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小説『見てる』最終章「侵入」

私の頭の中は様々な情報でいっぱいだった

朝会ったあの奇妙な女性が目の前にいて

その彼女が笑って今話しかけてきている。

そして彼女はパトカーの中にいる

田山玲奈はあの家に住んでいない

ハメられてしまったのか。

「あの、ほんとに何なんですか、あなたと朝に会ったなんて知らないし、急に手錠かけられて。どういうことなんですか!」

私は、しらを切って戸惑いを見せた。

すると彼女は、

「ハッハッハッあんた面白いね。」

彼女は私を嘲笑いながら言った。

「まあとりあえず詳しくは署で話そうか」

彼女は足を組んで座っていた。

状況から察するに彼女は警察だ。

「あ、そういうえばさ駅の近くにパン屋できたの知ってる?行ってみたんだけどさ、これまた味はそこそこでね、本当に...」

と急に雑談をしてきた。

私は彼女の雑談にのれるような心の余裕はなく、車内では彼女一人が、まるでラジオのようにフリートークを行なっていた。

パトカーは先ほど私と玲奈さんがいた大学の校門の前を通り、私は何気なく、両親にはどんな顔して会えばいいのだろうかと考えていたとき、信号が赤になりパトカーが停車した。

急に一方的な雑談をしていた彼女が何も喋らなくなり、車内は静寂に包まれた。

すると途端に、彼女が

「あーあ疲れた。」

と言って目を閉じた。

眠り始めたようだ。

態度からしてよっぽど役職が高い方なのだろう。

車内は静寂に包まれ、私はただ何も考えることなくボーッとしてフロントガラスから見える街の景色を眺めていた。

ほどなくして、

パトカーは警察署につき、私の左隣に座っていたスーツ男が車のドアをあけ、私に「出ろ」と言ってきた。

その声で私の右隣に座る彼女は目を開けて眠りから覚めた、「はぁーー」とため息を吐いてドアを開け、彼女も警察署の中へ入った。

スーツ男と警察官、そして先ほどの奇妙な女は私を取調室へと連行した。

ドアが開けられて中へ入ると、そこはドラマや映画でしか見たことないような景色だった。

グレーの机があり、向かい合っている椅子がある。

すると、彼女は先ほどのスーツ男に何かを小声で話し、スーツ男は取調室を出ていった。

「あーじゃーとりあえず座って」

私は言われるがままギシギシ音のなる椅子の上に座り、一貫して戸惑いの様子を見せるためキョロキョロとした動作をした。

「まあまあ荒川君。ゆっくり話そうか。時間はたっぷりあるからね。」

女は私の肩に手を置いてそう言った。

そして、コンコンッと突然ノックが鳴った。

すると先ほどのスーツ男が現れ、何か青いファイルとノートパソコンを持っていた。

あの中には私の秘密が入っているのだろうか

彼女はスーツ男から受け取り机の上で開いた

「よーし。じゃあやろうか。えーっとまず何から話そうかねー。あ、私の名前ね、笹原っての。よろしくねー。」

と言って取り調べをやり始めた。

彼女の左後ろでは、なにやら私の供述をメモする警察官もいた。

たださっきから感じていたが彼女はだいぶラフな口調で話している

まるで人を馬鹿にするかのような口調だ

私がこれまでに見た映画やドラマのようなシリアスな雰囲気ではなかった。

ただ、スーツ男や警察官は非常に険しい表情をして笹原のボディーガードのように笹原後ろに立っていた

「えー、荒川修平くん。まあちょっと事情があって、あなたの経歴いろいろ調べさせてもらったんですよー。」

恐らく私のことが書いてあるだろう青いファイルをぺらぺらめくり見ながら話し始めた

「あー、そうだ。荒川くん、あなた頭のいい高校に通ってたんだねー。

ここらへんじゃ結構名の知れた進学校じゃないですか。いやーすごいなー。

だけど、あんた。

そこで問題起こしちゃってるよねぇ。」

私は自分の秘密という領域に足を踏み入れられ、まるで心臓を握られているような気持ちだった。

また彼女は不徳な笑みを浮かべながら話し始めた

「木村茜さんのことご存知だよね?」

懐かしい名前だ。高校時代の同級生である。茜はいわゆる学園のマドンナで容姿端麗で成績優秀だった。

「いやー彼女に会いに行ってきたのよ

すごく綺麗な子だったなー。まさにモテ女って感じ。モデルとかやってそうな。でさ…」

と言った後、笹原の顔は急にキリッとなった

「あんたが一番わかってると思うけど、高校生の時に少し関係持ってたでしょ。しかも一方的に。」

やっぱりそのことか

「まず、きっかけは高校3年の夏のことよね。

あんたが茜さんの秘密を握ったタイミングは。

まあ木村さんの秘密はバレるとまずかったもんね。

成績も良くて生徒会なんかもやって、みんなからの信頼もあつかった。だからこそまずかった。

まあ木村茜さんの家すごく厳しそうだったしねー

いかにもまじめな教育熱心って感じのお父さんとお母さんだったなー。

それもあってか茜さんの進路希望先ははちょー有名な私立大学だったんでしょ。しかも推薦受けるつもりだった。

まあそんな感じで周りからの信頼も厚くて、まじめな子だから推薦資格を得るのは容易なものよね。

ただ、あんたはそんな子の秘密を知っちゃったもんだからねー、

君は自分の意のままに彼女を操った。でしょ?

なんか時期的には、1学期の期末テストの期間だったんでしょ?

あんたは問題集だか教科書だかを教室に忘れてしまった。

当然テスト期間は部活もないし、だいたいみんな塾に行ったり家で勉強したりだったから学校に残っている人なんてのはいなかった。

だけど自分のクラスに入ろうとした時にあなた見ちゃったんでしょ。

教室で、茜さんと担任の山口先生がキスをしてるの。

そこであんたは二人が恋人同士ということを知ってしまった。

ただあんたはチャンスだと思ったんじゃないの?

