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コロナで変わるコワーキングスペースの未来予測 2020

こんにちは。
コワーキングスペース茅場町 Co-Edoの田中弘治です。

ことしも12月のアドベントカレンダーの時期になりました。この記事はコワーキングスペース運営者限定アドベントカレンダー 2020 の4日目の記事です。
https://adventar.org/calendars/5326

4日目といってもことしはエントリーに空きがあり、実質初日の記事になりました。あしたも空いていますので、どなたかぜひどうぞ。

これまでこんな記事を書いてきました。

これまでのアドベントカレンダーの記事へのリンク一覧
リピート購入者が急増した回数券の価格改定のお話(2019年)
「雑談OK」から考えるコワーキング文化の変遷(2018年)
第4世代型をはじめとするコワーキングスペース業界の状況(2017年)
「1日店長」イベント(2016年)
コワーキングスペース利用が初めての方向けの話(2015年)
無料のコワーキングスペース(2015年)
コワーキングスペースの世代論(2014年)
コワーキングスペースの物件選び(2013年)
コワーキングスペースでの飲み会(2012年)

ことしは少し趣向をかえて、未来予測的なことをしていこうと思います。

といっても個人的には未来予測なんて不可能だと思っていて、「ほらわたしの言ったとおりになったでしょ」というのは、単なる偶然か、過去の記憶が書き換えられて以前からそう言っていたと思い込んでいるかのどちらかということがほとんどです。
実際、わたしも過去のメモ書きを読み返すことがありますが、「この件は正確に予測していた」というものでも、よくよくみてみると結果は合っていてもその論拠は記憶と違っていて、人間の脳の不確かさをみせつけられて落ち込みます…

「こうなるだろう」というのは、あくまで仮説であって、複数の仮説を持ち、そのいずれも否定することなく、どれも可能性を捨てずにいるということが大切なんだろうと思います。
それでもひとは「よからぬ未来」については不安や恐れから過剰に意識するもので、それを避けるべく対処をするというのはやっぱり大切でしょう。

実際、コワーキングスペースの世代論を書いたときは、当時増えてきたコミュニティと距離をおいたコワーキングスペースがその後も増加していくことを想像し、それでもコミュニティを大切にしたコワーキングスペースが頑張ってほしいという思いがありました。
6年前に想像したその仮説のとおり、2020年現在、個人が作業することに力点をおいたコワーキングスペースは増え続けています。
利用者が求めている以上そのようなスペースが増えることは無理からぬことではありますが、この傾向がこのまま加速していくかというとそういう未来ばかりでもありません。

大切なことは、すべては仮説ですので、自分の意見に固執することなく、あらゆる可能性を排除することなく、自分が満たしたい想いを実現するために何ができるかを考えていくことなのではないでしょうか。

新型コロナウイルスはわたしたちに多くの影響を与えました。
コワーキング界隈にとってもその影響はとても大きく、楽観的な未来も、悲観的な未来も、両方同時に想起されています。
楽観的な未来のみを盲信するのではなく、また、悲観的な未来だけにとらわれるのではなく、冷静に仮説を立てるとともに自分の想いを大切にして、コワーキングというものが社会にとってどんな存在で、どのような影響を与えているものなのかをみていきたいと思います。

コワーキングの発祥

コワーキングという文化は、フリーランスのような自宅で孤独に作業をしていたひとが「たまには集まって仕事をしよう」という呼びかけで集まったことがきっかけで生まれたと言われています。
個人で仕事をしていこう・自宅で仕事ができると考えて、個人で仕事をするスキルを身に着けた人であっても、「つながりを求めた」というのがその萌芽です。
そして当初は「つながること」それ自体を目的としていたのが、やがて、「つながること」が生み出す価値に気づいたのだと思います。
このコワーキングの文化が15年以上経って、更に拡がっているというのは、つまりはそういうことでしょう。

