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9点と心の強さ #手紙革命

ナカザワくんへ

 

 ナカザワくん、久しぶり。お元気ですか。
 この間は、結婚のお祝いメッセージありがとね。
 全然連絡とってなかったのに、わざわざLINEしてくれて、本当に嬉しかったです。

 君とは保育園から小学校、中学校、高校とずっと一緒だったね。
 ちゃんと仲良くなったのは、小学校の高学年ぐらいだったかな。
 君とは中学の野球部でも同じ時間を過ごしたから、本当にたくさんの思い出があります。

 細かい思い出をあげたらキリがないのだけれど、1番印象に残っているのは、君がカラオケの精密採点で9点を出したことかな。たしか、ブルーハーツの情熱の薔薇。

 あれから何回もカラオケに行ってるんだけれど、9点以下の点数は出せていません。

 君の歌声は天からの授かりものだよね。

 あの感動的な声をもう一度聞きたいです。


 そんなナカザワくん、君は本当に周りからいじられるキャラクターでしたね。
 時には周りの想像を超えるほどの返しをしてくれる君は、いじられ笑いのテクニックが際立っていて、とても輝いて見えました。


 私は、いじられる人の中でも、いじりをうまく笑いに変えられる人は、すごく心の強い人だと思います。
 いじりは、諸刃の剣。いじられる人との間に信頼関係があるからこそ成立するものであって、この関係性がないとそれはただのいじめになってしまいます。

 「いじめ」と「いじり」は本当に紙一重です。
 いじる側だけが通れる信頼の一方通行ではだめなんです。

 大人になってからのいじりは、みんなこの仕組みを理解しているから、(何も考えてないよほど頭の悪い人以外は、)信頼関係が築かれていないうちに下手にいじろうとしてくる人はいません。

 ただ、学生はみな無邪気です。良い意味でも、悪い意味でも。
 平気で一方通行の道を猛スピードで走ってきます。

 大抵の人は、急に飛び出してくるその危険な道から遠ざかりたくなります。

 でも君は、遠ざかることなく、立ち止まって、走ってくるその車をギリギリまで観察していましたね。
 そして、時にはその道に自分で中央線を書いて対面走行可能な道に変えていました。

 結果的に、君は一方的な信頼を受け入れ、観察し、信頼し、双方合意の上の笑いを生んでいたのです。
 これは、簡単に真似できるテクニックではありません。

 もちろん、それが本当に危ない車だった場合は、瞬時に避けていましたが、君は一概に危ないと決めつけずに、まずは歩み寄っていました。


 学生時代は、照れくさくて、君に大差をつけて負けている気がして、伝えることができませんでしたが、
嫉妬するほどに、尊敬していました。
 そして、本当に心が強い人間だと思っていました。

 君から学んだことは、全て感覚で突っぱねるのではなく、歩み寄ってみることで得られる信頼関係もあるのだということです。

 それから私は、少し苦手だなと思う人に出会っても、思い込みで関わることを避けるのではなく、ちゃんとその人を観察することから始めることにしました。
 おかげで、隠れていた相手の魅力を発見でき、表面的ではない深い人間関係の構築ができています。
 そして、そこから生まれるいじり合える信頼関係、いじられ笑いに救われています。


 ありがとう。


 お互い大学が離れて社会人になり、今では会う機会もなくなってしまったけれど、学生の頃の思い出には必ずナカザワくんがいます。

 大人になった君と、9点の昔話に花を咲かせる日が来るのを、楽しみにしています。

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