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50歳のノート「期待値というガチャ」



もういい加減落ち着きたいのに全然環境が安定しない。
井の中の蛙になって安定した小さな世界でドヤりたい。なのに、井戸がどんどん拡張して大海になってしまう。
この一年は特に目まぐるしい。環境のハイスピードな変化に怯えて目を見開いている。

会社でも同様だ。自分は小さなチームを持っている。自分以外は社員ではなく業務委託の方々だ。転職入社して一年になるが自分のチームへの期待値も目まぐるしい。
過度な期待をかけられて無理して頑張っていたところ今度は突然人数を減らせという。その人数の話も蓋を開けると他のチームで予算オーバーして採用してしまい、その帳尻合わせのために自分のチームを減らされるところだった。

人数減らせの話は自分のチームが価値を出せていないという評価なのかと思い落ち込んだが、実はそうではなく(深くはそうとも言えるけれども)理不尽の当たりどころになっている。

ビジョンや方針のない現場なので自分で方針を立てて価値を見せないといけない。
一方で、何のアウトプットも出してない人が上に上がって行ったりする。
いわゆる「政治」のお力だ。プレゼンス上手ともいう。自分のように泥臭いことばかりで政治をやってきていない人間はただただやられるしかない。

とはいえ、やってきてもいない政治はできないし、長年の職業で染み付いた責任感のためまずは自分の足元から固めて行った。

入社してすぐに気づいたのはすでに自分のチームに採用されていた業務委託のメンバーが自分の職種の経験がなかった。経験のない3人が市場価格の倍の値段でアサインされていた。
マクドナルドのバイトリーダーのようなニキたちが経験がないゆえセミナーなどでよく聞くカタカナ用語を並べてエンジニアたちにイキり散らかしていた。
当然中身がないので実態が伴っていなかった。ある程度自分がフォローして底上げしようとしたらニキたちはそれを嫌がった。
しばらく自分の稼働でフォローしていたが無理だし価格が何より高い。この予算でもっと人数を雇える。

そこで別の業務委託の会社のメンバーに入れ替えた。
リーダーの方は300以上の現場を経験してきたと豪語していた。面談のときにクセ強の違和感を感じたが自分に無い感覚ならば良い味方になってくれるだろうと思った。
が、入社してみると、まず連絡が取れない。Slackの使用中ランプすらつかない。
フルリモートの会社なので連絡が取れないと厳しい。連絡が取れない旨を伝えると彼は「チャンネルが多すぎて見つからない」と言う。主要なチャンネルはこれとこれで、と伝えてもまるで気が向いたときにしか返事が帰ってこない。
自分のチームをとりまく状況が目まぐるしく変わるため連絡が取れないと厳しい。
さらに彼は昨日指示したことも翌日初めて聞いたかのように忘れてしまう。
それを上書きするように毎朝のデイリーで「こんなひどい開発現場は初めてだ」と罵られる。
一緒にアサインされてきたサブリーダーの方に接近して少しずつ情報を集めるに、社内で別の案件を複数掛け持っていてうわのそらになっていることがわかった。
フルで1ヶ月の料金で契約しているので連絡も取れず指示したことも1日で終わることを一週間かけている。しかも文句ばっかりで自分のチームであるかのように振る舞っている。

既存の協力会社から入れ替えという出血の後なのでどうしたものか悩んだ。
自分が自信が無いからネガティブに捉えているのだろうか? 自分の快適さのために人をどんどん入れ替えているのか?

そこで同期入社したマネジメント(戦略、政治)に強いYさんに相談した。
すると早く切った方が良いと言う。業務委託の人のパフォーマンスに責任があるのは私で、私自身の我慢の先に何も結果は生まれないと。しかもリーダーという一番高いギャラの人を非稼働になっているという事実を思い知らされた。

常に「自分が悪い」というオチに持って行こうとする自分の視野の狭さを噛み締めた。
ひっそり情報をくれていたサブリーダーの方をリーダーに持ち上げ、連絡の取れない人は早々に契約終了にした。

新リーダーは前職が社内の品質管理部長の経験があり業務委託の会社は初めてだった。さすが社内の動きというか辛さをわかってくれて喜んだ。自分が率先してメンバーを動かしてくれて安定してきた。

その頃、社内で「悪者探し」のムーブメントになり社内政治のできない自分のチームが窮地に追い込まれる。
メンバーは優秀だけれど業務委託ゆえ社内政治の味方になってくれるわけでもない。

