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「月と彼女」

二人あまり知らない街の中

どこか新鮮さを感じていた

長年一緒にいた二人でも

見知らぬ土地の空気に触れると

不思議な気持ちになる

それはまるで 

これまでの長い二人の時間を

忘れさせてくれるよう

それはこの土地の神様の

優しさだったり、魔法だったのかもしれない


地図アプリで帰りの駅までの道筋を調べ

今日見た、色彩豊かな金魚たちを思い返し

たわいもない話をしながら歩いた

それでもどこか

終わりを感じているからか

あまり頭に残らずにいた

彼女の声をきっかけに

ふと見上げた空は広く

月が霞輝いて見え

僕らを見下ろしている


「こんな都心でも広い空が見られるのね」と

君が言うまで気づかなかった

冬の澄んだ空が、冷たくこれからの別れを

伝えているようで、悲しくなる

地下鉄の駅へ続くメトロの入り口

近づくたびに、鼓動が高鳴る

もう終わってしまう


メトロに続くガラス扉を開けた時

君は言った


「私、少し散歩してから帰るね」

「そっか、わかった。気をつけてね。」

僕はそう言って、振り返らずに

階段を降りて行った

見知らぬ街を一人で散歩する彼女を

見送ることもしないで


一歩一歩階段を降りるたび

これまでの時間が、思い出が、記憶が呼び起こされる

一歩一歩階段を降りるたび

涙で視界が滲んでいく


いつもそう

悲しいほど思い出はいつも綺麗で

いくつ歳をとっても、こればかりは慣れなくて

いつも締め付けていた、今では軽くなってしまった

薬指がやけに寂しい


君はあれからどれくらい

見知らぬ街を歩いたの

君は何を感じて、何を思って

夜の散歩を一人でしていたの

どうして、僕は一緒にいないのだろう


月と彼女に見送られた日

失ってから気づく、大切なもの

それを何度繰り返してきただろう

今日もまた、思い知らされる

やっぱり

いくつ歳をとっても、こればかりは慣れなくて

そんな不器用な自分が嫌になる


少しは大人になれたと思っていた、勘違いしていた

まだ前を向ける勇気も器用さも

持ち合わせていないよう

そしてまた

君のことを思う


たくさん傷つけてごめんね

ちゃんと話を聞けなくてごめんね

思ったように寄り添えなくてごめんね

わかりあえなくて、支えられなくてごめんね

そんな中、こんなにも

当たり前がありがたいことだったって

伝えきれなくてごめんね


これまでこんな僕と一緒にいてくれてありがとう

楽しい思い出も喜びも悲しみも

たくさんくれてありがとう

共に感じてくれてありがとう

辛い思いをさせてごめんね

それでもいっっしょにいてくれてありがとう


たくさんの時間をくれた君に


ありがとう


心から


ありがとう


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