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50歳のノート 「自分の価値✖️オンラインサロン」


音声SNSのClubhouse が登場したころ小さい規模の個人事業主をコンサルするコンテンツにハマった。
コンサルは別のClubhouseでも聞いたことがあった。TVでも名前を聞くSNS著名人が相談に答えるルームだった。
地方の主婦が「やりたいことがわからない」という相談があがった。自分の価値を見つけたいということである。それに対して主催者はマーク・ザッカーバーグの書籍を勧めアインシュタインのエピソードを早口でまくし立てて終わった。私には相談者がそのアドバイスと自分自身を繋げて何かを見出すイメージが無かった。それくらいなら自分で見つけていそうだ。
とはいえ、相手の悩みをどう紐解いて変身させるか長年の興味がある。NETFLIX の「クィア・アイ」という変身コンテンツを繰り返し見るほどだ。相談者を5人のスペシャリストが変身させる。ファッション、ヘアメイク、料理、インテリア、マインドセットのそれぞれのプロが相談者のライフスタイルを変えてしまう。すごいものの外側からの押し付けではない。相談者と会話しながらその人らしさを見つけて輝かせていく。本人と地続きだからこそ、自信がなかった相談者が自分を取り戻してさらにパワーアップする姿にわくわくする。
そんなことができるなんて魔法のように思える。コンサルも魔法の一種に違いない。

きっとその魔法使いに辿り着くのが困難だし、すごくお高いイメージがある。なんなら期待を釣り上げただけで内容の無い詐欺もありえる。ところがClubhouse で手を挙げれば主催者にその場で無料で相談できるというハードルの低さが魅力だった。
面白トークルームからご相談ルームがブームになった。中でも企業のコンサルをしているすがけんさんという方が「個人事業主の人にもっと稼いでもらいたい」とコンサルルームを開いて人気になっていた。イケメンの上に優しい声でシャープな質疑応答が続くすがけんさんのルームは質問したい人たちが続々と手を挙げている。
優しい声ですがけんさんがメインで回答し、サブホストが2人居てにぎやかしをしていた。相談者は「ネイルサロンを1人でやっている」「自然素材のお菓子を作って売っている」「アクセサリーを自作して売っている」人たちだった。「もっと売り上げを上げたい」が共通の悩みである。それに対してどこかで聞いたことのあるテンプレートな回答をするかと思いきや、「なぜその事業をやっているのか」というそもそもの質問から始まった。そもそもを聞き、どうやったら同業に比べてお客様に価値を出すことができるのか、どれだけお客様に変化量を出せるのかという話である。「価値は相手の変化量」というすがけんさんの大切にしているエッセンスである。なるほどの説得力だった。

「あなたがその事業をすることでお客様にどういう変化が起きますか」という問いにほとんどの相談者が沈黙になった。なんとか絞り出して回答すると、どんどんそこに突っ込まれて答えられなくなる。ルームに集う参加者も自分だったらどう答えるか真剣に考え、ルームが終わるとどっと疲れるほどの熱気があった。
ある日のルームで「照明器具の代理店販売をしているが売り上げが落ちていて困っている」女性の相談者に対してすがけんさんと50分以上もやりとりが続いた。照明器具はカタログ販売で内装業者がお客様になるそう。相談者にあれこれと鋭い質問が重ねられたが同業他社に対する強みもお客様からみた価値の情報が出てこない。なぜその事業をやっているかという質問に対してご家族が経営されていてそれを引き継いだのだという。すがけんさんから優しい声であんなに鋭く質問が重ねられたら自分だったら泣くしかないところ、相談者はぼやぼやとした回答を返している。その場は珍しく突破口まで辿り着かずに終わった。すがけんさんは「僕は答えを僕から言うと言うことはしない。その人が自分で考えることができなくなるから。自分で考えることができるようになってほしい」とのことだった。その回はすがけんさんも役になてなかったとすまなさそうにコメントしていた。