もしかしたら学園のマドンナを”自分のものにできるんじゃないか”と。

そして彼女を”意のままに操れるのではないか”と

そこであんたはこそっとその二人の写真を撮った。

何もかも完璧な彼女を一瞬で崩壊させる「秘密」を握ったあんたは、後日彼女を呼び出し写真を見せて『このことをバラされたくなかったら今日から俺が指示することをやれ』って言って脅したらしいね。

彼女は泣く泣くあんたの煩悩極まる要求をその日を境に行った。いやー本当に気持ち悪かったねー。要求した内容。高校生とは思えないよ。

あんたの人間性とかその時期から察するにそれがあんたの初体験だったんじゃない?

まあいいか。

でもあんたは先生のことは脅さなかった。

多分だけどさ、表向きには彼女は先生と付き合ってるのに自分は秘密裏に関係を持って彼女を操ってるっていう感覚が楽しかったからでしょ。

だからあえて先生は脅さなかった。

彼女を操って支配している感覚がたまらなかったんだろうね。いろんな変態犯罪者を見てきたからね、なんとなくわかるよ。

そしてあんたの思惑通り、彼女は誰にも相談できなかった

まあこんなことが知れ渡れば茜さんは、一気に何もかも失うしね。

けど、そんな日々には終わりが来る。

あなたはある日、いつものように彼女に性的なことを強要したところを彼女がバッグの中に仕込んでおいた隠しカメラに脅された証拠としてあなたの愚行が残されてしまった。

『あなたがこれ以上続けるんだったらこれをネットに拡散する。学校にも知らせる。』

と言われ、あなたは無理に抵抗せずに話し合いで解決しようとした。

まあ、高校3年の夏だったってことから推測するに、
ここで茜さんのバッグを無理に取ってしまうと騒ぎになってしまい、自分の大学進学が危うくなって、はたまた高校を退学になってしまうかもしれない。

と、そう思ったんでしょ。

自分の今後のことを考えて穏便に解決するために、どっちかが漏らせばどっちかが拡散するという約束を交わした。

そこからあなたは茜さんに対する愚かな要求はやめて、お互いの秘密は漏らさないようにした。

まあ交換条件ありの互いの口止めよね。

そこで終わったんだけど、私思ったの。

あなたはその時やったことが快感だったんじゃない?どう?」

全て懐かしき思い出だ。そんなこともあったなと少し思い出に耽っていた。

私は返した。

「そんなことはもうやってませんよ。時効みたいなもんなでしょ。あれからそんな脅しまがいのことはやってないですよ。」

「ほう。ほんとうに?けどそれは”始まり”に過ぎないわよね?」

まさか……………

「あーあとあなた一時期ガールズバー行ってたよね?ロミオって場所。」

………………。 

「まあそうですね。1か月ぐらいですよ。去年の11月から12月あたりだったかな。」

「ほう。横沢奈々加さんって知ってる?」

やっぱりバレてしまったか。

「あー知ってますよ。」

「あ、店ではサナっていう名前でやってたんだよね。」

「あれ?でもなんで荒川君、本名知ってるの?あの店って女の子の従業員の子たちは本名をお客さんに喋るの禁止されてるよね?なんか関係持ってたんじゃないの?」

「あ、そうなんですか。いや話の流れで聞き出せたんですよ」

「そうなんだー。いやーだけどさ、ガールズバーの接客とはいえ、見ず知らずの男に本名教えるってことは相当だよね。どんな話の流れだったの?」

何か探ってくるような喋り方だった。

「普通の会話ですよ。彼女に『普段は何されているんですか』と聞かれたので『大学生です』と答えると、どこの大学か聞かれて答えたらたまたま彼女が『一緒の大学だ!』って言ってきたんですよ」

「ハハハそれはないと思うな」

彼女は私を蔑むような目であざ笑った

「同じ大学だったとしてもリスクが大きいから言わないでしょ。男の人にウケがいいような接客してんだから危険な目にも合うだろうし、そんなことしないと思うな。
だって彼女、ガールズバーで働いてること同じ大学の人にバレたくなさそうにしてたらしいしね。」

私は白々しく「へー、そうなんですね。けど私には打ち明けてくれましたよ。同い年っぽかったし、同じ大学だったから共通点が多いと思ってつい反射的に僕に話しちゃったんじゃないですかね」と返した。

「そう。まあいいや。いやーていうのもね、最近彼女がねー大学に来てないのね。大学側に問い合わせてみたら前期の履修登録もされてないって話なの。
でね、彼女の家に行ってみたらやっぱり反応なくてね。それでロミオに短期間ではあるだろうけど、よく通ってたあなたに聞いてみようかなと思って。大学で彼女見てない?」

「え、本当ですか。申し訳ないですが私もだいぶ会ってないので知らないですね。」

「そうかー。
実はねアルバイトも3月4日に出勤して以来、来てないらしいのよね。

次の日の3月5日は出勤日だったのにそこの店長がいくら電話してもメールしても連絡がなかったのよ。

そこで昔アルバイトをしてた彼女の友達に頼んで家に行ってもらったらしいのね。

で、彼女が住むアパートの敷地に着いたときににね、ある男を見たらしいの。

ただねその男は深く帽子をかぶっててボーダーのTシャツにちょっとだけ赤いシミのようなものがあってね。

その奈々加さんの友達は、"あの赤いシミは血なんじゃないか"って思って、心配して彼女の部屋のインターフォンを押したの。

そしたら何も反応はない。ドアに耳を当てて部屋の中の音を聞いてもなんも音がしない。そこで彼は不安になってここに捜索届を出しに来たの。もしかしたら殺されたんじゃないかってね。」

「そうなんですか。心配ですね。すいません、捜査の進展に貢献できるような情報はありません。」

「いやいや、気にしないで。まあっていうのもさ、その奈々加さんの友達がね、その男が帽子被ってたってのもあってね、顔がはっきりと見えてなかったのよ。

まあ夜だったしね、何とか伝えてくれた少ない情報で我々警察はある程度聞き込みなんかして探し回ったんだけど見つからなかったんだ。

大家さんに家を空けてもらったけど誰もいなかった。

彼女が最後に出勤した日の店内の防犯カメラを見たけどわちゃわちゃ騒いでるやつらがいて収拾つかなくてね、とりあえず店内のお客さんに聞き込みしたんだけどそれっぽい情報は出てこなくてさ、情報が出ても全部関係ない情報ばっかり。

