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少女は路上で夢を叫ぶか、または嵐の夜の航海記録

その日は3月上旬なのに5月並みの暖かさだった。とはいえ夜になれば時節相応の寒さが訪れる。渋谷クロスFMの大きな窓ガラスの前でラジオの公開録音を聴きながら、しまったコート着てくればよかったなあ、と僕は早くも後悔しはじめていた。

窓ガラスの向こう、スタジオの中で時おり爆笑しながら話してるのは、シーオン(C;ON)の楽器隊の3人(聖奈、佳子、杏実)だ。番組名は「シーオン の木6・C級トークRadio!」。トークはC級と謙遜(?)しているけど、このグループのステージパフォーマンスはA級どころかS級だ。

渋谷クロスFMでの公開収録

売りは「器楽奏者とボーカルの融合したユニット」。アイドルだけど楽器演奏者がいて、みな幼少期から楽器に勤しみ音大を出てるサラブレッド。だから楽器隊3人でのラジオはクラシカルな音楽談義に花が咲き、その世界を何も知らない僕にはいつも新鮮だ。

番組はラジオといいながら映像付きでネット配信されていて、何も渋谷で寒空の下、ガラスに張り付かなくたって見ることはできる。路上観覧は寒いだけでなく、「ファイヤー通り」をひっきりなしに通る宣伝カーの騒音に妨害される。劣悪な環境なのだ。終了後の特典会があるわけでもなく、お話もできない。なんなら向こうからこちらが見えてるのかどうか、オタクとしては重要な「出席確認」も怪しい。

それでも現場に足を運ぶのは、推しの一挙手一投足を生で目に焼き付けたいという思いがある。特に管楽器の2人はライブでは激しく踊りながら吹いてるわけで、とても美しいのだけど、どうしても表情が少ない。たくさん話して笑ってくれるラジオ番組収録は「笑顔を眺められる」だけでも貴重なのだ。

この日も楽器隊のトークは絶好調で、僕のiPhone12 miniは誰とは言わないが推しメンの笑顔でいっぱいになった(ガラス越しだけど撮影可能なのだ!ありがてえ)。

笑顔の聖奈ちゃん(かわいい)

でも今日ここにいる目的はそれだけではない。ラジオに参加していないボーカルの2人(しおん・愛佳)が、番組終了後に路上ライブをすることが告知されていたのだ。

このパターン、すなわち楽器隊ラジオからのボーカル組路上ライブというのは過去に一度例がある。そのときは僕は渋谷の番組終わりで新宿南口に直行し、いち早くボーカル組に出会うことができた。

はしめての路上@新宿南口

2人がそれぞれ過去に新宿南口のこと(他のアーティストの路上見たとか)話してたのを検索して知ってたから。その後に行われた2回目の路上も、場所はやはり新宿南口だった。安定のホーム感。でも今日は新宿じゃない、渋谷だ。

なんで渋谷と読んだかと言うと、ラジオを聴いてて第六感で「今日は渋谷かも」とピンと来たのが最初。それでラジオ終わりに検索しまくったところ、今日は新宿で「やるべきではない」日だと察する(多くは語りません)。シーオンの2人も同じように検索して同じ空気を察しているはず。だったらまずは渋谷を探してみよう。

そう考えながら駅周辺をキョロキョロ歩いてたら、TSUTAYA前、地下鉄出入口の壁を背にして絶賛準備中のしおんと愛佳 with Y(マネージャーさん)をあっさり発見。ビンゴである。内心ガッツポーズ。

とはいえ冷静に状況を見ればかなり険しい。人通りは多いけど、多すぎて呑まれてしまう。スクランブル交差点が心臓のポンプのように力強く人混みを吐き出していく。流れに逆らい背を屈めて準備する2人(with Y)は、嵐の海を漂う漂流船のようだ。

オタクは誰も来ない。数十人いたはずのラジオ観覧組は新宿に向かったのだろうか。時刻は19時過ぎ、辺りはすでに暗く、冷たい風が強くなる。僕はポケットに両手を入れて、誰かと待ち合わせをしてる体で遠巻きに2人を見ていた。準備の途中で周囲を見渡した2人が、遠くから見てる僕に気付いて驚いたように手を振ってくれた。こちらも心細い身、それだけで気持ちが生き返る。