すがけんさんは企業のコンサルで収益を得ているので無料で個人にコンサルし、若い人たちにもっと自分で稼げるようになってほしいと言う。
当時Clubhouseの盛り上がりを機にオンラインサロン誕生ブームになった。個人事業主をもっと稼げるようにするサロンややりたいことを見つけてビジネスにしていこうというサロンも雨後の筍のように誕生した。
縮退し始めたClubhouseからインスタに活躍の場を移し、すがけんさんのコンサル活動は続いた。コメントで「すがけんさんのアドバイスで売り上げ10倍になった」という変身成功譚を見るともっと知りたくなった。
すがけんさんが登壇するサロン限定イベント見たさに2つのオンラインサロンに入会した。ひとつは自分らしさの価値を見つける場、もう一つは個人事業主を応援する場である。自分は会社員だし、当時50歳ぎり手前のただの一般人女性である。一時ライターをしていたこともあるがそんなのは底辺キャリアである。(底辺感が伝わらないのでだいたいこの経歴は黙っている)。
すがけんさん見たさに入会したオンラインサロンだが、サロンのオンラインイベントがあり早速参加してみた。気が利かない上に人に緊張疲れする自分としてはとんでもなく勇気が必要だった。

自分らしさの方のサロンは企業の社内研修セミナーのようにカリキュラムがきちんと組まれている。さすがリクルート出社の主催者が考案したカリキュラムである。企業研修慣れしている身としては意図がすんなり理解できた。
ステップごとにテーマがあり、自分で自分を見つめてネタ出しした後に4、5人の小グループに分かれてフィードバックをし合う。同じ会社でもない、初対面で会う人同士で個人的な嗜好をつつき合うというなかなかチャレンジングな場である。
グループのルームに行くとほとんどが女性で自分と同じく普通の会社員や主婦だった。二十代から六十代までの女性で、全国の地域、海外からの参加の方もおられた。
小心者会社員としては制限時間内に全員にマイクが回るか、個人テーマが着地するかが気になる。そういう経験がなさそうなひとがひとりでしゃべり倒して終わる場もあった。
最後のステップに来ると相手に魅力を感じたことをコメントする。数回のテーマで数分ずつ喋る中で相手を見極めなくてはならない。会社の採用面接で、採用側として相手の良さを見つける感覚で臨んだ。
経験値があるゆえ私のフィードバックは喜ばれたが、自分のフィードバックはピンと来なかった。声とか言葉とかをお褒めいただくが、だから何をしろと…?
そのイベントでご一緒した「絵を描くのが好き」と言っていた地方のナチュライフが好きそうな主婦の方が「企業から案件をもらいました!」とSNSで発信しているのを見かけた。あれあれ…と思っていると他にもお仕事を得たと発信しているひとが続く。
もう一つのサロンでも「自分からは何もしていないけれども急に仕事の依頼があった」「自分でファッションブランドを立ち上げた」など変化が続いた。
気づくと自分が企業に成功した人を応援しその商品を購入してお祝いを持って駆けつける都合の良いモブキャラになっている。自分には何も変化が訪れていなかった。
推しているすがけんさんの魔法は「どう売るか」であって「何を売るか」がわかってない人には無効であることに気づいた。
同じくすがけんさん推しでその2つのオンラインサロンに両方入っているひとが多く同じ顔に出会うことになったが、聞くとすがけんさんの魔法を正しく理解して活用していた。

ぼんやりと現在地から動いてないのは自分だけだった。
「シンデレラが変身させてもらったと聞いて」と魔法使いのおばあさんの列に並んだとて、どこに行きたいか誰に会いたいかが決まってなければ魔法の馬車もドレスももらえなかった。
推しの勢いですがけんさんの対面イベントにも数回行き、インスタの事業相談ライブも欠かさず見、初対面の人同士でフィードバックをし合うオンラインサロンのイベント参加も重ねたが、結局自分が何者か、誰にとってどんな価値があるのか分からない。とうとう「自分探しをもう辞めよう」というコンセプトのオンラインサロンまで出始め始めたくらいだからきっと同じく自分探し難民がいるのだろう。

年月が流れ実家を出て部屋を借りることになるきっかけで2つのオンラインサロンを辞めた。お金と時間と気持ちのエネルギーを使ってきた割に人のつながりも残らなかった。相手はそれを望んでいたわけではないけど、自分はその場にとって都合のよいNPCでしか無かった。
それなのに変身したいという気持ちが腹の中で未だくすぶっている。

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