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読書感想:危ない精神分析

 最近、精神分析が面白いなと思いつつ、手に取ってしまった。
 これは、1980年代~90年代頃にアメリカで流行した記憶戦争に関する本。

 当時、記憶回復療法により、多くの女性達が偽りの性的虐待の記憶を植え付けられ父親達を提訴した。

 さらに、植え付けられた記憶が偽りであるということが徐々に明らかになり、今度は、セラピスト達が次々に訴えられるという一連の事件。
 
 無実の性的虐待の罪で有罪判決を受けた父親もいれば、敗訴したセラピストも、信じられないほどの賠償請求をされるなど、社会的に大きな問題となったようです。

何が起こった?

 例えば、抑うつだとか、不眠症だとか、ストレス改善などを目的としてカウンセリングに来たクライアントに、セラピストが「今悩んでいる原因は、幼少期に起きた性的虐待のトラウマ体験です。今、即座に思い出せなくても、無意識に抑圧していて、思い出せていないのです」と説明される。

 いや、そんな訳ないでしょ!と反論するも、あまりにも辛い過去のため、思い出せないのだと言い切られる。しかも、心理士の肩書のあるセラピストから、思い出せないと症状は治らないと責め立てられる。

 セッションの回を重ねるごとに、ついにクライアントも幼少期の性的虐待の過去を思い出したと勘違いし、その記憶に基づいてセラピストに背中を押され、父親を告訴する、といった流れのよう。
 
 ただ、思い出られた記憶の多くに、悪魔的なカルト集団により性的虐待を受けたみたいな内容が含まれていたようで、その責め立てられるカウンセリング自体が、狂気的だったのかもしれないですね。
 
 個人的には、セラピスト側も、本気で抑圧された過去が、クライアントに眠っていると信じていたのか疑問ですね。しかし、セラピスト向けの記憶回復療法の一部の本には、訴訟で勝てるノウハウまで書かれていたようですから、もはや金儲けの手段と化していたのかもしれないですね。
 それであれば、利用されたクライアントとその家族たちは気の毒ですよね。

きっかけ

 なお、この事件のきっかけとなったのは、ハーバード大学医学部准教授のジュディス・ルイス・ハーマン(以後、ハーマン)が書いた「心的外傷と回復」という書著とのこと。この本は、抑圧されたトラウマ記憶を思い出すことで、PTSDは良くなるという内容らしい。

 PTSDとは、過去に心に大きな傷を受けた体験(トラウマ体験)が、その後も何かよって思い出され、何度も当時の苦しい心的状態に陥ってしまう症状。PTSDの原因は、戦闘、性的暴行、自然災害や人災等の強い恐怖を覚えるよな出来事だと言われます。

 私の場合、そこまで大きな心傷体験はないと思いますが(忘れていなければ、、、)、過去の失敗とか傷ついた経験などが思い出されて、心が痛むことはあるので、スモールPTSD的なものは持っているものかもしれません。

記憶戦争

 結局、記憶って植え付けられるの?が裁判の争点になり、そこで、持ち出された実験が「ショッピングモール迷子記憶実験」。

 これは、実験に選ばれた親が息子に対し、5歳の時にショッピングモールで迷子になった時の話をする。

 もちろん、嘘のエピソードであるから、息子は覚えていない。

 しかし、当時のことを具体的に息子に話していると、息子の方から、思い出したと言って、親が教えた記憶に、新しい情報を加え始める。

 そのやり取りを5間くらい継続すると、息子はそれまでに親と作り上げた記憶を、本当の記憶のように認識し始め、実験の最後、嘘であることを伝えると、嘘であることを受け入れられないほど、偽りの記憶の信ぴょう性が増していたという実験である。

 つまり、偽りの記憶を植え付けることは可能であるということが証明された。
 
 これにより、偽りの記憶植え付け陣営は、敗訴に追い込まれ、この記憶回復療法ブームは下火になっていったそう。

 今でも進行中の裁判があるのか不明であるが、犠牲者の傷跡は癒えてはいないだろう。

終わりに

 マインドフルネスをしていると、今ここにいる自分は、生命体としての生きている自分だけと思える。

 しかし、一度思考が始まると、過去のこと、未来のこと、あれこれ考え、気づいたら言語に頭を乗っ取られ、エネルギーを消耗してしまう。

 この偽りの記憶事件も、自分には失った虐待の記憶があるはずだと、頭で考えを巡らせた結果、自己暗示をかけてしまったのでしょう。

 とすれば、日常の思考も、将に自己暗示合戦だと言えると思います。

 「思考に気をつけなさい」と、どこかの格言で書いてありましたが、思考との付き合い方を学んでいくことが重要だと感じました!


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