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ころがるどろだんご

こうのとり小学校一年生男子の間では、「どろだんごあそび」が流行っていた。
校庭の遊具ゾーンの隣にある「どかんやま」で取れる土は、学校の土の中でも「どろだんご」作りに最適で、男子の溜まり場になっていた。

中にはただどろだんごを作るだけでは飽き足らず、どろだんごを使って遊びたがる者もいた。そのうちの3人は「どかんやま」の頂上からどろだんごを転がし、麓の鉄棒の下をくぐればゴールという遊びを始めた。

3人は我が子を育てる親のごとく大事にしていた自慢のどろだんごを持ち寄った。うまく転がすための作戦も用意した。それは各々が転がすその時まで秘密にする約束だった。

トップバッターはA君。A君はスタート地点で出来るだけどろだんごに勢いをつけ、一気にゴールまで転がす作戦だった。

A君がどろだんごを勢いよく放つと、スピードを持ったどろだんごは初めのうちこそゴールに向かっていたが、「どかんやま」斜面の石にあたって高く上がり、着地したとたん崩れてしまった。

A君は「ちぇ、最初の伸びはよかったのになあ。なんであれくらい耐えてくれないんだ。」と言い、次の挑戦者を見守ることにした。

B君はスタート地点からある程度の距離まで「どかんやま」に堤防を作り、そこからどろだんごがはみ出ないようにした。

B君の転がしたどろだんごは堤防の側面に当たりつつ進んだが、堤防がなくなってからその軌道はだんだん横に逸れてしまった。結局どろだんごは鉄棒から大きく外れた位置で止まった。

B君は「あーあ。道を用意してやったのにどうして違う方向に行くかな。せっかく大変な思いで掘ったのに。」と言って悔しそうに笑ってC君を見た。

C君の作戦はこうだった。どろだんごを自らの手で転がし、ゴールまで導く。これにより確実にゴールまでたどり着ける。ゴールへのたどり着き方が指定されていない故の、抜け道であった。

C君がどろだんごとともに歩き出すと、「その手があったか」「やられた」と言わんばかりに皆悔しそうな表情をした。
中腹まで下ったところで、どろだんごが手からこぼれないように注視していたC君は足元の石につまずいてしまった。どろだんごは手からこぼれ、大きく逸れて進んだ後、止まってしまった。C君の手が何度も触れることによってどろだんごはすり減り、歪な形になっていたのである。

肩を落としたC君は「僕のやるとおりに転がってくれてさえいればうまくゴールできるはずだったのにな、あんな形じゃダメだ」と零した。

3人の小さな肩を並べて休み時間を終え、教室に戻った。帰る頃にはその悔しさは消えていた。

どろだんごとはこどもそのもの。こどもの成長に一番大きな影響をもたらすのはどろだんご遊びである。

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