さすがにやられ放題でまずいぞ、、と思い同期入社の政治つよつよのYさんに自分のチームのディレクションを頼んでみた。
劣勢で常に攻撃の的になっている私のところなので彼にとって何のメリットもなさそうだったが彼は「品質をちゃんとやりたい」と快く引き受けてくれた。
彼のいう通りに動いてみると、周囲からの圧が変わって行った。いつのまにか存在感を出していて発言権が増している。
彼に「何故これをする必要が?」と聞くと、その理由と次の展開の予想を話してくれる。言われたアクションを起こすと相手が面白いほど彼の予想どおりに反応する。

これまでひとりで考えてひとりで戦わなければならなかった世界が、彼の手により世界が広がって行った。窮地に落とされても簡単に世界線をガチャッと切り替えることができた。
彼はあくまで前面には私をたててくれるが私の世界が守られている。
私に失言をした人たちを「clabさんの敵討ち」と言って落とし穴にハメてくれたこともあった。
こんなこと自分にはできない…常に圧倒される。

海外ドラマのディレクターよろしく彼の演出通りに話が展開する。
私はひたすら作中でゾンビに齧られそうになって怯えて逃げ回るのみだ。

新体制になってみると新リーダーは何かできる風であっても具体的なものを出してきていないことに気づいた。
業務委託という立場であり政治に強い人が味方になった今、何かする必要はないのかもしれない。
けれど、よーく見るとメンバーの上に被さっているだけで何をしているのかわからない人になっていた。
新リーダーに課題として案だしを求めみても、かつて自分が話したことだったりをまとめてあげてくるだけだった。詰めると黙ってしまう。
彼の経験値からするともっと何かしら、、と思う。黙ってさえいれば過ぎ去って事足りると思っているのだろうか。そう考えるとラクな現場なのだろう。

ちょっと自分が被害妄想なのかもしれないと思い政治のYさんに相談する。
「まるでYさんが来てくれたから新リーダーを用済みのように感じているかもしれない。新リーダーは共感してくれても方針が出てきたことはないと思っていて」と言うとYさんは期待値は状況により変わっていくと言う。さらに新リーダーが具体のやることを持ってないんじゃないかと感じていたそう。
それをテストするためのいくつかの観点をくれた。Yさんは自分にも経験があるけども業務委託の会社に好かれようとして肩入れしすぎであり、それが会社での私の立場を悪くすると言う。さらに会社の愚痴は業務委託の人の前では一切言うなと言う。
愚痴を言うと、社員と一緒の気になって純粋なパワーで動いてくれなくなると言う。どうせ相手がグズグズなんでしょ、と見くびるようになるそう。もろもろギクっとなった。

同時に前リーダーの情報をリークしてくれたりした新リーダーに情もあった。
やるべきことを知ってて手を抜いているのか、そうではないのか知りたくなり、一度プライベートで飲みに行った。
実際に会ってみると、なんだか空洞のお菓子のような感じでスカスカしていた。
当たり障りなく時間を過ごしてその場は終わった。心が通じて一緒に頑張るというのは立場も違うし個人の差異もあるから無理だなぁと乾いた感じを受け止めた。

自分の当時の状況が苦しかったから彼が輝いて見えたのかもしれない。
苦しいから占い師を巡って希望を投影してしまうように。

業務未経験ニキたち、マウントリーダー、新リーダー、戦略に強いYさん。
ビフォーの状態からぬけだすためにアフターの人が輝いて見えた。
けれどさらにそのアフターが来るとビフォーになったひとは色褪せてしまう。
そう思ってしまう自分、都合良すぎてひどくない?とも思う。

その環境と期待値のガチャが織りなす目まぐるしさでふとゾンビドラマの金字塔「ウォーキング・デッド」を思い出した。
当初はゾンビに追われて阿鼻叫喚していたがドラマのシーズンを追うごとに人間対人間の関係性の変化が目まぐるしく起きる。ゾンビより恐れるべきは人間性になってくる。
ただ強者が襲ってくるのではなくお互いの状況、立ち位置がくるくる変わるのだ。
味方だと思った相手が裏切ったり、ふいに自分から相手を切り捨てたりする。
そこにあるのは目まぐるしく変わる状況に対して、その瞬間のその人の正義があるだけだ。

阿鼻叫喚ゾンビドラマのモブキャラから主要キャラになってきた自分を見ると「こんなことしていいのか、きれいな自分でいたい」と思いつつ相手をkillして食糧を得たり味方を切り捨てたりしている。
ここから監督ゾーンに行けるのか、はたまた監督の視線を感じるだけの中途半端な演じ手のままなのか。
監督もこれまたキャラの一種でありさらに上の俯瞰ゾーンがあるのか…?
そんな日々だからとうてい井戸の中で安寧を得ることができない。


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