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俺なりの『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』―僕が見たくぴぽの3年半 ※2024年2月追記

筆者注…この文章は私の経験に基づき、ネット上の情報を参照して構成していますが、ある部分では想像や推論を含み、事実や時系列に差異があると思います。あくまで個人の主観的な記録としてお読みいただけたら幸いです。


序 -2018~2019年-

2023年12月16日より大阪・十三シアターセブンにて上映され好評を博し、東京でも2024年3月2日から1週間、新宿のK'S CINEMAにて公開されるドキュメンタリー映画「くぴぽ SOS! びよーーーーんど」は、僕がこの数年間追いかけてきたアイドル・くぴぽの活動を中心に据えつつ、エンターテインメント界を襲ったコロナ禍を経て地下アイドルとは何なのかに迫ったドキュメンタリー映画である。

監督は前作「くぴぽ SOS!」(2017年)を制作されたジャーナリスト/ライターの田辺ユウキ氏。
くぴぽ、というかまきちゃん(くぴぽのプロデューサーであり、メンバーでもある)のことをもう何年も見続けてきた氏だけに、内容の濃さや解像度の高さは信頼できるだろう。
ただ、前作公開時には僕もくぴぽのことを知らなかったので、前作は観ていない。さらに言えば、現時点で前作を観る手段そのものがないのだが、田辺監督の意向により、今後もフィジカル・配信ともに再公開される予定はないようだ。

僕がくぴぽのことを最初に知ったのは2018年ごろ。
そのころ代代代を好きになって、同じ事務所の姉妹グループとして名前だけは認識していた。
その時期にくぴぽのステージを観ることはなかったが、まきちゃんは代代代のスタッフとしてたびたび関東遠征に帯同しており、僕はくぴぽに対して知識も興味もなかったので「このお兄ちゃんかお姉ちゃんかよくわからないスタッフさん、物販もチェキもテキパキしてて良いな」と思っていた。

その後も代代代のオタクを通じてくぴぽのライブの話を聞いたり時折YouTubeで動画を観たりして(でも当時は撮可にも関わらずオタクがいなさすぎて全然動画がなかった)、まきちゃんがフロアで暴れてボールを投げつけられたりバットで殴られたり、物販ではオタクとキスチェキを撮ったりと「無茶苦茶やってるなあ」と半笑いで観ていた。なので詳しいメンバー構成とかは全然知らず、でもメンバーがすぐ辞めるというようなことはネタ半分で知っていた。

2019年後半から2020年にかけて、僕が好きだったグループにも色々なことがあり、推しの卒業や、推しているグループのメジャーデビューなど、僕のオタク人生にも一つの区切りがついた感じがした。

そして、コロナ禍が訪れた。

雨 -2020年-

元々僕は地下アイドルのオタクでありながら特に「ライブ第一!」という主義でもなく(もちろんライブを観るのが一番好きですが)、SNSを追いかけたり音源を聴いたりするのも等しく好きなインドアオタクで、足繫くライブハウスに通う人間ではなかったので、ライブの機会がほぼゼロになっても気楽に過ごしていた。
むしろ、アイドルに割いていた趣味の費用をゲームソフトとか今まで買ってなかった好きな映画のソフトやバンドのマーチに充てたりして割と楽しかった。

しかしアイドルさんはといえば、この文章に辿り着いているような人ならお分かりのことと思うが、大変な状況であったと思う。
地下アイドルはいわばライブアイドルである。
一番の表現手段でありマーケティング手段であるライブをできないというのはあまりに痛手だ。
そして何より、メイン収入源であるライブ後の物販やチェキ会が実施できないというのはもはやライフラインを断たれたも同然だった。

ライブの機会がないならば、と、グッズの制作・販売や、音源の制作・販売、MV・ライブ映像の配信などに活路を見い出すということもできたであろうが、まとまった元手が必要なものばかりで、貯金がなかったり、コロナ禍に応じたアイデアを出すことができないアイドル運営は次々に疲弊していった。

