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「強みに基づいた子育て」は学力に影響を与えるのか?論文の結論はコレだ!

こんにちは。紀藤です。さて、本日も「強み」の論文のご紹介です。
今日の論文は『強みに基づいた子育てが、学業成績に与える影響』についての論文です。
これは、息子を持つ父としても読まねば・・・!とメラメラと燃えました。結果、子育てについての視点も拡がる、大変興味深い論文でした。ということで、早速内容を見てまいりましょう!

<今日の論文>
『強みに基づく子育ては学力を予測するか?:忍耐力とエンゲージメントの媒介効果』
Waters, Lea E., Daniel Loton, and Hayley K. Jach. (2019). “Does Strength-Based Parenting Predict Academic Achievement? The Mediating Effects of Perseverance and Engagement.” Journal of Happiness Studies 20 (4): 1121–40.

本論文の要旨

  • 強みに基づく子育て(Strength Based Parenting:SBP)とは、子供の独自の個性、能力、才能(すなわち強み)を知り、それを奨励することを特徴とする子育てのスタイル。

  • 最近の研究では、青年期のウェルビーイングを予測する上で、他の子育てスタイルよりSBPが寄与していることが実証されている。

  • 本研究では、オーストラリアの公立中学校の生徒741名を対象とし、「親の子育てスタイル」「エンゲージメント」「忍耐力」について自己報告の調査を行い、3ヶ月後に学業成績を確認した。

  • その結果、「強みに基づく子育て(SBP)」は、学業成績に有意な効果を示した。また「忍耐力」を媒介して学業成績を高めていたが、「エンゲージメント」を媒介して学業成績は高まっていなかった。

  • よって「強みに基づく子育て(SBP)」は、忍耐力を高め、より高い学業成績を達成するというモデルが支持された。

おお、、、!冒頭から「強みに基づく子育て」は「学業成績を高める」という大変興味深い結論が提示されました・・・!では、この論文の詳細はどんな内容なのでしょう。詳しく、見ていきたいと思います。

教室も大事だが、親の関わりも大事だよね

「強み」の研究は、ポジティブ心理学をベースとしています。そして、ポジティブ心理学介入では、学校での研究も数多く行われています。これまでの研究において、「教室(学校)において、ポジティブ心理学の介入を行うと、ウェルビーイングや学業成績に影響を与える」ことが示されています。

しかし、当然ながら、教育は教室の中だけで行われているわけではありません。心理学者ユリ・ブロンフェンブレナーの『生態学的システム理論』よると、「人間の発達が個人とその周囲の環境との相互作用の中で形成される」という考えがあり、そのシステムの中で人は発達するとします。

この「システム」というのが面白いのですが、ミクロ・メゾ・エクソ・マクロと4種類のシステムが入れ子になっているといいます。

たとえば、一番小さなシステムは、両親・家族、友人、教師などです(=ミクロシステム)。これらの人々から、人は直接的に影響を受けます。

また少し大きいシステムになると、家庭と学校、友人と家族間などの相互作用のシステムがあります(=メゾシステム)。たとえば両親がどの家族と仲が良いかも、間接的に発達に影響を与えるでしょう。

さらに、よりもう一つのシステムとして、親の職場や地域のサービスなどもあります(=エクソシステム)。たとえば、親の仕事が忙しければ、鍵っ子になったり、塾に多く行くことになったりと影響があるでしょう。そこに、ファミリーサポートのような地域サポートがあるorなしも影響してきます。

さらに大きいシステムは、社会的な構造や文化です(=マクロシステム)。たとえば、日本なのか、アメリカなのか、中国なのか、その文化的な信念の違いは教育観やシステムに影響を与え、学校・地域・家庭を包み込むように影響を与えます。

こうした社会生態学的な環境において、学校の教室における教育は一部でしかありません。そして本論文では、ミクロとメゾ、マクロ、各システムに大いに影響を与える「両親」という重要な存在を考えずに、教育は語れません。

本論文ではそんな両親の関わりが、生徒のウェルビーイングと学業成績にどのように影響を与えているのか? ここにスポットを当てています。

(ちなみに、本論文が書かれたときは、ポジティブ教育は、教室での介入による研究が中心であり、家族のポジティブ教育の影響は、あまり研究されていなかったよう)

教室も大事だけど、親の子育ても大事。
確かに、そりゃそうだ!

