『ベッカ・スティーヴンス・バンド』 -2017年7月21日 丸の内コットンクラブ-

スティーヴ・ウィンウッド御大の『ハイヤー・ラブ』からモータウン臭を払拭し、リズムだけを極端に増幅して、ミニマルな音の骨格だけで21世紀のダンスミュージックとしてカバーする。そんな離れ技にあっ気にとられたのが2014 年。やって来たニューヨークの新しいディーヴァを、聞きに行かずにはいられようか。

コットンクラブのステージで、彼女は、楽しげに涼しげに、期待のはるか上を飛んでいた。

まず、今さらながらびっくりだったのが、バックのコンボが、トラディショナルなピアノトリオ以外の何物でもなかったこと。とにかく、予備知識なくアルバムを聞いたときには、いったい何人が何の楽器を弾いているのかも、さっぱり分からなかったからなあ…。とにかく、各プレイヤーの、楽器の限界を超えようとするテンションには、鬼気迫るものがありました。ベッカ自身のウクレレやチャランゴからも、目を閉じて聞いたら、ハープか?コラか?と思うような音が飛び出てくるし。

そのアヴァンギャルドなほど自由で大胆な音響に、思わず耳を傾けてしまう鋭利で繊細な旋律の推移が重なってるのが、彼女の作る音楽。

それにもちろん、彼女の、聞き惚れるしかない歌声の美しさ。アイリッシュ・トラッドやアメリカン・フォーク風の爽やかな歌い回しには、彼女独特のひっそりとした静けさがある。大声を出さない人の内省的な問いかけがある。自分の感情を投げやりに放り出すような歌詞を、まるでカウンセラーが「そう、あなたはそんな風に感じたのね?」と問い返しているようなトーンで歌う。そのギャップが、素敵なのだ。


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