そんな最中、僕がくぴぽのことを改めて意識したのはアルバム「ニャンニーチュアン」が発売されたときである。

少し時間を遡ると、くぴぽは2020年の1月に初めて東京でのワンマンを行っており、僕の友人も多数観に行っていて、とても満足感のある内容だったと聞いていた。
映画の紹介文でも触れられているが、東京でのワンマンを成功させたことはくぴぽにとって大きな弾みになった…はずだった。(YouTubeにもファンカムの映像がアップされているが、めちゃくちゃ熱を感じてとてもいいライブだ)
僕のような関東から出ない、いちオタクにも名前がチラホラ聞こえ始めてくるぐらいだから、その勢いは本物だったと思う。

しかしその後コロナ禍となり、ライブ活動自体がままならない中、4月開催予定だった服部フェスが中止、2年近く在籍したほんぼちゃん(2018年3月〜2020年4月在籍)が卒業(一度中止になった卒業ライブをなんとか敢行したのは偉い)とネガティブなニュースが相次ぐ中、2020年6月に2ndアルバム「ニャンニーチュアン」が発売された。

前述したとおり、僕の頭の中にくぴぽの名前はもう既に定着していたし、周りのオタクも話題にしていたので、サブスクが配信されたタイミングで「ニャンニーチュアン」を聴いた。

ライブSEとしてお馴染みの「出囃子っぽ」から始まり、今もライブでの必殺チューンである「PAINT PAIN 平成」や「ぎゅーーーーーして♡」「グミ・チョコレートでつかまえて」、くぴぽのアンセムとなった「PEOPLE!!」など現在に続く“くぴぽらしい”楽曲の萌芽が見てとれるが、何よりも衝撃は「夏が嫌い」だった。

地下アイドル飽和状態の2020年代を迎え、とにかく音数を詰め込んだ音圧マシマシのずっとサビみたいなアイドル楽曲が幅を利かせる中、ローファイでミニマムなバンドサウンド、メロウでいなたいメロディをメンバーが淡々と歌いながら、歌詞の展開と共に徐々に熱がこもっていく人間くさい楽曲。
そんな「夏が嫌い」は楽曲の素朴さとは裏腹に(少なくとも僕らの界隈には)大きな衝撃を与えた。

同年7月に公開されたMVも非常に内省的な内容で、ホームビデオ風の拙さが逆にエモーショナルであり、それはまきちゃん自身の編集によるものであったが、その選択が見事にマッチしていたように思う。
余談ではあるが、のちにくぴぽに加入するうのちゃん(当時は「宇野祐生佳」として活動)に動画制作について指南を受けていたというのも、今となっては運命的なものを感じる。

楽曲の良さに心惹かれ、MVを観て(その後他のMVも全部観た)、僕はますますくぴぽに興味を持っていった。
メンバーでも特に歌とルックス、パフォーマンスに惹かれたのはなだれちゃん(2019年4月~2021年7月在籍)だった。

なだれちゃんは、とにかくその歌声に圧倒的な個性があった。少しハスキーで芯の太さがあり、その小さな身体から発せられているとは思えない力強さ、そして、常に感情を絞り出すような、心を掴まれる歌声だった。

なだれちゃんのことについては、2021年5月にnoteを書いた。
詳しく読みたい方は(そんなにいないでしょうが)、以下をご高覧ください。

2020年の9月、僕はくぴぽのライブを初めて観に行った。
西永福JAMだ。
くぴぽは8月にあむちゃん(2020年8月~2022年2月在籍)が加入し、まきちゃん、ひめちゃん(2018年4月〜2021年7月在籍)、なだれちゃん、あむちゃんの4人編成となっていた。
当時はコロナ禍の中、限定動員、マスク着用、声出し禁止などの様々なルールの下で地下アイドルがようやくライブ活動を再開し始めた頃であり、くぴぽもアルバムの発表とメンバーチェンジを経て心機一転、関東遠征のスケジュールもたくさん入っていた。