「権威的な子育て」VS「強みに基づいた子育て」

さて、親の関わり方については、昔から様々な研究が行われています。
多くの研究では、「権威的な子育て」(=子供の世話をしつつ、適切な制限を設ける子育てスタイル)を中心に研究が行われてきました。たとえば、「(1)応答性」(親が子供のニーズに応える度合い)と、「(2)統制性」(親が子供に自主性を与えるか、厳格に統制するかのバランス)という2つの要素が教育における成功の予測因子になっている事を示しました(Lambornら,1992a)。

一方、本研究で焦点を当てているのは、そのスタイルではありません。タイトルの通り「強みに基づいた子育て」です。このスタイルには、(1)子供の強みを知り励ますこと、(2)親が自分の強みを親の役割に活かすことが行動として含まれます。強みを知り、それを活用することは、子供の前向きな対処やウェルビーイング、自尊心、自己効力感、生活満足度などと有意に関連していることがわかりました。

そして、高校生を対象に調査した研究(Waters, 2015)では、10代の生活満足度において「強みに基づく子育て」は、「権威的な子育て」以上のポジティブな影響を与えることを示しました。

一部の研究ですが、強みに基づく子育てのよりパワフルな影響が示されているようです。その理由は、肯定的な関わりと、強みを利用する関わりが、個人の内的なエネルギーや内発的動機づけを高め、そして長期的な目標に邁進することに役立った可能性を示唆しています。

では、「強みに基づく子育て」が、どのようなプロセスで学業成績に影響を与えるのか?この点が気になるところなわけです。

本研究のプロセス

・・・ということで、本研究では具体的に、上記の流れをより詳しく調べるために、以下のように研究を進めました。

<検討するもの>
a)忍耐力とエンゲージメントのプロセスがどのように学業成績を予測するのかを検討する
b)強みに基づく子育て(SBP)が、忍耐力とエンゲージメントのレベルを高めることで、学業成績を予測するかを評価する

<調査対象>
・オーストラリア メルボルンの公立中学校の生徒741名
(平均的・中間的な社会経済地域の学校)

<調査尺度>
1)強みに基づく子育て尺度(SBP尺度 全14項目)(Waters, 2015)
 a)「SBP-知識」の尺度(7項目)
 例:「両親は私が最も得意とする事を見ている」
 b)「SBP-活用」の尺度(7項目)
 例:「両親は私が毎日自分の強みを使うべきだと勧めている」
2)エンゲージメント(20項目)
3)忍耐力(計画や目標を完了までやり遂げる能力。努力家であること)
4)学業成績

※調整する要因として、「親のスタイル(PSI-Ⅱ)」を含めた。
(自律性を与える子育てか、反応的な子育てスタイルか)

調査結果

調査の結果、以下のようなことがわかりました。
「強みに基づく子育て」→「エンゲージメント/忍耐力」→「学業成績」の媒介モデルとして調整した結果とした結果です。

  1. 「強みに基づく子育て」は、「忍耐力」と「エンゲージメント」の両方を有意に予測した。

  2. 「強みに基づく子育て」は、「学業成績」に対して直接の効果を示さなかった

  3. 「強みに基づく子育て」は「忍耐力」を介し、「学業成績」に間接的な影響を与えていた

  4. 「強みに基づく子育て」は「エンゲージメント」を介し、「学業成績」には影響を与える効果は見られなかった

調整済み研究結果モデル

まとめ

本論文では、「強みに基づく子育て(SBP)」が「忍耐力の向上」につながり、「学業成績の向上」をに繋がる可能性を示唆しました。

一方、「エンゲージメント」が学業成績を予測しなかった理由についてですが、エンゲージメントが忍耐力を高めている影響があるのではないか、という仮説を立てています。(このあたりはあまり触れられていませんが)

いずれにせよ、「強みに基づく子育て(SBP)」は一次成果として、忍耐力とと(学業への)エンゲージメントに影響を与えることは示されているとのこと。今度の子供への関わり方も、考えさせられる論文でした。

<本日の名言>
人と絶対に比較せずに、
その子の本分を見つけて思い切り伸ばしてあげることです。
辻井いつ子(ピアニスト辻井伸行の母)


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