自分のお気に入りの女がほかの男と親し気に喋ってて気に食わなかったからそいつが殺したんじゃないのかとかね。だいぶ参ってたよ。

周辺の防犯カメラを見たけど彼女は危険にも一人きりで退勤してたらしいしね。

ボーダーの男と歩いてる様子なんてなかった。

彼女が住んでたアパート周辺は普段は人通りもそんなになくて防犯カメラもついてなかった。

わりと捜査は低迷してたのよ。あーでね、そうだそうだ、あなたに紹介しなきゃいけない人がいるの」

彼女は突然、スーツ男の方を見て小さい声で「お願い」と言い、スーツ男はコクリと頷いてドアを開けて出ていった。

彼女はまた不敵な笑みを浮かべてこちらを見て

「実はその奈々加さんの友達に今日来ていただいています。」

と言ってドアの方へ二、三歩ほど歩いてドアを開けた。

笹原が「こっちこっち」と言って誘導し、一人の男が入ってきた。

そしてその男は私が知っている男だった。

いつも火曜の二限、日本文学を一緒に受けている片山だったのである。

「え?」と私は驚きがこぼれてしまった

「いやーびっくりだよね。でもさ、あんた片山君としゃべり始めたのいつからよ。」

私はそこでハッとした。

そういえばそうだ。この男は5月になった時あたりに急に「学科どこなの?」ときいてきて、片山が非常に巧みな会話で私に近づいてきた。

最初はただのチャラいやつかと思ったが、話しているとだんだん彼の面白話に私も楽しくなりそこから関係ができ始めた。

片山も警察のグルだったということか。

すると片山が震えた声で

「荒川。もう嘘はやめてくれ。」
と言ってきた。

彼の表情にいつもの笑顔はなく、まるで化け物を見たかのような怯えた目で私を見ていた。

「もうわかってんだよ。あの日お前が奈々加の家に行って殺したんだろ?」

彼は悔しそうに泣き出した。

笹原が続けてしゃべりだした。

「3月の奈々加さんが最後に出勤した日から警察は捜索を始めて、片山君が個人的にアパートの周辺張り込んだりとかしてくれててね。手伝ってくれたの。

ただ実はね、片山君は3回ぐらい『ボーダーの犯人とそっくりな男を見た』って言って連絡してきたけど、どの人も調べてみたら外れてたから申し訳なかったんだけど片山君から言われる情報もどんどん信ぴょう性がなくなっていっててね。

学生たちの春休みも明けて大学にも行って聞きこみ始めたのね、彼女が所属する経済学部の子たちにも聞いてみたけどまあ大学の友達って感じよね、関係性は薄いみたいで彼女が大学に来てないことにもあまり関心はない感じだった。

一年生の時もガールズバーの仕事をしてたのもあってか授業をさぼったりすることも度々あったらしくてそれでだと思う。

ご家族の方に連絡してもやっぱり彼女はいなくてね、他県から大学に通うためにこっちに来てたみたいだから親御さんも事情を知らなかったみたい。

けどね、そんな時にここにとある若い女性が現れたの。その女性、捜索届出しに来たの。

で、行方不明になった方はその人のお姉さんでね。写真見せてもらったらビックリするぐらいの美人でねー。」

彼女は首を触りながらハーっとため息を吐いた。

「そしてね、その行方不明のお姉さんも大学生らしくってね、どこの大学に通ってるかって聞いたらびっくり。

片山君と奈々加さんが通ってる大学だったの。

短期間に二件の捜索届、行方不明者はどちらも女性で同じ大学、しかも美人。

なんか関連してるんじゃないかと思ってね。

これはさらに誘拐や殺人の可能性が高いなと思ったのね。

そして、恐らく犯人は同一人物。
ボーダーの男なんじゃないかってね。

そしたらね、その若い子が言うのよ。

『お姉ちゃんは殺されました』って。

話聞こうかと思ったら唐突にパソコン出してきてね、ある映像を見せてきたの。

あまりに急だったからびっくりしてね、けどその映像があまりにも衝撃的でね。まあとりあえず、あなたにその女性を紹介するわ。」

と言って、ドアから女性がスーツ男に誘導されてきた。

ここまで読んでみて察しの良い読者の方々はお分かりだとは思うが、

その女性は先ほどまで私と一緒にいた田山玲奈だった。

先ほど田山玲奈の家と思わしきアパートは住んでいないと言い、私のことを殺したいとまで言ってきた。そして、私の秘密を知ってるとまで言ってきた。


そうか、あの事を言っていたのか。



「じゃあ玲奈さんはここに」

と笹原が言って、部屋の隅に置かれていたパイプ椅子を広げ彼女に座るように言った。

田山玲奈は座り、20秒ほど座ったまま何も言葉を発さなかった。

彼女の目に涙が浮かんでいるのが分かった。

すると田山玲奈が声を震わせながら私に喋りかけてきた。

「斎藤加奈のこと知ってますよね。」

やはり彼女は加奈の妹なのか。ということは加奈はあの事件で父親を刺したということなのか…。

そんな過去があったなんて知らなかった。

私の頭の中はいろんな情報で埋め尽くされていた。

「はい…」

笹原はしゃべり始めた。

「ちなみに、玲奈さんの苗字はあの事件から変わってるの。母型のおじいちゃんおばあちゃんの家に引き取られてお母さんの旧姓になった。だから玲奈さんの名前は斎藤玲奈なの。」