そんなわけで、僕が観たときはまだあむちゃんが加入して片手で数えるぐらいしかライブをしていなかった頃だが、そんなことは微塵も感じさせないライブに圧倒されてしまった。
それぞれがメンバーカラーの煌びやかな衣装を身に纏い、個性溢れる歌声とパフォーマンスでステージを駆け回る。この頃までのくぴぽのイメージはどうしても“イロモノ”だったので、メンバー一人ひとりのスキルの高さ、ステージ力に本当に驚いた。特にあむちゃんは加入して数週間とは思えないほどに堂々とパフォーマンスをこなしていた。
唯一それまでのくぴぽらしさを感じたのは、まきちゃんが空気で膨らませた大きなビニールボールの中に入ってステージに出ていたことだが、まきちゃんもプロデューサーとしてステージ上のパフォーマンスだけで魅せることに対して不安があったと思うし、暗中模索の日々だったであろうことが窺える。

「興味があるしちょっと観てみるか」程度で行ったくぴぽのライブだったが、ライブとメンバーの魅力にすっかりやられてしまった。
それに、前述したように在宅ライフを楽しんではいたものの、やはりアイドルのライブから得られる楽しさやパワーに飢えていたのかもしれない。
くぴぽには僕が思うアイドルライブの楽しさのすべてがあった。

地下アイドル界全体では当然ライブ自体の本数が激減していたが、くぴぽのライブスケジュールは僕の生活スタイルに合っていたので、月に1,2度の関東遠征の際はほぼ毎回ライブに行くことができたのも大きかった。

こうして僕は2020年の後半にズブズブとくぴぽのオタクになっていった。

くぴぽのライブは、フロアに降りたり、お客さんと絡んだりというお馴染みのパフォーマンスができなくなったことにより、その魅力の多くが殺がれてしまったと、オタク側だけでなく、まきちゃん自身もそう思っていたのではないだろうか。

もちろん、それが真実となって、くぴぽが終わっていた未来もあると思う。
しかし、そのあまりに痛い現実が、メンバーの地力やアイドルとしての矜持を呼び覚ました。

歌とダンスのパフォーマンスはライブを重ねるごとに磨かれ、どんどん魅力を増していったし、イロモノ的なパフォーマンスが減り、アイドルとして普遍的なステージを見せることで、くぴぽの楽曲群の本質的な音楽性の高さが浮き彫りになっていった。

当時のステージは、メンバーたちの元々のポテンシャルの高さもあったと思うが、逆境に置かれたからこその反骨精神というか、「やってやるぞ!」という気迫に満ち溢れていた。
それまでまきちゃんにマスキングされがちだった自分たちのパフォーマンスを前面に出せる、という嬉しさもあったかもしれない。

そんなくぴぽのパフォーマンスは、意欲的な組み合わせの対バンで知られるライブイベント「tribu」に出演したり、東京で自主企画「私立くぴぽ学園」を積極的に行うことで、僕のような「コロナ禍でくぴぽに出会ったオタク」に刺さり、浸透していった。

しかし同時に、急激なパフォーマンスの方向転換は「それまでのくぴぽ」のイメージに対して影を落としたことも事実だった。
2020年以前のくぴぽのファンからすれば、ステージ上のパフォーマンスのみで勝負をするくぴぽの姿には大きな戸惑いがあっただろうし、以前の味を残そうともがく(ビニールボールに入ったり、メンバーをジャイアントスイングしたり)まきちゃんの施策は奏功しているとは言い難く、2023年の今だから言えるが、言わばどっちつかずの転換期で、以前からのファンとしては「くぴぽの面白さはこんなもんじゃない」と苦々しく思うこともあったことは想像に難くない。「くぴぽはつまらなくなった」「ただのお行儀の良いアイドルになった」と公然と漏らす声も聞こえた。
まきちゃんやメンバーにとってはそういうムードが辛かったことだろう。
この状況が自分たちで望んだことであればまだ耐えられもしただろうが、未曾有のパンデミックによる全くの不可抗力なのだから余計に、だ。

