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あのバンドとクリームソーダと、

気がつけばいつも聴いているあのバンドがメジャーデビューをする。どこか垢抜けない4人組が小さな画面の中で肩を組み、いつも長い前髪が邪魔そうなボーカルも 今日は珍しく笑顔を見せていた。夕方の電車はやっぱり少し混んでいる。やっと空いた窓際の定位置に体を寄せ、なんのためらいもなく通り過ぎる街並みをただ見つめていた。あなたはなんて言うだろうか。タワレコで予約しなきゃな とかいって笑ったり チケット取れにくくなったら困るなぁ って目尻を下げて嬉しそうにするのだろうか。あの日 あなたが聴かせてくれたシングルのB面がこんなタイミングで流れてくるから、シャッフルプレイにしたケータイをポケットの中で握りしめた。小さく口ずさむ横顔が綺麗で、あなたは 気に入っただろ?って得意げに笑っていた。電車が、ガタン、と揺れる。いつだってあなたはわたしの知らないものを知っていた。素敵なクリームソーダの喫茶店、とっておきの散歩道、つい笑ってしまうような動画、あの芸能人の行きつけ。物知りなあなたはいつもわたしの前を歩いて こっちだよ って新しいものを見せてくれた。そんなあなたのことだから きっと今頃また違う何かに心を傾けて あの青いイヤホンをゆらゆら耳から下げたまま わたしの知らない新しい毎日を過ごしてる。ガタン、ガタン。電車は揺れ続ける。あなたの真似をして ちょっといいイヤホンを買った。ブラックのコーヒーを飲んだ。あなたの好きな音楽も聴くようになった。いつだってあなたはわたしの知らないものを知っていた。だけど あのボーカルの声を聴くたびあなたを想い出して 会いたくなって 痛い思いをしているわたし そんなのこれっぽっちも知らないんだろう。悔しい。わたしばっかり痛いから、悔しい。こんなバンド、わたしは全然好きじゃない。

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