読者のみんなは斎藤加奈という人物は私という人間の何なんだよと思っているであろう。

加奈は私の恋人だ。

彼女との馴れ初めは大学の学部学科が一緒でそれに伴い受けている授業が一緒であることが多々あったので仲良くなり、私と彼女は付き合うことになったのである。

つまり、
斎藤加奈は私が最も愛している女性である。

ただ玲奈さんの学生証をこの目でしっかり見た。田山とはっきり書かれていた。あれは偽の学生証だったのか。ということは、彼女の言っていた”罠”というのは……。

「じゃーここらへんでその玲奈さんが持ってきた映像をあなたにご覧いただこうかな。」

と言ってスーツ男があらかじめ準備して別の机に置いていたノートパソコンを笹原は受け取った。

スーツ男の準備は非常によく、もうすでに動画のデータが開かれて、スペースキーを押せば再生されるようになっていた。

画面は真っ暗で何も映っていなかった。

「それじゃー再生するね。」

と彼女はスペースキーを押した。

動画が再生された瞬間、とある部屋が映し出された。

その部屋は見覚えのある場所だった。

そしてそこには”私の愛する斎藤加奈”と私の姿が映し出されていた。

日付は約1か月ほど前の5月2日だった。

そう。この日、私が愛する彼女を”自分のもの”にできた日である

そしてやはりその映像には映し出されていた。


この日私は彼女の家で一緒にご飯を食べようという話になり私は喜んで彼女の家へ向かった。

お酒を飲み交わしていたということもあり、彼女は1時ごろソファで寝てしまった

ただそんな時だ。

ふとテーブルに置いてあった彼女のスマホが目に入った。

私は当時付き合っていた彼女のことをもっともっと知りたいと思い彼女のスマホの中身を見ようと思った。

スマホの中にはその人の情報がたくさん入ってるからである。

好きな音楽、好きな映画、SNSでもしかしたら裏垢を持ってるかもしれない、はたまた誰かの悪口を呟いてるかもしれない、その時の私は愛が故の支配欲でいっぱいだった。

私は彼女のスマホの中身を見ようと思ったが、パスワードが分からず、1111などの数字を入れたがあっていなかった

そこで私はその日の一週間ほど前にふと彼女の誕生日を聞いた覚えがあったのでパスワードとしてその数字を打ち込んだ。

すると門が開かれたようにスマホのロックが解除された。
私は快感だった。彼女の情報の中に入れることがたまらなく嬉しかった。

なんとなく彼女が普段どんなことを友達と話しているのか興味が湧き、NINEを開いた。

ある意味それは浮気チェックみたいなものでもあった。トーク履歴の一番上に出てきた茉奈という人とのトーク画面を開いた。

ただ私は後悔した。

というのも、そのトークの内容を見てみると、彼女はどうやら茉奈という人から恋愛相談を受けていたらしい。

彼氏とけんかをしてしまい、愚痴を加奈にこぼしてるようだった。すると彼女は、茉奈に同情し私の愚痴をつらつらと書いていたのである。

私は怒りの念と同時に彼女に対する支配欲がさらに心の中で膨らんだ。ここまで言われたなら彼女のことを知り尽くしてやろう。そう思った時だった。

ブーっとバイブレーションが鳴り、画面上部に何か通知が届いた。

ツインターの通知だった。

内容を見てみると”のぼるからメッセージが届いています”と書かれていた。

加奈は私の知らないところで浮気をしているのではないかと思い、すぐさまそのメッセージを開いた。

どんなメッセージなのかと思い見てみるとそこには”それでは5月16日にお願いします。”と送られていた。

何のことなのだろうかと思いトークの内容を追ってみると、彼女は”ご希望の死にたい日はありますか?”とメッセージを送っていた。

私は訳がわからなかった。

彼女は何者なんだ思い、彼女のアカウントのプロフィールを見た。


そして、私はあのおぞましいアカウントに辿り着いてしまったのだ。


私は彼女のとんでもない秘密を握ってしまったのである。

その時だった。

「ねえ、何してんの」

彼女は最悪なタイミングで起きてしまった。

「見たの?」

とっさに彼女のスマホを置いたが、私はミスをしてしまった。

スマホの画面には彼女のツインターのアカウントが映し出されたままだった。

彼女はそれを見て

「はぁー、しょうがないか。」

と言って台所の方へ歩いて行った。

私は恐怖に包まれ足が動かなかった。

彼女は戻ってきたが、その手には包丁を持っていた。

「じゃーね。」

と言って彼女は私に包丁を振りかざしてきた、私は必死に抵抗し彼女の手を振り払った。

彼女は床に倒れ、このままでは殺されてしまうと思った私は彼女の包丁を力づくで奪い取り、その包丁を彼女の胸に刺したのだ。

映像にはその一部始終がはっきり映っていた。

今でも思い出すと恐ろしい。

しかし、カメラなんてどこにあったのだろうか。

映像は終わり、笹原が言った。

「はい。まあね、ここまでいろいろ見たり聞いたりしてもうなんとなくわかったと思うから、

タネ明かしタイムーー!!

はい。ということで。」

彼女のテンションはだいぶ浮いていた。

急な彼女の言動に片山も玲奈さんも驚いていた。

「あんたパトカーの中で顔を合わせたとき、”なんで朝電車の中にいた女がパトカーに乗ってんだ”って思ったでしょ?顔に動揺が出てたよ。」


やはりそうだ。

私は彼女たちにつけられていたのだ。

「いやーこれがめちゃくちゃ大変でねー。なんせ玲奈さんからね、おとり捜査をしてくださいって言われてね。しかも自分も協力させてほしいって言ってきたのよ。私は女優やってるんでできますってね。ねえ?何から何までそんなこと言われたらビックリでしょ?」

やっぱり朝からつけられていたのか。だから笹原は私が乗ってる車両、時間帯を調べ、故意に近づいてきたのだ。

「とりあえず映像を解析して、身元を調べたらあんたに辿り着いてね。

まあおとり捜査、面白そうだからやってみるかって思って彼女の話にのったの。

で、あなたが通ってた高校とか同級生とかに聞き込みを始めてね。そしたらさっき話した木村茜さんからの話が出てきたもんだからさ。

人の秘密を餌にしたら食いつくんじゃないかなと思ってね。

荒川君、思ったんだけどたぶんあなたの性格とかから考えて、彼女のスマホを触ってたのって加奈さんの”秘密”を求めての行動だったんじゃない?

だけど、あんたは不幸にも彼女の恐ろしい秘密に辿り着いてしまった。

見ちゃったんでしょ。彼女の大学用のアカウントとまた別に持つアカウント、自殺をお手伝いしてあげるアカウントを。」

やっぱり警察もあのアカウントのことを把握しているのか。

だから、笹原は私にあんなことをしてきたのか。

「そして、そのアカウントの自己紹介欄見ちゃったんだよね?

