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37歳になってSyrup16gにハマった話

なんとなくサブスクで『HELL-SEE』を聴き始め、「イエロウ」から「不眠症」と流れてきた衝撃はちょっとしたものだった。

もともとSyrup16gに関しては、10代の頃に『coup d' Etat』をレンタルして聴いたことがあり、しかし熱心にハマることもなく、『HELL-SEE』も買ったもののなんかよくわからんなとスルーしていた。

当時はナンバガなど、インディー色の強いギターロックというものがわからず、ダンス・ミュージック的なリズムか歌(メロディというよりも)がハッキリしたものが好きだった。

元気で無垢だったな、と思う。20代までの自分を振り返るととにかくそういう感想が浮かぶ。小学生的な幼さというのだろうか、活力に追い立てられるよう、またそうでなければ自分が自分でいられないとでも言わんばかりの愚かさがあった。

こう、一気に時代が下り37歳の自分は弱っていた。いる(現在形)。別に、当時と比べて賢くなったとは思わないが、一方である種の慎重さというか、物事を一歩引いて眺めるようなそういう視点を得たように思う。

それがいいことなのか、と問われると正直わからないと答えるしかない。ただ変わってしまったものは仕方なく、粛々と受け入れて今を生きていくことしかできない。

年齢を重ね、心身ともに弱り重くなり、生きるのがしんどくなった。若い頃はもう少し余裕があったように思うのだけれど。

そんな自分に、Syrup16gがバッチバチにハマる。

ベースを触るようになってヴォーカルとリズムだけではなく、バンドのアンサンブルを楽しめるようになったこともあり、Syrup16gというバンドが仕掛けた工夫の数々がようやく魅力として理解できるようになってきたというのもあり、シンプルに声がいいというのもあり、また、よく言われるような暗さだけではない、言葉遣いの面白さにも気づくことができた。

冒頭にも書いたように、なんとなく、「そういえば『HELL-SEE』ってリマスターで音良くなったんだっけか」と思い、サブスクにはそのリマスター盤があるから、そういえば何年か前にサブスク解禁で盛り上がってたっけな、とかぼんやり考えながら聴き始めた。

もう、びっくりするぐらい良かった。沁みた。

U2やThe Policeが好きで影響を受けた、というところにどことなく苦手意識があったのだが、確かに80年代っぽいペナ感のあるギターなどは聴けるものの、もっと何かヘヴィでグランジーなサウンドに思え、一気に引き込まれた。

そうなってくると、そもそも昔の自分が聴いたリマスター前の『HELL-SEE』に興味が湧いてきた。しかも、初回盤には8cmCDのライブ音源(!)がボーナスとして付いてくるらしいときた。

めぐり合わせというものはあるものだ。いいタイミングで『HELL-SEE』初回盤の中古(見本盤ではあったが)がフリマアプリで安く出品されているのを見つけ、勢いのままに購入した。

届いた紙ジャケット仕様の『HELL-SEE』にテンションを上げつつ、まず8cmCDから聴いた。

とにかく、「coup d' Etat〜空をなくす」の異様なテンションに圧倒された。めーっちゃくちゃかっこええ。やばい。超好き。

そこからはもう一気に、サブスクにある音源を一通り再生していった。やはりきっかけとなった『HELL-SEE』、『coup d' Etat』あたりの曲が特に好きになったが、そもそも全部いいなと思えた。大袈裟に言うと、盤から聴こえてくる五十嵐隆というパーソナルとフィーリングが合ったような、そんな気がした。

Syrup16gというバンドの魅力を1つ2つ取り出すのは難しいが、まずサウンドの妙はあると思う。3ピース編成のひとつの完成形ではないかとすら思う。強靭でしなやかなリズム隊と乖離することなく、しかしあまりに自由な歌とギター。それもたとえば『もう遅ぇかねぇ ねぇ』、『うるせぇてめぇ メェー』、『うるせぇてめぇ、寝れねぇ』(「不眠症」より)と重ねていく、柔らかで悪い冗談そのものの韻を踏んだ口語表現とそれを可能にする歌のうまさ、声の良さ。『末期症状』と『抱きまくら』で踏もうとする(「末期症状」)人間はなかなかいないだろう。ましてやロックバンドであったならば余計に。

おそらくきっと、多くのファンはこの感覚を『HELL-SEE』が出た頃に味わっていたのだろうなと思いつつ、まあ過ぎたことは仕方なく、盤で揃えようというときに、再発も中古も充実しているというのはいいな、ぐらいに思うことにした。

再結成後は現役のロックバンドとしてライブもするし音源もリリースしているし(といってもそろそろ5年くらい開くが)、流石に20年近く経っているだけあって当時の音源たちは(再発もあったことだし)中古で安くなっている。

個人的に驚きだったのは解散までの音源を概ねまとめたボックスセット『a complete unknown』までもがかなり値下がりしていたということだ。

オールドロッカーの悪い癖だが、ボックスセットと聴くと欲しくなってしまう。しかも、今から集めるのであれば一気に(ほぼ)揃うのだからいいじゃないか。

a complete unknown

とういわけで届いた箱はもう完全に自分にとっての宝物になった。正直、37歳にもなってというか25年くらい音楽を聴くことを趣味にしてきてこんな衝撃的な、宝物になるような出逢いがあるとも思っていなかったので嬉しくもなったし、自分の知見の狭さを思い知らされた。

しんどい人生も、まあまあ生きてみるものだと、今なお現役で『生きているよりましさ』と歌う五十嵐隆の声が(逆説的に?)言っているようなそんな気がした。

健康になりたいなと。


投げ銭してくれると小躍りしてコンビニにコーヒーを飲みに行きます。