ポスターを立て、スピーカーのセットを終えて、音楽を流し、マイクチェックをしながら、2人は様子を見るように歌い出す。曲は僕の大好きなスロウな佳曲「曖昧≠Libido」だ。通行人の何人かが立ち止まる。小さな種火。消えないよう、僕も慌てて合流して人垣を作る。心臓がバクバクしている。

渋谷スクランブル交差点で歌い始めるが・・・

でも現実は残酷だ。1番を歌い終えるかどうかのタイミングで、渋谷署の婦警さんがどこからともなく登場。音楽は止まり、人垣はすぐに解散。メンバーは婦警さんと何やらにこやかに話しているが、この場所ではもう無理だろう。見逃してもらうには目立ちすぎる。

今日はもう諦めるのか、移動して再開するのか。2人はYさんも交えて話し込んでいる。しおんちゃんがスマホを取り出すたびに、何かツイートするかな、と思って僕もスマホをリロードするけれど何も起きない。2人との距離は10m、近いのに果てしなく遠い。ラジオ終わりからもう30分が経とうとしていた。

スクランブル交差点に向かう大静脈に流されて、ラジオ終わりのメンバー3人がやってきて合流する。ユーフォニアムの聖奈とサックスの佳子は小さな身体に大きな楽器を背負っている。ラジオでも言ってたけど、リハ終わりでのラジオだったのだ。おつかれさまだなあ。

ラジオ終わりとはいえ私服のメンバーに街で見掛けるのは初めてで、また心臓が速くなる。こちらの存在は気付かれていないし、何だか出待ちをして覗いてるみたいで気まずい。僕はいつも嫌われないこと目立たないことを第一に考えてオタクをしているというのに。逃げ出したい気持ちになる。

そんな気持ちを知ってか知らずか、たぶんボーカル組が聖奈(誰とは言わないが推しメンである)に「なおさん(ワシである)あそこにいるよ」とでも伝えたのだろう、聖奈と杏実がハッとこちらを振り返って笑顔で手を振ってくれる。こちらは1人だし、なんか色んな意味で気まずいが、まあでも素直にうれしい。少なくともラジオの出席確認はしてもらえた😊

しかし移動の気配もなく解散ムードが高まるにつれ、不安がまた膨らみはじめる。これ客観的に見るとラジオの出待ちストーカーではないか。疑われないよう、推しメンより先にこの場を去るべきなのか。逡巡していたら、楽器隊の3人がバイバーイと朗らかに(?)その場を離れて帰って行った。

いや助かった。ここでこのまま残れば問題ない。そんなこと思ってるの僕だけ説はあるけれども。でも距離の近いライブアイドルとの接し方というのは、そのくらい細心の注意と自制心が必要なのじゃないかと思ったりもするのだ。君子危うきに近寄らず。

とはいえ、虎穴に入らずんば虎子を得ずというのもまた事実。せっかくビンゴ引いたんだもの、できることならここで虎の子のボーカル組を見失いたくはない。見失えば他のオタク達につながる蜘蛛の糸も切れてしまう。徒歩移動してくれればセーフ。車移動ならアウト、ついていけないからあきらめるしかない。

電車移動となると微妙だ。見失わないためには同じ電車で後を追うしかない。でもそれで乗った電車が移動でなくて帰宅だったら、ホントのストーキングになってしまう。移動か帰宅かわかんないのに後をつけるのはリスクが高すぎる。2人は荷物をまとめ、帰り支度を始めたようだ。無念だけど、ここで帰るしかないのか。。。

するとクルッとこちらを向いたしおんと愛佳が、荷物を置いたままちょこちょこと歩いてくる。帰る前にオタクにちゃんと声掛けてくれるのか、さすがシーオンさん優しい😂😂

「ごめん渋谷はムリみたいなの」

まあそうだろうなあ。何でも婦警さんがとっても優しくて、あの人には迷惑かけられないってなったらしい。

「どこかいいとこないかなあ?」

えっ、まだ探す気はあるんだね。朗報。でも新宿南口は今アレだから危ないかもねって話をする。それは彼女たちも察していた模様。代々木公園は?いやできるけど人いないでしょ。。。

