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【エッセイ】拝啓 元恋人へ

拝啓 元恋人へ

お元気にしていますか?
今は誰か別の人の隣で
幸せに過ごしていますか?

おかげさまで私の方は
別にあなたが隣に居なくても
充分に幸せに過ごしています。

安心してください。
あなたへの未練なんてものは
微塵もありませんよ。

ただ、本当にたまに、
今の私の「当たり前」は
そういえばあなたがつくったものだと
ふと気が付かされることがあるくらいです。



シャンプーは未だに
黄色のHIMAWARIを使っています。
お風呂上がりの私を抱き寄せ
ロングの髪に鼻を擦り寄せ
「ん〜。小雨ちゃんのいい匂いがする。
やっぱHIMAWARIの匂いが一番好きやわ」
あなたがそう言ってくれたから
その香りが愛された記憶として刻まれ
私のアイデンティティとなり
未だにそれを纏って生きています。

得意料理は未だに
たんぽぽオムライスって答えてます。
チキンライスに乗っかった卵が
綺麗に割れて溶け出してキラキラ光ると
あなたがすごく喜んでくれたから、
好きな人のためにオムライスを作る時は
今でも卵を一つ多めに入れるようにしています。
自分の分は、焦げてても別に大丈夫です。

買い物に行く時はもう
現金だけじゃなくてスマホの電子決済も
できるように登録しました。
あなたとのデートに浮かれて
財布を家に忘れてきてしまった時、
ブラックコーヒーとカフェラテ分の
840円の小銭を弄りながら言った
「まさか俺がボーナス出たから
わざと忘れたとかやめてね?笑」
というあなたの冗談が
何故だか私のプライドを深くえぐったから
お出かけする時はいつも
財布とスマホを肌身離さず持っています。

掃除は相変わらず得意じゃないけど
毎日クイックルワイパーで
欠かさず床を磨くようにはしています。
「小雨ちゃんは良い子だけど
掃除がそんなに上手じゃないのが
あんまり好きじゃなかった」
別れ際にあなたが言ったその一言が
顔から火が出るほど恥ずかしくて
脳内にこびりついたあの記憶を消したくて
毎日床を磨いています。



「袖振り合うも多生の縁」
道を行くとき
見知らぬ人と袖が触れ合う程度のことも
前世からの因縁によるという意味から、
どんな小さな事、ちょっとした人との交渉も
偶然に起こるのではなく
すべて深い宿縁によって起こるのであるという
意味のことばがあるでしょう。

80億人が生きる地球上、
人生でなんらかの接点を持つ人
言わば単に袖を振り合う人は
3万人と言われいるみたいですよ。

そんな私の人生の中、
元恋人としてあなたは
袖を振り合いすれ違うどころか
私の袖を引っ張り抱きしめ目を見つめ
「好き」の一言で舞い上がらせたり
「嫌い」の一言で突き落としたりして
私の人生を見事に揺さぶってくれましたね。

いったいあなたと私は前世から、
どんな宿縁があったのかは知りません。

だけど今世で一度でも、
あなたと心を通わせ合えて
私はとても幸せでした。

だってあなたがくれた
「好き」や「嫌い」が
今の私の「当たり前」を作っていて
そのおかげて私はまた
新たな愛に出会えているから。

きっと、今私の隣に居てくれる愛しい人にも
そういう過去がもれなくあって
恋人のそういう過去もひっくるめて
愛せるような恋人でありたいと
強く心に決めています。


ほら、これは未練なんかじゃないでしょう?

どうか、この一生のうちで
私と袖を引っ張り合い
愛し合い傷付け合ってくれたあなたが
今もどこかで、できれば誰かと
幸せに過ごしていますように。

たぶんもう会うことはなさそうだけど
こっそりずっと、そう願っています。

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