”自殺をご検討されている方はご連絡ください。
ワタクシが楽にしてさしあげます。”

って書いてある自己紹介欄を。映像で驚きのあまり、スマホを触る手が止まってしまうあなたの姿が収められてたからね。

だから、私はわざとあなたに近づいて彼女のその文章が書かれているアカウントを作ってスマホに映してたの。

人の秘密を握って脅してたあんたなら私のまいた餌にかかって私に声でもかけてくるかなと思ったけど、やっぱりその時のこと思い出して怖くて声かけられなかったんでしょ。」

彼女はずばりあの時の私の気持ちを当てたのである。

あの時の奇妙な感情。

彼女のことを思い出した。

そしてこの人もそうなのかと思った。いろんな考えがあの時頭を巡っていたのだ。

「まあでも私の方はあくまでも挑発的な感じでやったことだから?前座みたいなもんよ。

と言っても玲奈さんが署に現れてから、あなたのことを聞き込みして回っている間にね、あなたが何時の電車に乗って登校するか、車両はどこに乗るか、ある程度の行動パターンをあなたをつけて調べたの。あなたは気づいてないと思うけど今から1か月前ぐらいからあなたのことつけてたのよ。

そして大学の方の尾行は私たち警察が変装しても大学生っぽくないから、片山君に全部事情を説明してね、もちろん奈々加さんのことが関連してるかもしれないってことも説明したの。そして、あなたと接触してもらうように頼んだのよ。

そこである程度あなたの交友関係を知ったのよね。何限の授業受けてんのかとかいっつも何時に起きてるのかとか、あなたが今家で猫を飼ってることも知ってる。片山君は本当にいい立ち回りしてくれたわ。