新型コロナウィルス感染症の影響

コワーキングスペースにおける COVID-19 の影響については、現在開発中のコワーキング・パスポートのティザーサイト内にも書きました。

端的に言うと「感染拡大を防ぐためひととひとの接触を避けようとする、コワーキングスペースにとってマイナスに働く状況」と「オフィスでしか働けない社会からの脱却により、社会と繋がりながら自分自身の業務を行う場所を求める、コワーキングスペースにとってプラスに働く状況」のどちらも考えられる事態となったといえます。

コワーキングの文化はコリビングやアドレスホッパーというライフスタイル・ワークスタイルの変化に繋がっていき、今年はワーケーションというワードまで世間一般に広まることになりました。
また以前から浸透しつつあったテレワーク・リモートワークについても、緊急事態宣言に伴いロックダウンに近い状況が強いられたことで一気に環境が整備され導入が推進されたというのは間違いないでしょう。
これらの社会の変化は、感染症の拡大がなければもう数年遅れていたと思いますが、ある意味ウィルスが社会を進化させた(時間軸を早めた)といえます。

一方で、そのような急激な変化というのは、往々にして反発も招くため、緊急事態宣言があけるやいなやテレワーク・リモートワークを解除した企業もありました。感染症の拡大が終息したとしても、継続する企業と継続しない企業でより2極化していくと思います。

コワーキングスペースに求められる機能の変化

テレワーク・リモートワークをするひとが増えれば、その受け皿のひとつには当然にコワーキングスペースがあります。
在宅勤務のひとのなかには、自宅よりも作業が捗る場所をもとめ、カフェやコワーキングスペースをはじめ様々な場所を巡っている人が一定数いるはずです。

そのような方々の多くは、コミュニティの要素よりも、ワークスペースとしての利便性を大切にしていることでしょう(コワーキングスペースを構成するCとWの2つの要素についてはこちらの記事をご覧ください

会議がオンライン中心になったことで、Zoom等を使用したオンラインミーティングが可能なスペースというのが求められていますし、自分の話し声がほかのひとに聞こえないよう個室を求めるという傾向もあります。

そうなってくると、作業ができる場所=コワーキングスペースということではなくなってくるので、駅ナカにある作業ブースやカラオケボックス、一時的にはホテルのデイユースのようなものもますます増えていくことでしょう。
ワークスペースとしての利便性に特化したコワーキングスペースは、個人が集中できる環境を求めて、より多様化していく可能性があります。

いずれにせよ、短期的には作業に集中しやすいスペース・個人で利用するのに適したスペースというのが求められ、そのうちのひとつが作業集中型のコワーキングスペースということになりそうです。

それ以外でいうと、少人数の会議スペースの需要も増えると想像できます。
ひとりもしくはふたりで使う4~6人の部屋、および、3~5人くらいで利用する6~8人の部屋の需要は今以上に増えていくのではないでしょうか。

一方で、この傾向が数年以上にわたり中長期的にも続いていくかというと、そうとも限らない気もしています。
スペースが個別に仕切られれば仕切られるほど、スペースあたりの売上は下がっていきます。コワーキングスペースの料金はもとより収益性の高くない価格帯で提供されているため、料金の相場が上がるか、もしくは個室以外のスペースが活用される流れに徐々に戻っていくかのどちらかになるかもしれません。

大手企業がコワーキングスペースをつくる動きが加速する

テレワーク・リモートワークが普及したことと歩調を揃えるように、これまでコワーキングスペース運営をしていなかった大手企業が、コワーキングスペースを作っていく動きがあります。
これは、これまでのコワーキングスペースの世代論とは、違った方向性です。
簡単にコワーキングスペースの世代論を整理すると

第1世代・・・個人や中小企業が余っている部屋等をシェアすることで始まったコワーキングスペース
第2世代・・・コワーキングスペースを始めるために不動産の賃貸契約等を行い、ビジネスとして本格的に追求しだしたコワーキングスペース
第3世代・・・大企業などがそれなりの額の資本を投入し、大規模に運営されるコワーキングスペース
第4世代・・・(Yahoo! LODGEのような)運営者がコワーキング売上という直接的な収益性を求めず、外部とのコラボレーション等を目的に開設されたコワーキングスペース(無料で提供されることが多い)