「原宿にしようかな…さっき調べたら、前に参宮橋でやってた人いるみたい。行ってみようかな」

原宿で路上なんて僕は見たことないけど、まあそもそも原宿行かないから知らないだけかも。参宮橋?それって原宿駅から遠い気がするけど大丈夫かな?など色々頭をよぎるが、まあ行けばわかるさ。

急に気分がウキウキしてくる。だってさっきまで完全なる傍観者、というかストーカー認定を恐れる小心オタクだったのに。相談してもらって急に運命共同体になったみたいだ。2人は嵐の海を漂う漂流船なのだ。きっと心細いんだろう。何があっても最後まで見届けるぞ。それが今日の僕の役回りだ。そう覚悟を決めて、とりあえず先ほどの幻の路上ライブ写真をツイート。

一瞬で終わった渋谷TSUTAYA前での歌唱

いざ原宿へ。とはいえオタクの分際で一緒に行動するわけにもいかず、いったん別れて山手線で原宿に向かう。しおんちゃんの教えてくれた参宮橋でググると、やはり原宿駅とはかなり離れた場所だ。なんかおかしいぞ、よく考えるんだ。しおんちゃんは「路上やってた人がいる」と言ってた。だったら参宮橋じゃなくて神宮橋じゃない?とグーグル先生は言っている。それだナイス👍

しおんちゃんの放ったトラップを見事にかわして神宮橋の手前の歩道で待ってると、案の定、シーオンさんご一行がやってくる。橋の上で、始めるかと思いきやまた作戦会議。ここならできなくはなさそう。でも明治神宮に至る道であるがゆえに、この時間帯は通行人が少ない。諦めて戻ってきたところで、距離を保ちつつの再会。

「人いないから竹下通りに行ってみる」

そう声を掛けてはくれたけど元気がない。寒空の下、2人とも薄着だし、現役SJKの愛佳に至っては、学校帰りと思われる制服のままなのだ。そして路上を巡る世間の風はかくも冷たい。四面楚歌だよ。それでも諦めないんだね。

竹下通りの手前の歩道上で三たび作戦会議がはじまって、行くのか諦めるのか、また予断を許さない。僕は相変わらず10mの距離を保ち、ガードレールに腰掛けて遠巻きに3人を眺めている。竹下通りからは、飲み会終わりの陽気な人混みが次々に吐き出されてくる。

時刻は8時を回った。渋谷でのラジオ終わりからもう1時間。2人をどこかで探していたオタク達も、もうお家に帰ってしまっただろうか。

作戦会議を終えて意を決したように歩き出す2人(with Y)。左に曲がれば駅の改札、右に曲がれば竹下通り。運命はどっちだ。

右折して竹下通りに吸い込まれたシーオンさん一行が陣取ったのは、閉店してシャッターの閉まった小さなお店の前のスペース。通りからは少し窪んでいて、ちょっとした段差がある。

ついにやれるのか?ポスターが掲げられ、スピーカーもセットされた。止めるものはない。観客はZERO。三度目の正直、竹下通りで路上ライブの開演。

最初は遠くから見守ってました

渋谷のツイート見たオタク仲間のHさんから連絡が入る。「今は原宿にいるよ」と伝えたら「近くにいるのですぐ行きます!」と言う。この人新宿のときにも近くにいたな、デジャブだな、と思ったら5分後に来た(笑)。でも1人じゃなくなって大変に心強い。曲は本日2度目の「曖昧≠Libido」、うーん最高すぎるんだが。道ゆく人々に見事にスルーされとる(泣)

竹下通りは多くの店が閉まってるけど、駅に向かう人の流れはある。でもなかなか立ち止まってはくれない。Yさんに促されて2人の間近、斜め45度のあたりにいそいそと進み出る。新曲の「MagiC!on…」の間奏で、しおんの自虐MCが竹下通りに空しく冴えわたる。

落ち着いて眺めてみると、竹下通りを通りかかる人の大半は外国人観光客なのだ。もちろん外国人だから悪いということはないが、そもそもこの路上ライブの目的は4/30に恵比寿ザ・ガーデンホールで行われるワンマンライブへの集客なのだ。4/30の前に母国に帰ってしまう観光客では、どうやっても集客につながらない。