この頃からまきちゃんはキャスなどで「(くぴぽに)まきちゃんいらんやろ」と冗談交じりではあるが発言することが多くなった。

以前のくぴぽでまず目に付くのはまきちゃんのパフォーマンスだったし、外から見たらまきちゃんのワンマングループという印象だった。
しかしおそらくまきちゃんの中にはずっと、今と同じく「メンバーのことをもっと見てほしい」という気持ちがあったはずで、奇しくもコロナ禍でメンバーが脚光を浴びる機会が訪れたわけであるが、今度は「まきちゃんが暴れてないから面白くない」などと言われて、精神的に摩耗していたのではないかと思う。

まきちゃんは、僕のような今のステージが楽しいファンの気持ちと、以前のくぴぽが好きなファンの気持ちを、たった1人で受けながら戦っていた。

時は流れ2020年12月、当時同じ事務所に所属していたグループが一堂に会する事務所主催のライブイベントがあった。

当時nuance、NaNoMoRaLらが所属するMINIMARING STUDIOと、代代代、くぴぽ、毒島大蛇、宇野祐生佳が所属するDEMON TAPESは業務提携のような形で活動していて、共通のファンクラブなどがあったりして、ほぼ同じ事務所といって良いものだった。

会場はnuanceのホームグラウンドである横浜の歴史あるダンスホール・クリフサイド。

「MINIMARISE」と名付けられたこのライブは、当時nuanceがよく行っていた企画「DUBRISE」になぞらえたもので、出演グループが1曲披露するごとに交代していくという、観ている方は楽しいが演者にとってはかなり大変な企画の大型バージョンだった。

僕にとっては好きなグループばかりだったし、今年好きになったくぴぽがどんなステージを披露するのか楽しみであった。
そして、ほぼ2年ぶりにステージを見る宇野祐生佳こと現・うのちゃんの参加も予定されており、ある種の緊張もあった。

くぴぽは2020年で培ってきたものを全て出した見事なステージを見せた。

「愛のDIVE、廃人DANCE」「PAINT PAIN 平成」などライブでお馴染みの沸き曲をぶつけながらも「夏が嫌い」では一気にメロウな空間を作り出し、ラスト曲前の「もう恋〜」では会場に風船を飛ばす演出もあり、立ち位置を弁えながらもしっかり楽曲も聴かせる、“今のくぴぽ”を感じさせるものだった。

うのちゃんの出番はくぴぽの出番と隣接しており、今思えば何らかの文脈を感じることもあるが、当時は興奮状態で観ていたのであまり覚えていない。

最後にそんなお祭りのようなライブがあり、ほとんどの活動が制限された前半に比べれば比較的ポジティブな雰囲気で2020年は終わった。
くぴぽはガチンコのライブで勝負していく、そうなっていくのだろうなと、僕は思っていた。

過 -2021年-

2021年になり、くぴぽは殆ど初の、ちゃんとした“生誕イベント”というものを行った。
しかもまきちゃんとひめちゃんの合同お誕生日会ということで、大阪と東京で1回ずつワンマンを行うという豪華さである。

元々まきちゃんがアイドルの生誕イベントというものに懐疑的で(生誕イベントに懐疑的ってなんなんだ)、くぴぽではこれまでまきちゃんの誕生日に絡めた“ネタ”としてしか生誕イベントをやってこなかったが、前年に自主企画「私立くぴぽ学園」で積み上げてきたものがここに実ったという感じだった。

コロナ禍は続き、まだ多くの制限がある中でのライブとはいえ、コントも交えたくぴぽらしいワンマンでフロアを沸かせ、新曲も披露。
ここからメンバーの生誕イベントは恒例となっていく。

2021年2月、突如くぴぽは“SNSオーディション”なるものを開始する。
全く予告なく始まった為、最初はオタク内でも戸惑いの声が上がった。
前年のメンバーチェンジから約半年、まき・ひめ・なだれ・あむの4人のくぴぽがしっくりき始めていた頃だっただけに、新メンバーの必要性や時期尚早では?という印象は拭えなかった。

