな面で見ると貝殻の真珠層のような光彩や柄がよくわかる


さまざまなホログラム箔がどこか人工的な感じがする・近未来感を彷彿させる感じがあるとご意見をいただく中、『 アバロンセレクト 』 は自然界に存在する貝殻の真珠層が由来となっていることもあって、クルツの箔見本帳内でもひと際異彩を放ちつつ、私たちの心を掴んで離さない魅力に溢れていると感じます。

◉ ベタではなく、点描表現での新しい可能性

ご入稿いただいたデザインデータから製作した 箔押し加工で使用する金属版
繊細な図案で、とても細かい

( ここから 文 前田 )

『 アバロンセレクト 』 のように箔自体に柄の入っているホログラム箔を使用する時は、箔の柄が映えるようにベタ面積が大きいサイズの箔押し加工で採用されることが多いです。

しかし今回は、宇野亞喜良さまの線画に合わせた線描・点描表現の一部として 『 アバロンセレクト 』 を使用しています。 面ではなく線描・点描で加工した時の 『 アバロンセレクト 』 の見え方は、柄をほんのり感じながらもマット調のシルバー箔に見えたり、見る角度によってはホログラム特有のキラキラした光沢感や虹彩が感じられたりと、なかなかお目にかかれない独特な箔押し表現となりました。

ベタの箔押しだと強烈なインパクトの 『 アバロンセレクト 』
線・点、文字として箔を押すことでさり気無さがちょうど良い感じに


箔が強く主張しすぎず、印刷された宇野亞喜良さまの線画のイメージにもマッチした箔押し表現となっており、柄のあるホログラム箔の新たな可能性を感じることができました。

また、今回の箔押し加工は宇野亞喜良さまの繊細な線画の上に箔で線描・点描表現することから、デザインデータの入稿段階から細かな線や点による美しい箔押し加工が実現できるよう、さまざまな工夫がなされています。加工で使用する大切な道具である版の材質選びから試行錯誤し、本番の加工前にしっかり時間をかけて準備しました( 金属版の写真は上に掲載 )

津田さま 「 箔押し位置、もう気持ち右側かもしれないですね。 」
津田さま 「 印刷のイラストと箔押しのまつ毛の位置関係 注意してくださいね。 」


印刷位置と箔押し位置をピッタリと合わせることが必要不可欠な構図のため、加工の位置合わせには細部まで注意して、調整には時間をかけて加工にあたっています。

また、調整の段階では、1枚箔押ししては津田さまにお見せし、仕上がりのアドバイスに耳を傾け、そこから微調整を繰り返し行い、箔押し立ち会いを通して津田さまの求める箔押し表現に寄せることを意識し加工に臨んでおります。

印刷のトンボと箔押しのトンボをピッタリ合わせて
これにて量産箔押し開始


津田さま、今回も加工のお手伝いをさせていただきまして、ありがとうございました! 柄のある箔の表現方法にもいろいろな見せ方があるのだと勉強になりました!

◉ 津田淳子さま(デザインのひきだし編集長)よりコメント

この特殊印刷カードは、4月に発売する 『 増補版 宇野亞喜良クロニクル 』 という、宇野さんの70年にわたって描かれてきた作品を、クロニクル( = 時代記 )として編纂した決定版作品集に付録するものです。

『 増補版 宇野亞喜良クロニクル 』 の書影


本書は2014年に刊行した 『 宇野亞喜良クロニクル 』 に、その後10年分の作品を追加した増補版なのですが、増補版ならではのスペシャル感を出したいと思い、本を開いたところに宇野さんの絵柄を刷ったオリジナル封筒を貼り付け、その中からスペシャル作品カードが出てくる、という、まるで宇野さんからのプレゼントがついているかのような仕様にしたいと考えました( 下の写真参照 )

宇野さんの絵は、そのままでも本当に美しいのですが、よりすてきにしたいと、このカードは印刷の上に箔押しを施した特殊印刷カードにすることにしました。

宇野さんの絵の細いラインを箔押しで、それも光の加減で見え方の変わるホログラム箔で押すと、繊細で、でも煌びやかな感じになるだろうなと思い、コスモテックさんに何種類かお知らせして在庫があるか確認していただきました。

その中に、忍ばせておきました。 クルツの 「 アバロン 」 を。

ホログラムは貝殻の裏っ側の螺鈿のような光り方をするものや、甲虫の輝きを再現したものなど、生物からインスピレーションを受けてできたものがいくつもあるなと思っていました。中でもこの 「 アバロン 」 は、その名の通りアワビの貝殻の裏側の偏光する輝きが再現された箔で、いつかは使ってみたいと憧れていた箔でした。

使う場面も限られる箔だとは思いますが、いつも 「 在庫がない 」 「 価格があわない 」 といった理由で使えたことがなかったんです。

でも、青木さんから全く問題なしというメールが!!

