「日付が変わる前に眠りたかった。」東京の大学生です。高校生の時から書いていた小さなお話…

「日付が変わる前に眠りたかった。」東京の大学生です。高校生の時から書いていた小さなお話を少しずつ投稿しています。歌の中のあの子の話だったり、なんでもない私のはなしだったり。フィルムカメラとお酒が好きです。

最近の記事

ずるい人

ほんの少しだけ雨が降っていた。 金曜夜のホームは人ばかりで、少しでも目を離すとはぐれてしまいそうになる。行く人と来る人の間に流されそうになったとき、一歩前を行くあなたの紺色のパーカーを掴んだ。気付いているのか、気付いていないのか。そのまま乗りこんだ電車は混んでいて、ぐっと距離が近くなる。目の前のほとんどが紺色のパーカーになる。「楽しかったね」と笑うあなたを見上げると苦しい。ガタン、と電車が揺れる度にあなたはわたしの肩を引き寄せた。 別れ際あなたはわたしの頭に手を置いて「またね

    • 公園の魔法と煙

      ああもう好きになっちゃった それに気付いちゃった それってもう 手遅れね 回る回るアルコール 回る回る時計の針 もうすぐ日付が変わる 夜の公園 頬に当たる風は少し冷たい ベンチの縁に沿って指を滑らすの あなたが見てないうちに 魔法がかかったらいいななんて 燻らせた煙が右の空へ流れた 酔っているから酔ったフリができるの 洗剤とタバコの混ざったあなたの匂いが近くなる 心拍数が上がるのは あなたとお酒のせいだから もう少しこのままでいたいわ このままでいられるのは今だけでしょう

      • 画面の中のあの子は

        幼馴染のあの子が楽しそうでうらやましい。わたしは今日もベッドの上で寝転がってこの小さな画面に向かっている。同じ街で似たように育ったはずなのに いつの間にかわたしたちは全く違う人間になった。そんなの当たり前か、と思いながらカラフルなあの子のインスタにいいねを押す。数年前まではいつも隣にいたのに 画面の中のあの子はどこかの知らない誰かのような気がする。将来のために、と進学校を選んで 将来のために、と受験に向かうはずなのに 今のわたしは何をしているんだろう。今人気のあの店にも テレ

        • あのバンドとクリームソーダと、

          気がつけばいつも聴いているあのバンドがメジャーデビューをする。どこか垢抜けない4人組が小さな画面の中で肩を組み、いつも長い前髪が邪魔そうなボーカルも 今日は珍しく笑顔を見せていた。夕方の電車はやっぱり少し混んでいる。やっと空いた窓際の定位置に体を寄せ、なんのためらいもなく通り過ぎる街並みをただ見つめていた。あなたはなんて言うだろうか。タワレコで予約しなきゃな とかいって笑ったり チケット取れにくくなったら困るなぁ って目尻を下げて嬉しそうにするのだろうか。あの日 あなたが聴か

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