当時この辺りはほぼ説明されることはなかったが、その後のまきちゃんの言を読み解くに、元々多人数のメンバー構成の構想はあったと思われる。
それにプラスして、後の4月に発表されるひめちゃんの卒業の話がおそらく内々では既に出ており、補強の面もあったことだろう。

SNSオーディションということで、候補者は顔出しでTwitterのアカウントを運用し、オタクとの交流やダンス・歌の動画を発信していく形で進んでいった。
オーディションの期限や審査方法などは公表されていなかったが、アイドルを目指す(しかもくぴぽを)子たちが頑張ろうとしている姿にオタクも温かい声援を送った。

このとき参加していたのがまことちゃん(2021年7月〜2022年9月在籍)、ちあきちゃん(2022年3月〜)、しゅりちゃん(2021年7月〜)であり、現在のくぴぽに続く布石が既に打たれていたわけであるが、このときは誰も(まきちゃんでさえも)その事には気づいていなかっただろう。

3人はオーディション参加中にくぴぽの物販にスタッフとして帯同し、オタクとも実際に交流するなど、なかなか実験的なオーディションが3ヶ月弱続いた。

オーディションは当初5人の候補者がいたが、最初の2人は早々に辞退。
ちあきちゃんも途中で辞退を表明し、今後はスタッフとして関わっていくと発表。
最終的にまことちゃんとしゅりちゃんが残ることとなり、後に2人はメンバーとなる。

しかしその前に書かねばならないのは、2人のメンバーの卒業発表だ。

2021年4月にひめちゃんが卒業を発表。
3年間在籍し個性的な歌声と強烈なキャラクターでくぴぽを彩った彼女だったが、会社員として働きながら遠征の多いアイドル活動をするというハードなダブルワークをこなしていたのも周知の事実で、残念ではあるが休息が必要であることも十分理解できた。

続く2021年5月にはなだれちゃんが卒業を発表。
僕がくぴぽに出会ってから9ヶ月、彼女の歌やダンス、キュートさに惚れこみ推しとして応援していただけに、この報はショックだった。
だが、彼女の精神面の不調はもはやオタク側も察するほどであったので、彼女のことを思えば、まず何よりも心と身体を守ることを優先してほしいという気持ちが大きかった。
周りのオタクにもご心配いただいて優しさが身に染みた。(みんなが卒業発表をRTして「リトさん…」と呟いている謎のTLでした)

そんな中、嬉しいニュースもあった。
3rdアルバム「絶対結婚しような!!!!」の発売である。
年明けよりライブで披露されシングルとして発表されていた楽曲を含む11曲入りであり、既に卒業が決まった2人の歌声が入ったメモリアルなアルバムになった。
このアルバムについては当時ライナーノーツのようなものを勝手に書いたので、ご興味がありましたらご高覧ください。

アルバムに伴うリリースイベント、そして2人の卒業ライブと、悲喜こもごもありながらもたくさんのライブとイベントが発表された。

しかしここから、2021年はくぴぽにとって前年以上に受難の年となる。

2021年は断続的に緊急事態宣言が発令され、全てのライブやイベントは全く先の見えない状況で企画、開催せざるを得なくなった。

くぴぽのイベントも例外ではない。
まず、前年に続いて服部フェスの中止。
くぴぽを象徴する大型イベントになるはずであった服部フェスの2年連続開催中止はあまりに痛い出来事である。

そして前述したひめちゃんの卒業公演の延期。
こちらは当初6月に予定されていたが、7月のなだれちゃんの卒業公演と同日になった。

またその間のライブも相次ぐ中止と変更があり、まきちゃんやメンバーは当然だが、オタクも翻弄され続けた。

そして2021年6月、本来ならひめちゃんの卒業と共に発表されるはずだった新体制が発表される。

オーディション組からまことちゃん、しゅりちゃん、そして代代代卒業後ソロ活動をしていたうのちゃん(2021年8月〜)の加入である。

僕がくぴぽを知ったきっかけが代代代だったことは前述したが、うのちゃんも当然その頃に出会っており、その後ソロとしての活動も追いかけていたので、うのちゃんの加入は真の意味で青天の霹靂であった。