で、その次にやったのが私が電車の中であなたと接触するっていうこと、

そしてその後の玲奈さんがあんたに接触するところが、玲奈さんと私で考えたおとり捜査なの。

結構大がかりだったでしょ?でもやっぱ女優さんてすごいねえ、こんな感じの性格で近づいたらいいかもみたいな要求したらすぐできちゃうんだもん。名演技だったよ。

なにかあなたが玲奈さんの秘密を握るようなことをしないといけないと思ってね。

玲奈さんにはあんたに対して弱みを見せるように頼んだの。ここ重要。

あんたみたいな変態気質な野郎を引き込むにはねえ、美人なのに俺でもワンチャンあるかも感を出さなきゃいけないのよ。

でしかも、玲奈さんも美人だし、あんたの好みそうだしね。

これは完全にいけるなと思ったの、茜さんにあんたの性格を詳細に聞きだしてね、それで計画を練ったのね。

いやー面白かったねー。

ほんでまあ、玲奈さんと私が考えた計画は、片山君もいる日本文学の授業で仕掛けようってなったの。

っていうか、まさか玲奈さんが実際に自分が幼少期の時に体験した事件をもとに作られた映画に出てるなんてね。

これはもういい材料がそろいすぎてるなって思ってね。いやーでも本当に玲奈さんすごかったよ。良かった。」

と玲奈さんの方を見て言ったが、玲奈さんはずっと私の顔から眼を放さなかった。

私は少し視線をそらしていたが彼女が私をにらみつけてるのが何となくわかった。

そんな彼女の様子を見て

「まあそりゃ、今すぐにでも殴りかかってやりたい気持ちだよね。でもここは警察署。気持ちはわかるけど抑えてね。」

と言って一旦間をとったあと、笹原は両手を合わせてパンッと鳴らし、話を仕切りなおした。

「まあそれでさ、日本文学のその先生に事前に話をしてね、『ファミリー』を上映してもらうように頼んだの。

でね、最初は誘い出すためにあえて玲奈さんに帽子を深くかぶってもらって、バレたくなさそうにしてる様子をあなたにわかるようにわざとあんたの席から近い席に座った。

そこで少し帽子を上にあげて、あなたに見えるようにする。

彼女はこの大学に在籍しているけど、女優としての知名度をあげたい。でも一応そこの学生だからバレると色々と面倒。

けど有名にもなりたいし、周りの反応を見たいから自分が出た映画を宣伝をするために教授に頼んで上映してもらってるとあんたに思わせるためにあんな感じにしたの。

まあってかまず、ドッキリ番組でもない限り上映されてる映画の中に出てくるキャストが目の前にいるなんてありえないしね。

で、一応大学用のアカウントを持ってることもちらつかせた。あんたはより話しかけてくるかとなって思ってね。

まあそして、バレたくなさそうにしてる彼女を見てあんたは話しかけ行った。

であんた案の定、アカウントのことも聞き出そうとしたね。私たちの策にハマっちゃってんじゃん。


まあほんで、あんたと玲奈さんがしゃべりこんだタイミングで私が玲奈さんのスマホにメールを送り、スマホをとるふりをして自分の学生証があんたの目に映るように出した。

事件のことに関しては教授に授業の中で説明するようにあらかじめ言ってたから、その知識をインプットしてるあなたは驚く。

そして、玲奈さんは誰もいない教室に誘導し、あなたに自分の秘密をバラさない約束を交わし、お礼と称して家に招いた。

あーでね、あのアパートの大家は私の知人でね。今回のために貸してもらったんだよ。もう本当大変でね。」

だから、床にごみ一つ落ちなかったのか。

彼女の性格の表れなどではなかった。

「ほんで、たっぷりあなたをモテ遊んだ後にそこで取り押さえてやろうってことだったの。

そしてこの一連の計画の名前が、"パペッティア"ってわけ。これは玲奈さんが考えたの。」

なるほど。そういうことか。私は完全にしてやられたのだ。私は笑いそうになってしまった。

パペッティアという名前。

パペッティアとは、操り人形を生きているように動かし、操る人形使いのことである。

つまり私は、玲奈さんや片山や警察という”人形使い”から操られ、まんまと追い詰められた”人形”なのである。

秘密を使って人を操っていた私に対しての復讐だからこそ、そういう名前にしてるのだろう。

「いやーうまくいったよ。もうあのアパートに連れ込んだ時点でこっちの勝ちは確定してたからね。あーあと全部見てたよ、ウキウキでジェンガ買いに行ってたとことか。」

私は途端に恥ずかしくなった。

「まああんたが加奈さんを刺しちゃった映像も残ってるから、荒川君。あんたは逃げられないのよ。

しかも奈々加さんが働いてたロミオの店員にもあなたの写真を見せたらもう一発だった。

あんたの顔見たことあるって人がいっぱいいた。

過去の防犯カメラの映像見てみたらあんたが言う通り、11月から12月にかけて映ってた。

そして一応5月のあなたの行動パターンを知るためにつけてたあるときにね、うちの警官が急にあんたの服装を撮って私に送ってきた日があったの。

そしてその写真見たらさ、ボーダーの柄のTシャツだったわけ。

すぐさま、片山君に見せてみたらビンゴでね。あの時の服装だっていうのよ。

別の日にあんたが黒の帽子をかぶってる日があったからそれも片山君に送ってみたらやっぱりその時の帽子だったのね。」

彼女の言う通り、私はもう逃げられなかった。
ここまで特定されている私は逃げても意味はなかった。

「そこで聞きたいのよ。なんで店に急にいかなくなったの?そして、玲奈さんの遺体と奈々加さんはどこ?」

私は10秒ほど考え喋った。

「はぁー。わかりましたよ。教えます。

僕は、11月にあのガールズバーで、言ったら”獲物”を探してたんですよ。

茜の時、不完全燃焼に終わったもんだから、最初は次のターゲットを探すためにロミオに行ったんですよ。

そういう店って少し訳あって働いてることか多そうですしね、お話しして距離縮めるにはにはちょうどいい場所だなと思ったんです。

店内に入って初めて接客してくれたのが奈々加でした。彼女は気さくに僕に話しかけてくれて、その日から彼女のもとを訪ねるようになったんです。

彼女の仕事が終わるまで待って、彼女の後をつけていって家を把握したりなんかもしました。

ただ僕はだんだん彼女を追っていったり、店で話すうちに彼女に恋心を抱くようになっていったんです。

そして、12月あたりぐらいですかね。お店が終わった後、彼女の家の前の道で偶然を装って彼女に会ったんです。

その日は雨が降ってたのもあったので『終電を逃した。』と言えば心優しい彼女は家の中に入れてくれると思ったんです。

彼女が帰ってくるのが見えて私は彼女とたまたま出くわしたふりをしました。

案の定、彼女は、傘も持ってなかった俺を家の中に入れてくれたんです。

彼女の家でゆっくり話しました。

そこでどこの大学に通ってるかとか普段何をしてるかとか聞きました。夜遅かったってのもあってか、彼女は話してくれたんですよ。

そして、『なんでガールズバーで働いてるんですか?』って聞いたんですよ、そしたら大学に通うための学費や生活の為だったらしいんですよ。

彼女は幼少のころから虐待を受けていたみたいで早く出ていきたいと思いつつも学歴をつけてお金を稼ぎたいっていう願望があったらしく、大学に通いながらガールズバーで働いてたみたいなんです。

しかも友達にはガールズバーで働いていることをバレたくないって言ってたんですよね。

でも、夜遅くまでやってたもんだから欠席することも多々あったらしくて。

だから周りの生徒からは単に怠惰な学生だという風に捉えられてたらしいので、テストのことを聞いても教えてくれない友達がほとんどだったらしいんです。

みんな自分のことで忙しかったんでしょうね。そこで私はある提案をしたんです。彼女の生活費を負担してあげることにしたんです。

あまり僕はお金使わないタイプなので、割とお金には余裕があったんですよ。そして彼女にシフトを減らすように言って後期のテストに備えるように言ったんです。

ただなにも報酬なく彼女の生活費を負担するほど僕はお人よしではありません。

そこで彼女に話を持ち掛けたんです。

『生活費を負担するので、僕のこと好きになってくれませんか?』って。

そしたら今となってはあの子は自分の生活を考えてのだろうとは思いますが、笑顔で頷いてくれたんです。

これにより俺と彼女との交際は始まったんです。」

その話をした時、片山と玲奈さんは私の話を険しい顔で聞いていた。

笹原さんは少し引いている顔をしていた。

「僕は度々奈々加の家に行っては話をして、流れでいろんなことをしたりとかもありました。

彼女も受け入れてくれてたので順調かと思っていたんです。

そしたら3月になった時に、急に彼女が『今の関係を終わりにしたい』ってメールを送ってきたんですよ。

私はお金を倍払うからって返したんですけど彼女はもう聞く耳を持ってくれない感じだったんです。

そしてそのメールを交わした2日後に彼女の家でゆっくり話すことになったんです。

ただ僕は彼女との夢のような関係が終わってしまうことが嫌だったんです。

そこで僕はある考えを思いついたんです。

自分のものにしちゃえばいいんじゃないかと。

僕は家に行って彼女と話しました。

だけど、話をしても彼女が僕との関係を終わらせたいという意思は全く変わりませんでした。

僕はトイレに行ってくると言ってトイレの方へ向かい、ズボンのでかいポケットの中に忍ばせていたトンカチを取り出し、彼女の背後から忍び寄り彼女の後頭部に振りかざしました。

気を失った後は首を絞めて殺したんです。

そしてその日彼女は私のものになったんです。」

「あなたは自分の恋した人を死体として所有するために殺したの?」

「まあ、最初はそんな感じでした。ただ、ずっと一緒にいたいと思ったんです。」

「つまり、二人の遺体はあなたが持ってるってこと?」

「僕の家の庭に埋めたんですよ。

そうすれば、家に帰ったら彼女たちが一緒の空間にいると思えたんです。

作業は大学近くの山でやりました。彼女の家からそう遠くなかったので、周りをしっかり確認しながら山におんぶして運んだんです。

僕の家でそのまま奈々加を埋めるのは時間がかかるので、遺体をコンパクトにしないとなって思ったんです。

そこで遺体を解体して、腕と足と胴体と頭に分けて切り刻んで袋に分けました。

まあ殺した次の日は大学をサボって家に遺体を埋めました。近隣の方は仕事で昼には誰もいなくなるんですよ。

一応見られちゃったりしちゃった時のためにあらかじめ花を用意して、花を植えてるように見せかけてその袋を土の中に埋めたんです。そしてその上に花を植えました。

幸い、誰にもバレなかったんですよ。

あーそうだそうだ。一応自分が彼女の家にいたという痕跡が残ってないか確認しに彼女の家に戻ったんです。

そのときに片山に見られたんでしょうね。

でもね、その後にぼくまた戻ったんですよ。ボーダーの服に血がついちゃってることに気づいて。考えてみれば電車で来てたので彼女のTシャツを借りたんですよね。いやーいい匂いでしたね。