これらを図にすると、次のようになります。

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そして、このあとの第5世代というものは、発展の方向性が多岐にわたると考えられるため、これまでのような分類ができなくなるとみています。
いろんな新しいムーブメントが生まれることで「これが第5世代」と括れなくなるだろうということです。

多数考えられる発展の方向性のうちのひとつが、これまでコワーキングスペース運営をしていなかった企業によるコワーキングスペースが生まれる流れです。

収益性を求めてないかといえば、おそらく社内的にそのような話で始まってはいないと思います。事業計画としては収益を拡大するものとして描かれていることでしょう。
しかしながら、本音でいうと、収益性が大きいかどうかではなくコワーキングスペースをつくることそのものを目的として手掛けていく面があると思っています。
その大半は大手企業であり、それも金融機関や電力会社のような、まったく異業種からの(第4世代型とは違った)参入です。

飲食店などをコワーキングスペース化するサービス

カラオケボックスや飲食店の空き時間を、コワーキングスペースとして有効利用するというサービスは数年前からいくつかありました。
今日時点ではどのサービスも事業としての規模はそれほど大きくないと思いますが、感染症の影響で飲食店経営には大きな打撃を与えていることから、今後はそのようなサービスが急速に拡大する可能性はあります。
これまでなかなか広まらなかった理由はいくつか考えられますが、飲食店とコワーキングスペースでは用意されている設備が同じようにみえてもその用途が大きく異なるため、単純に空き時間があれば活用できるのかという課題はありそうです。
設備や運営方法を工夫することでこれまでネックだったことが解消されるということであれば、利用者として選択の幅は拡がっていくでしょう。

その他、遊休スペースをマッチングさせる方向性

たとえば企業内の会議室など、遊休スペースを登録し、利用者とマッチングさせるスペースも増えていくでしょう。
上述のとおり、小さな会議スペースをコワーキング利用したいというニーズはあるので、登録数が増えればこのようなサービスを活用する流れも生まれそうです。

この動き自体は、コワーキングの第1世代と同様の使われ方ともいえ、その意味では一部にそのような回帰がみられるという言い方もできます。
この点からみても、第4世代以降の方向性は単一の傾向が見て取れるということではなくて、様々な形態に発展していくという予測不可能な面があると考えます。

その発展型のひとつとして、個人が友人知人を自宅に招いてコワーキングをする文化が生まれる可能性があります。
これはコワーキングの文化の黎明期に存在したJellyに近いものですが、昨今の感染症拡大は、一周回って以前あったものが形を変えて再提出されるということにもなりえます。
Airbnb や Uber Eats のような CtoC のサービスとして、プライバシーやセキュリティを考慮したサービス提供ができれば、コミュニティ要素のある(小さな)コワーキングスペースとして広まるかもしれません(Small Coworking)

複数のコワーキングスペースを利用できるサービスが増える

企業の視点に立つと、オフィスを解約し社員が在宅勤務をしたりコワーキングスペースを活用する流れがあり、また、リモートワークで地方に移住する社員がいたりワーケーションの制度を利用し2週間〜数ヶ月程度別の地域で働くといったケースが考えられます。

社員の利用するコワーキングスペース料金を企業側が負担するというのは当然の流れかと思います。
しかしながら、各コワーキングスペースの料金を個別に精算したり、企業が個別に個々のコワーキングスペースと契約するというのは避けたいところでしょう。
となると、必然的に、企業が契約可能なサービスというのが増えていくと思います。

企業はそのような横断利用可能なサービスを利用し、そのサービスを通じて各社員が(全国の)コワーキングスペースを利用するということが考えられます。
もはや単独のコワーキングスペースが、単体では、社会のニーズに完全に対応できるとはいえなくなってきたのかもしれません。

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すでにいくつか横断利用可能なサービスは存在します。社会が変化していくなかで、そのようなサービスが増えていく可能性が考えられます。そのようにサービスが林立した場合、どのようなサービスが生き残るでしょうか。

