The Cribs / Night Network (2020) 感想
ポップ&スウィート&おかっぱ
「男に必要なモノは欲望まみれ」でお馴染みThe Cribs。好きなバンドなれどハマったことはなかったんですが、これはハマってしまいそうです。レーベルとの権利関係での法廷闘争を乗り越えての3年ぶりの新作は、過去一番ポップでスイートなアルバムになっています。
さよなら、全く知らないような人々/さよなら、部屋の中に沈黙を作り出す人々/僕らが祝福した夜にさよなら/待ってる間に守ってきた炎よ、さよなら
今作のイントロ的な1曲目、甘いメロディーとハーモニーでこれまでの生活との別れが歌われる"Goodbye"。
本作のスイートさはSteve Albiniプロデュースのハードな前作からの反動という面もありつつ、解散まで考えたという上述の揉め事(一時はバックカタログに対する権利を失いライブもできなかったそうです)で疲れ果て、いつものように叫ぶ元気がなかったせいなのかもしれません。
この曲に象徴されるように、アルバムを通じてギターが薄くリバーブのかかった中音域強めの音になっているため、全体の音像がこれまでよりもふくよかになり、合わせてボーカルもシャウト抑え目。ラフさに隠れがちだった彼らの甘いメロディーが素直に聴こえてきます。
最適解、なのか
シングル2."Running Into You"、ノイジーなギターが彩るパワーバラード3."Screaming In Suburbia"、キュートでポップな5."Deep Infatuation"、終盤に一発盛り上げる10."Siren Sing-along"など、今作では特にパワーポップみ溢れる曲が光ります。ロックにネタ切れ感が漂う2020年、メロディーの力だけでここまで闘えるのは彼らとMystery Jetsくらいのものです。
でも今、何かが君と最後に会った場所へと僕を呼び戻す/今でもここで電車が通り過ぎるのを待っている/今も昔と同じ、郊外で叫び声をあげる子供のまま/変わってしまったこともあるけど/君の魂は今も声が聞こえている
もし愛がただの悲しい歌なら/長く歌いすぎてしまった/あまりにも長く
6."I Don't Know Who I Am"、9."The Weather Speaks Your Name"など要所にメロウな曲を配置することで緩急も完璧です。
おまけに最後の「色々あったけどまだまだやったるぜ」という決意表明のような"In The Neon Night"が初期の頃を彷彿とさせる、声を張り上げるおもろうてやがて悲しきインディーポップときたら、もう降参するしかありません。
結局のところ/君は自分の役割を全うしたってことだね/自分にできることを
過去が僕に背を向けてしまったみたいだ/でも僕は幸せだよ/あの頃の無垢さはもう戻ってこないって知ってるから/こう言ってやるさ/いい厄介払いだ
The Cribsと言えば甘いメロディーをパンキッシュに、時にアツいシャウトとともにぶつけるのが魅力ですが、個人的にはあんまりパンクだと聴いていて疲れてしまうところがあります。かのねごともカバーした"Tonight"みたいな曲でアルバムを作って欲しいとか思っていました。
しかしポップ寄りだと好みドンピシャかというとそうでもなく、Johnny Marr加入という謎ムーブにより一躍リリカルになった4th"Ignore The Ignorant"(2009)や落ち着いたテンポの曲が多い6th"For All My Sisters"(2015)はえらく没個性でした。好きですけどね4th。
結果として今まで彼らとは付かず離れずな距離感で接してきましたが、The Cribsらしいノイジーさを保ったまま柔らかい音にすることで棘をなくし甘いポップアルバムに仕上げるという力技により、今作で遂に最適解を見つけたような感じがします。
点数
8.0
かつて「素敵に歳を取るところをファンに見せたい。60になっても怒ってるようなパンクジジィにはなりたくない」と語ったのはNoel Gallagherですが(出典忘れました。多分2005年頃のインタビュー)、未だにデビューから変わらぬおかっぱとピタTの彼らも気づけば40歳、キャリア20年の大ベテラン。いい歳の取り方をしているのではないでしょうか。
メーンズニーッ、ぁフォーグリーっ!とモッシュしたい御仁には物足りないかもしれませんが、個人的にはこのままポップ職人路線を邁進して欲しいです。近年はポップ風とハード風を交互に出しがちな人たちなので次作がどうなるかは分かりませんが。
(参考記事)
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