あ、すいません。話を戻しますね。

僕が家の植えた花を見たときに彼女のことを思い出してたんですけど、だんだん寂しい気持ちになってきたんです。

やっぱり常に彼女と一緒に居るという感覚が欲しい。そして彼女が動いてて生きてるという感覚が欲しい。

けど大学に遺体が入った袋を持ち込むことはできない。そこで僕は思いついたんです。

持ち運べる方法を。




砂時計ですよ。」

「砂時計?」

笹原は理解しがたいと言いたげな難しそうな顔をしていた。

すると、玲奈さんが険しい顔をして私に問いかけてきた。

「それって、さっきジェンガの罰ゲームで時間測るために使おうとしてた砂時計じゃ。」

「そうです。


僕は彼女の腕の骨を一部拝借して、トンカチで砕いて砂状にしたんです。そして、僕は砂時計を買いに行きました。
砂時計の砂を全部出して、彼女の骨を砕いて粉末状にしたものと入れ替えました。

するとどうですか、振ったり、ゆすったりすると砂時計の中の奈々加が動いてるんですよ。

そんな彼女を見つめているのが僕の癒しの時間でした。」

そこにいるみんなは一貫して私を怪物を見るかのような怯えた目で見ていた。

「そこから僕は、また、ターゲット探しに出たんです。今度は同じ学科の子にしようと思いました。その当時、仲良くしていた加奈をターゲットにしようと思ったのです。

僕は彼女をご飯を誘いました。ある程度、彼女の好き嫌いや趣味などは大学で雑談しているときに聞いていたので、彼女の好きな韓国料理屋に行き、それがきっかけで残りの春休みの日数は彼女とともに過ごしました、そしてホテルにでも招こうかと思った

その時でした。

彼女は僕に告白してきたんです。

今までいろいろな策を練ったりしてきたのに初めてこの僕に本物の愛情を与えてくれる女性が現れたんです。

けど、5月2日に彼女が僕に対してそんな気持ちを抱いていたことや彼女のおぞましい秘密を知ってしまって、彼女が包丁を持ち出してきたときに僕の心の中は恐怖に包まれると同時に彼女の愛情が終わってしまうという気持ちに襲われ、”奈々加のようにしよう。”と思ったんです。

それで彼女を刺した後、奈々加の時と同じように作業をして、加奈も砂時計にしたんです。


だから僕は2つ砂時計を持ってるんです。」

玲奈さんは涙を流しながら私の顔を見ていた。

誰も何も言葉を発さなかった。

片山は床をじっと見ていて、笹原さんは机の上をみつめていた。

スーツ男と警官も下を向いていた。

笹原は、スーツ男に私の家から遺体を回収してくるように言い、横にいた警察官も動き、取調室を出ていった。

取調室に静寂が戻り、片山が小さい声で何かを言っていた。

そのボリュームが大きくなり、

「おい、ふざけんじゃねえぞ。奈々加を返せよ。」

片山が顔をあげ私に言い放った。

私は片山に言った。

「奈々加の砂時計は片山にやるよ。玲奈さんにもお姉さんを返します。」

すると、玲奈さんが突然立ち上がって

「ふざんけんな!!!!」と言って私に殴りかかってきた。

すぐさま笹原さんとスーツ男が取り押さえ、彼女を再び席に座らせた。

私はふと疑問に思ったことがあり玲奈さんに質問した。

「一つ質問良いですか?あのカメラはどこに仕掛けられていたんですか?」

すると、先ほど暴れていた玲奈さんが答えた。

「仕掛けたんじゃねえよ。もともとあったんだよ。

猫を飼ってたの。

姉ちゃんが高校性の時にキャンディっていう猫を飼い始めたのよ。

大学生になったら一人暮らしして、キャンディも連れていくって言ってて、時間になったら自動でキャットフードが出る機械を買ってた。

その機械には家の中にいる猫の様子を見るための小さいカメラがついててスマホでそれが見れるようになってるの。

それがアプリ内に一日一日記録される。

そして、あんたはそれに気づかなかった。

次の日の5月3日に姉ちゃんが『ファミリー』のDVDもらいに来る予定だったのに全然来なかった。

メール送っても電話かけても何も反応がなかったから、寝ちゃってるんじゃないかと思って家に行ったの。

でも、遅刻するようなタイプじゃない。変に思って合鍵で部屋の中に入ったら物が少し雑に置かれていた。

姉ちゃんいなかったし、キャンディもいなかったから、もしかしてなんかあったんじゃないかと思って、姉ちゃんのパソコン探したの。あんたパソコンにまで目を通してなかったみたいね。

姉ちゃんはパスワード何でもかんでも誕生日にしてるからすぐに開けて昨日の映像確認したら姉ちゃんが殺されたってわかって

すぐ警察に行って、事情説明したの。」

痛恨のミスだ。パソコンにまでは気を配っていなかった。彼女がipadとスマホを持っていたのは知っていたのでそれは処理した。

なるほど、だから警察は加奈のおぞましいアカウントのことを知っていたのか。そのパソコンから彼女の様々な情報を得たのだろう。

玲奈さんはまた私をにらみ始め、その眼には殺意を感じた。

続けて笹原さんが私に聞いてきた。

「で、思ったの。あなたが今飼ってる猫ってキャンディよね?」

「かわいそうだったのでひき取ったんですよ。主人と一緒に居た方がいいだろうと思ったんです。」

「そう。あとさ、あんた加奈さんに頻繁に会いたくなって、彼女が働いてたドラッグストアにずっと会いに行ってたでしょ。

そして、彼女のバイトが終わるまで待ってた。まあ彼女も一人になりたい時くらいあるわよ。

そのあとの流れとして家に招かなきゃいけない流れになるし、そんな日々がずーっとずーっと続くもんだから、うざったくなって茉奈さんに愚痴をこぼしちゃった。

茉奈さんとの会話ではそう書かれていたからね。でも、彼女は純粋にあなたに恋してくれた初めての人だったからあんたは生かしておきたいと思ったんじゃない?よりを戻そうって。