しかしまきちゃんとうのちゃんは代代代時代から数年来の仲であり、うのちゃんの代代代卒業後も心の内を話し合える存在であったというから、加入に驚きはしたものの、納得できた。

8月1日からのくぴぽがどのようになるか、本来であればワクワクするところであったが、現メンバーの卒業ライブすらも開催できるか危うい状況にあり、僕は心の整理がつかないままでいた。

くぴぽはアルバム「絶対結婚しような!!!!」のリリースツアーとして岡山、名古屋、高知、東京、そして大阪で2回のライブを発表した。
この内、ひめちゃんの卒業公演であった大阪のワンマンは開催延期となってしまったが、その他は無事に開催。特にひめちゃんの地元・岡山で、なだれちゃんの地元・高知でそれぞれ凱旋公演を行うことことができたのは良かった。

ひめちゃんの卒業公演が延期になったことにより、このツアーのメンバー編成はかなり特殊なものとなり、理由や詳細は省くが(というか今でも整理しないと説明できない)、岡山と東京ワンマンではまき・ひめ・なだれ・あむの4人、名古屋と高知ではまき・なだれ・あむ・しゅり・まことの5人、ツアーファイナル大阪はまき・あむ・まこと・しゅり・うのの5人というメンバーで公演が行われた。

ひめちゃんとなだれちゃんの卒業公演となった2021年7月24日新宿LOFTでの東京ワンマンは、制限がある中でも多くの人が訪れ、最後まで全力の、魂を燃やすかのような4人のパフォーマンスを見守った。

推しの卒業公演というものをあまりちゃんと経験してこなかった(向き合ってこなかったとも言える)僕は大いに泣いた。
翌日にアルバムの購入特典イベントが控えており、まだ会える最後の機会ではなかったので、なだれちゃんの前ではいつも通りのヘラヘラで貫き通した。

翌7月25日。
ドラマやMVなどでもロケ地に使われる都内某所の教会型スタジオ(本当に教会なのか?いまいち分からない)で、アルバム購入特典会が行われた。
アルバム「絶対結婚しような!!!!」の、教会で行われる特典会ということで、お察しの方もおられると思うが、そう、メンバーとの結婚式である。

本来ならかなりふざけたイベントであるが、ひめちゃんとなだれちゃんがくぴぽのメンバーとして参加するイベントはこれが最後であった。
パーテーションやマスク着用などのルールはあったが、新郎新婦それぞれの入場や誓いの言葉、指輪の交換などリアルな構成に則った式で、他のオタクの結婚式に大いに泣き、笑い、自分の結婚式ではやたら緊張し、非常に楽しいイベントだった。
最後のチェキ会も笑顔の絶えないものとなり、結局僕は泣かずに済んだ。

なだれちゃんとはまたね、と別れた。
生きていればまたどこかで会える。
今でもそう思っている。

2021年8月1日、大阪阿部野ロックタウンにて「絶対結婚しような!!!!」ツアーファイナル公演が行われた。
この日から新体制、まきちゃん、あむちゃん、まことちゃん、しゅりちゃん、うのちゃんの5人がくぴぽとなった。

ついにくぴぽはまきちゃんを除くとコロナ禍以後に加入したメンバーで構成されることとなり、このツアーファイナルは2020年までのくぴぽと2021年以降のくぴぽの分水嶺といえるライブになった。

2週間ほどして僕も新体制のライブを観た。
新体制でのライブは驚くほど違和感がなかったが、いや、違和感がないというよりは、やはりこれまでとは完全に別物といった印象の方が先に来ていたのだと今にして思う。