ひとつは単純に利用できるスペースの多いサービスということになるでしょう。
価格競争力がある、費用対効果の高いサービスが求められる可能性もあります。
ますます単独のコワーキングスペースが提供できる価値というのは限られそうです。

コミュニティを大切にするコワーキングスペースができること

コワーキングスペース運営者の視点で将来を想像すると、残念ながら悲観的な未来もみえてきます。
複数のコワーキングスペースが利用できることが売りで、とにかくひとつでも多くのスペースをと数を集めるサービスもでてくるでしょう。
そういうサービスを横目に、各コワーキングスペースが単独で努力をしていても、気づいたら数が力を持ち始めます。
そして、あるときから利用者にとっての選択肢は「数を集めたサービス」のみになってしまうかもしれません。
そうなるとこの先、コワーキングスペースの運営者は(好むと好まざるとにかかわらず)そのサービスの決めた価格帯で勝負するほかありません

独自の魅力を追求しよう

コミュニティを大切にするコワーキングスペースのみが生み出せるものがあります。
それが、個性的であることの価値です。

コワーキングスペース同士が連携していくことで、コワーキングスペースのネットワークが生まれます。
コミュニティが集まることでコワーキングスペースに価値が生まれ、コワーキングスペースが連携することで単独では提供できない価値になっていくでしょう。

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利用者はそのネットワークに魅力を感じ、安心してコワーキングスペースを利用できます
良質な利用者の集まるコワーキングスペースによるネットワークは、数を集めたサービスの価値をも凌駕することになるでしょう。

コワーキングの発祥は個人で働くフリーランスがお互いにつながること自体を望んだにすぎませんが、それが大きく発展したのは、「つながること」自体の生み出す価値に多くの人が気づいたからと述べました。

感染症の影響が長引くなか、社会はふたたび、つながることの価値を再認識しているように思えます。
オンラインでもコミュニティを維持できることがわかった一方で、オフラインでしか得られない価値もあるという点も見えてきました。

アフターコロナという言われ方をします。ウィズコロナという言われ方もします。
今後社会がどのような方向性で発展していくのかは、まだまだ未知数ですが、それでも、つながることの価値はこれまで以上に強い意味を持つことになるでしょう。

先を見据えて今できることを

そんなことを考えたとき、まだまだ感染症の影響の大きな今しておくこととして、コワーキング・パスポートというネットワークを構築しようと考えました。

広くパブリックな形で提供していくものにしたいと思っています。
一般社団法人コワーキングスペース協会コワーキング協同組合にも協力していただき、まずは横断利用できるサービスを提供するべく年内にベータリリースしようと準備しています。
サードパーティによるサービスではなく、コワーキングスペース同士が連携し、自ら提供していくことで利用者の利便性と運営者の運営負担のバランスをとって持続可能な仕組みが重要だと考えました。
利益の多くをサードパーティに渡すのではなく、コワーキングスペース同士で分け合いましょう。それがひいては利用者のためになるでしょう。
社会の変化に伴い生まれた需要は、コワーキングスペースが受け皿となるようなネットワークを作り受け止めましょう。それがコワーキングスペースの社会的意義といえるでしょう。

感染症の拡大が終息し新しい社会がスタートするときに向け、コワーキング・パスポートのネットワークを今つくりたいと強く願っています。
もしよろしければ、コワーキング・パスポートのティザーサイトを見ていただき、趣旨に賛同していただけるのであれば仮登録をお願いいたします。

未来予測それ自体には意味がない

100人いたら100通りの未来予測があります。
未来を正確に予測できる人はいません。
できることは、いつの日も、今この時点を起点にこれから何ができるかを考えることだけです。
そのために、幅広く仮説をたてておきたいと思い、今年は未来予測をきっかけに意見を交換したいと思いました。
自分と違う意見を大切にしていきたいと思います。
よろしければ、みんコワCo-Edoで、いろんな話をしましょう。

それがお互いの未来を明るくすると信じてます。


コワーキングスペース運営者限定アドベントカレンダーの6日目は小高パイオニアヴィレッジでコミュニティマネージャーを務める野口福太郎さん(福ちゃん)です。楽しみにしていますー

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