けど、彼女は自分の秘密を知られてしまったがためにあなたを殺さないといけないと思って包丁を持ち出した。

けど、恋人に対してそんな行動をとる加奈さんの行動を見て、自分に対する愛情が完全になくなったんだと思っちゃって、さっき言ってくれたようにあんたは遺体を処理した。

でね、彼女のアカウント調べたの。

なんでそんなことするんだろうと思ってね、そしたら全国各地から自殺志願者を募ってて自殺ほう助してた。

まああの映画のラストシーンでは監督の提案で面白さを出すために彼女は平気で人を殺すなんていう展開になってたらしいんだけど、自殺ほう助とはいえ、本当に人を殺しちゃってるとはね。


でもあのアカウントが作られた時期って去年、映画が公開された6月から2か月後の8月だったのよね。

今から言うことは玲奈さんには失礼になっちゃうかもしれないんだけど、今おじいちゃんが体悪くして入院してるんだよね?」

玲奈さんは、うんと頷いた。

「しかも、入院したのはその時で玲奈さんは自分の演技力をもっと磨くために専門学校に通うことを考えてた時だった。

おばあちゃんに一回相談したけど、家庭にそこまでの余裕はなかった。そこで彼女は自分の体でお金を稼ごうと思ったけど、彼女には無理だった。

変なおじさんたちとのやりとりが持っていたのがパソコンに残ってたしね。

まあ好きでもない人と寝るなんて無理だったんだろうね。

でも彼女はあの映画を見て思い立った。

ただ自殺ほう助をすれば危険なことを冒してるのだからその分お金をもらえる。

しかも、依頼者は死にたがってる人、もう死ぬのだからと振り切って高い金額のお金を出してくれるんじゃないかとそう思ったんじゃないかと思うのよね。

しかも自殺志願者の望み通り、殺してあげるんだから罪悪感もわかない。
依頼者がお望み通りの行動をしてあげてるに過ぎないんだから。

んでしかも、加奈さんには適役だろうしね。なんせ加奈さんはお父さんを刺した張本人だから。」

だから自殺ほう助を選んだのか。

彼女はそんなことを抱えていたのか。

彼女が悩んでいたなんてことは知らなかった。

私に相談してくれればお金は負担したのに。

「玲奈さんから話を聞くに、お姉さんは責任感の強い人そうだったし、あんな悲惨な過去があったからこそ、大切な家族を失いたくなかったんじゃないかな。

おじいちゃんの病状が深刻なのも知っててなんとか入院の維持費と手術費を出しておじいちゃんを長生きさせてあげたかった。

そして玲奈さんの将来を応援してあげるために彼女は自殺ほう助に手を染めた。

恐らくだけどひとり暮らしをやめなかったのは自殺をお手伝いするときに使うロープやナイフを保管しておくためだろうね、依頼の中には刺して殺してほしいという要望もあったらしいからね。

まあ家族で住んでて洗濯物に血が付いた服なんて出てたら突っ込まれるだろうしね。」

私は奈々加の時も加奈の時も家にある彼女たちのTシャツを借りた。今となってはいい思い出である。今でも私はあのとてもいい香りを覚えている。

近くのスーパーに寄って複数枚の袋をもらってその袋の中にバラバラになった奈々加を詰め、それを私の持つリュックの中に入れ、早朝の電車に乗り、持って帰った。大変だったなあ。

加奈の時も早朝に帰り、地元の人気のない公園で両親が仕事に行くまで時間をつぶしていたのを覚えている。

そして、家の中へ入り、どちらの時も急いで汚れた服をもみ洗いした、奈々加の時のボーダーの服は血の赤がきれいに消えたが、加奈の時の服は大胆に刺し殺したため血が飛び散って消せるほどではなかったため、公園近くの川に捨てた。

ただただスリルを感じた日だった。

「そして順調に行ってたんだろうね。

加奈さんは依頼者にあの大学近くの山に来るように言ってたんだ。

玲奈さんが来てから山の中を探したらまあ遺体が4体ほど出てきたよ。何なんだよあの山は。呪われてんのか?

金額も割ともらってたみたいだねいい時は100万もらってた時もあったよ。」

笹原はまたパンッと両手を合わせて鳴らし、話を仕切り直した。

「荒川君。あなたは二人殺してしまってるわけだから死刑の可能性が高い。

加奈さんの時は正当防衛かとも思ったけどさ、あんたは人のスマホと見てる訳だし、しかも奈々加さんの件があるしね。

しかもあなたは遺体をバラバラにして所持した。これはしょうがないと思うわ。

まあこれからあなたの処置は決まります。ご両親には私から話しておくけど、取り返しのつかないことしてんだからしっかり考えて話しなさい。」

笹原さんは立って片山と玲奈さんに別室に戻るようにドアの方へ誘導した。

ドアを開けると警察官がドアの前におり、手で「こちらです」と誘導した。

その時、

片山は涙を流していてこちらを睨んだ目で少し見て取調室を出ていき、

玲奈さんは立ち止まってこちらを振り向いて「絶対にあなたを許さないから」と言葉を吐いて出ていった。

笹原は次に私の顔を見て

「それじゃ移動しようか」と言ってきた。

私の供述をメモしていた警察官が動き、別の警察官が入ってきて私の体をつかみ、取調室を出た。

そして私は留置所に入れられ、笹原から

「とりあえずここでおとなしくしててね、また会いましょう。」

と言われ、

「最後に一つお願いいいですか?」と私は返した。

せめてものお願いだった。

「加奈と奈々加に別れの挨拶をしたいんです。僕のリュックの中に2人がいます。それを持ってきていただけませんか?」

すると笹原はあきれた表情をして、

「無理に決まってんでしょ。」

と言って歩いて行った。

その場は看守を担当する警察官と私だけになった。

その警察官は腕に有名なブランドの腕時計をつけていた。

私は加奈と奈々加のことを思いながら、

その時計の秒針が1秒1秒を刻みながら動いているのを留置所の中からただ、



見ていた。

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