くぴぽに出会ってほんの1年弱の僕ですらそう思ったのだから、前からのくぴぽのオタクはもっとそう感じたに違いない。

前章でも書いたステージ上でシリアスにパフォーマンスを完結させるくぴぽのライブスタイルはもはや完全に定着した。

こうして、少しずつ、以前を知るオタクたちは離れていった。

僕はといえば、どうだっただろうか。
その頃書いたnoteが残っているが、この時の気持ちはあまり思い出せない。
あまりに情緒的で恥ずかしいが、記録なので載せておく。

9月頃までは、くぴぽから離れる気持ちでいた気がする。オタクは所詮趣味なのだから、そんなのは個人の勝手だ。
しかし、上のnoteにも書いたように、この子たちの行く末を見たいという気持ちが僕を留まらせた。あれから2年以上経ち、去ったメンバーもいるが、その気持ちは変わらずある。

2021年の後半は、5人体制を固めるという感じで、あまり派手な動きはなかった。
コロナ禍が終わったわけではなかったが、緊急事態宣言時に比べれば普通に予定通りライブができるというだけで御の字だった。

11月ギュウ農フェスへの出演の際、まきちゃんは以前使っていたビニールボールに乗りながら歌うパフォーマンスをした。
その時ボールはもはやボロボロで、おそらくこれ以降はもう使っていない(捨てたのかな)
あれは迷いのあった頃のライブスタイルとの決別だったのかもしれない。

くぴぽにとって受難の2021年はこうして終わりを…迎えなかった。

2021年11月、ギュウ農フェスが終わってほどなくして、あむちゃんの卒業が発表された。

くぴぽでのアイドル活動と自身のやりたい活動との乖離があり、卒業して新たな活動にチャレンジしたいということだった。
卒業公演は2月。
理由を聞くにポジティブな卒業であったし、お別れを言う余裕は十分にあったが、それでも5人になったくぴぽがたった半年で終わってしまうのか…と寂しい気持ちになった。
特にあむちゃんは、僕がくぴぽを好きになった時と同時期に入ったメンバーだったので、それまで幾多の荒波を共に乗り越えた戦友のような、不思議な連帯感を感じていたのだ。

そして再び、SNSオーディションが始まった。
参加者の最初の1人はなんと一度オーディションを辞退した後スタッフとして関わっていた、ちあきちゃんだった。

最初の1人と書いたが、結果から言うと、このオーディションの参加者はちあきちゃんだけだった。

前回は最後に残った2人がメンバーになった。
そうなればもはやメンバーになるのは決まったようなもの、と思っていいところだが、ちあきちゃんは歌やダンス動画のアップに加え、毎日5km走ることを自分に課したり、相変わらずスタッフとしてライブに参加するなど、オーディション期間中自分に対して一切甘さを見せないストイックさを見せた。

それは決して「こんなに自分に厳しくしてますよ」という対外的なパフォーマンスではなく、一度は自らの意思で諦めてしまったアイドルにもう一度挑戦する者のけじめとして、自分の心に区切りをつけるためにやっているようだった。

少し先に、その努力は結実することとなる。

天 -2022年-

2022年1月、年明け早々にまきちゃんの生誕イベントが開催された。
土日の2日連続、しかも土曜は無料ワンマン、日曜は昼夜2公演といきなりのフルスロットルだった。
いずれの公演も東京・西永福JAMでの公演だったが、僕も含め、東京でのファンが増えてきている手ごたえを感じ始めていた頃かもしれない。
僕の体感ではあるが、この頃から少しずつ女性ファンが増えてきたように思う。

そして1月後半、くぴぽは突如これまでの楽曲を現メンバーでリレコーディングするEP「再録EP」の発売を発表。
しかも再録の企画は1枚で終わりではなく、4曲入りのEPを5枚、2022年中に発売することも同時に発表された。

概要だけではあるものの、かなり先までのリリース情報を事前に告知するのはくぴぽとしては珍しい。
2月にあむちゃんの卒業が決まっているが、それでも歩みを止めないという決意表明にも見えた。

この「再録EP」のレコーディングの様子はまきちゃんのツイキャスでたびたび実況中継され、音声のみではあったがレコーディング時のエンジニア(録音は主に星ひでき氏、タカユキカトー氏のスタジオで行われた)とのやりとり、まきちゃんのディレクションの様子など窺い知ることができ、非常に興味深い内容だった。