そんな空気も察して明らかに弱気になっている2人。竹下通りの空気から浮いてしまって、やっぱりやめようかというムードも漂う。もともと路上は新規開拓が目的で、おまいつのオタクはお呼びではない。僕が付かず離れず10mの距離を保ってコソコソ行動してきたのも、それがわかってるから。でもこうなるとオタクの援軍が必要なのかもしれない。

いちおうYさんに「場所ツイートしていいですか?」と確認。どこかで待ち構えてるであろうオタクの検索にかかるように「原宿にシーオンさんいた」と短文ながら確実にキーワード入れて、写真も添えてツイートする。これ見たら来ないわけにはいくまい。渋谷のツイートみてDMくれてた知人オタクにも詳しい場所を返信。拡散、拡散だあ。

オタクを集めるために必要十分な情報量のツイート

シーオンのオタクは、僕はまだ新参なのであまり付き合いがないのだけれど、とにかく忠誠心の高いオタクが多い。いかにも条件の悪そうな地方のライブにも、驚くほどたくさんの遠征オタクが来るのだ。濃いオタクの付くグループは売れると言うが、それが真実ならシーオンはその筆頭格に思える。

というわけで、ツイート拡散して、ものの10分後にはワラワラと忠誠オタクたちがやって来る。たぶん新宿で2人を見つけられず、そのまま待機and/or飲酒してたのだろう。もうラジオ終わりから1時間半が経とうとしてるのに、すごいよみんな(僕なら余裕で帰宅キメてる)。

そしてここから先は、皆さんも知ってる物語。JK愛佳のシンデレラタイムである22時までおよそ2時間、ワンマンライブ並みのたっぷりの曲数の路上ライブが繰り広げられたのでした。僕はスマホはしまって撮影はガチ勢のみなさんに任せ、なるべく身体をゆすったり拍手したりして盛り上げる一般客風に徹していました。

観客の方はというと、オタクが動員されたことで人垣ができて、何だ何だ?と立ち止まってくれる人も増えました。すっかり元気を取り戻した2人は、歩きながらでも目が合えば駆けつけてチラシを渡すという積極的なアピールを展開。ライブが終わる頃には用意したチラシは全部はけてしまいました。

ライブが終わって記念撮影パチリ

ただし外国人観光客が多いという状況は終始変わらず。ノリのいい彼らの参戦は心強くはあったけれど、ワンマンライブの動員につながるのかは神のみぞ知る。。。まあこの際、つながらなくてもいいか。母国に帰ってシーオン広めてくれれば!

ラジオ終わりから3時間、ラジオも含めれば4時間。一時はどうなることかと思ったけど、そしてすべてがうまくいったわけではないけれど、悔しさもあると思うけど、それでも最後まで完走できてよかったな。頑張ったよ、おつかれさま。

最後のご挨拶、パープルマイクが素敵なしおんと制服愛佳

最初に援軍に来てくれたHさん(しおんちゃんにまあまあ推されてる女オタクである)と、「帰ろっか」と歩き出したところ、なんとしおんちゃん(繰り返しになるがHさんの推しメンである)がダーーッとこっちに走ってきてくれるじゃないですか!!

そこで何を話したか、細かいことは書きませんが(忘れたわけではない)、この嵐の東京の夜を漂流し、何度も転覆しそうになりながら共に乗り切った戦友として、ありがとう、おつかれさまという気持ちを最大限に伝え合って、お別れしたのでした。

Hさんよかったね(笑)
僕も推しメンだったら嬉し過ぎて廃人と化した可能性があるので、九死に一生を得ました!(でもうれしかった)

さて、お話はこれで終わりです。
また次の路上があったら皆さんもぜひ。
そしてシーオンさんのワンマンライブの成功を心よりお祈りしております!!

【読者プレゼント】
この記事を読んだ方、先着1名様にシーオンの4/30恵比寿ザ・ガーデンホールでのワンマンライブ一般席のチケットを(なおinザ・ハウスより個人的に)プレゼント!ご希望の方は、シーオン公式ではなく、なおinザ・ハウスのTwitter(@critics_in_ny)のDMにてご連絡ください。


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