ベタ面がほとんどないこの絵柄に、細いラインやドットなどで 「 アバロン 」 を箔押ししながら、光の加減でちらっとだけ光り方が変わって見えるような、美しい仕上がりになるだろうと想像し、お願いすることにしました。

仕上がりは、もううっとり。うっとりとしか言いようがない美しさ。
パッと見はちょっと明るい銀箔に見えますが、カードをちょっと揺らしてみると、色が変わって、中央部分の箔が多い部分には 「 アバロン 」 の柄がうっすら感じられ、いやーん、すてきです。

この特殊印刷カードが入った 『 増補版 宇野亞喜良クロニクル 』 は、4月上旬あたりから書店店頭に並ぶ予定です。 ぜひ現物の美しさをご覧くださいませ。

◉ 青木(コスモテック)よりコメント

今回の箔押し加工の立ち会いの最中、津田さん(デザインのひきだし編集長)から語られた言葉が印象深く今も残っています。

「 コスモテックのように、これだけ数多くの箔の種類を取り扱える、揃えてくれる加工会社は本当につくり手にとっては貴重な存在ですよ。 」
「 前向きにまずは一緒にやってみましょう! という姿勢の加工会社だからこそ、仕事やお客さまが集まる、頼りにされるものなのでしょう。 」

というありがたい言葉をいただきました。
また同時に、昨今の印刷業界全体の低迷により 『 ( お客さまが )つくりたいのにつくれない 』 状況は益々加速しているようにも感じました。

コスモテックでなかなか使用しない 『 アバロンセレクト 』 箔
使用させていただく機会に恵まれてすごくうれしい!


印刷・加工会社によってはラインナップされている箔の種類が限られている( 金箔・銀箔のみしか取り扱いがない会社も少なくありません )などの理由から、少し変わった箔色を希望したために、あるいは、箔押しの図案が複雑だったり細かすぎるために、相談の段階で箔押し加工をお断りされてしまうことなども身近でたくさん起こっている出来事のようです。

箔の点描表現を実現させるために製作した
箔押し加工に使用する金属版 すさまじい細かさ!
印刷された美しいイラストとぴったり箔押し位置を合わせるのは至難の業
微調整を繰り返し行う


「 より効率化・機械化を進めていくことで、ちょっとしたイレギュラーな加工でも 『 面倒 』 『 不可能 』 に繋がってしまうものなのだろうか?」

「 お客さまの声を聞いて一緒になって形づくることで感動や学びも得られることは分かりきっているのに、それを行えないほど厳しい状況にある箔押し印刷会社も多いのだろう…… 」 など。

私は津田さんからいただいたうれしい言葉の裏側にある箔押し・印刷業界を取り巻く厳しい現実を思って悶々とした気持ちになったのでした。

同時に、コスモテックはこれからも頼りにしてくださるお客さまの制作に親身になって 「 どうすれば実現できるのか 」 を一緒に考えていきたい。これからもこの部分は大切に、変わらず、お客さまの気持ちや制作に寄り添っていきたいと感じました。

私が津田さんからいただいた言葉に思いを馳せるその横で、前田(コスモテック)がコスモテックとしてもなかなか使用する機会が少ない 『 アバロンセレクト 』 の箔を用いて、一枚一枚の特殊印刷カードに箔押しをする様子を見て、私たちにとって見慣れたこの風景も、他の誰かが見れば恵まれた状況に映るのかもしれないと思ったのでした。

津田さん、『 アバロンセレクト 』 箔の加工をお任せいただき、ありがとうございました!


【 箔押し加工 】

有限会社コスモテック 現場リーダー 前田瑠璃
〒174-0041 東京都板橋区舟渡2-3-9
TEL:03-5916-8360 / FAX:03-5916-8362

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