1月の末には昨年末からSNSオーディションに参加していたちあきちゃんがあむちゃん卒業後の3月から正式メンバーとして合流することを発表。
EPの件もそうだが、こうした常に先んじた発表の仕方から、2022年のくぴぽの印象はとにかく立ち止まらず、進み続ける、というポジティブな力強さを感じた。

2月20日、大阪・アメリカ村BEYONDにおいて、昼夜2回のあむちゃん卒業公演が行われた。
それぞれワンマンではなく対バンイベントで、くぴぽの盟友ともいえるグループが多く出演した。
当時出演したステラシュガレット、the mishmash、340.29m/sらは現在(※2023年12月執筆時)は既に活動を終了しており、寂しさも感じる。

コロナ禍の厳しい時期を煌びやかなルックスと高いパフォーマンス力で支え、くぴぽをシリアスなパフォーマンスで魅せるグループへと変えていった功労者あむちゃんには感謝してもしきれない。

3月に入り、ちあきちゃんが加入。
当初は衣装の制作が間に合っておらず、「ちあき」の文字がプリントされたTシャツとジャージ姿でのステージだったが、まるで数年来のメンバーのような素晴らしいパフォーマンスとステージングを披露してフロアを沸かせた。
ちあきちゃんがダンスや歌、そして自分に課した試練など、それまで積み上げてきたものを見ているファンにとっては納得のパフォーマンスだった。
また、ひとりTシャツ姿という一見ヴィジュアル的にマイナスな面も、今後メンバーのネーム入りTシャツが制作されるということを仄めかすプロモーションとして作用していた。
逆にちあきちゃんに合わせてメンバー全員がジャージでライブをするなどのレアなライブも行われた。

2022年4月、三度目の正直となる服部フェスがついに開催された。

全3日間、アイドルだけでなくバンドやラッパーなど、音楽性や形態などにとらわれない多彩なラインナップがひしめきあう、くぴぽらしい、くぴぽにしかできないカラフルなフェスとなった。

まきちゃん・まことちゃん・しゅりちゃん・うのちゃん、そして衣装が完成したちあきちゃんの5人は、主催として3日間のフェス(うち2日間は服部緑地野外音楽堂での野外ライブ)をやりきった。

ただ自分たちがライブだけをするのではなく、主催としてフェスを行うというのは相当なプレッシャーもあったと思うが、5人の得たものは大きかっただろう。
しかし後にまきちゃんも述懐しているが、集客やオペレーションの面では大成功とは言い難く、翌年以降の開催へ課題も残った。

2022年4月は、もう一つターニングポイントとなったライブがあった。
90年代ヴィジュアル系リヴァイバルバンド「色々な十字架」とのツーマンライブ「綺羅綺羅」である。
アイドルでもなく、普通のバンドとでもない異色のツーマンだが、色々な十字架にはくぴぽの楽曲制作やレコーディングのエンジニアを務めるタカユキカトー氏がギターのkikato様として所属していることや、ボーカルのtink様ことティンカーベル初野氏の独特の世界観による歌詞や楽曲がくぴぽのシリアスさとコミカルさを表裏一体で併せ持つ二面性と呼応しており、相性はとても良かったように感じる。この出会いがきっかけで、後にティンカーベル初野氏からの提供曲「September Pool」が生まれることになる。

このツーマンライブ自体が大成功だったのはもちろんだが、どちらのファン層にも根底で繋がる部分があったのだろう。このツーマンからくぴぽに通い始めたというファン、色々な十字架に通い始めたというファンは僕の周りではとても多い。

この辺りからくぴぽのファン層に変化が出始め、アイドルオタク以外のバンド系のファンや、新たな女性ファンが多く見受けられるようになる。

これについては、少し文字数を割いて述べたい。

僕もいわゆる“地下アイドルのオタク”として数年過ごしてきたので経験則から言わせてもらえば、基本的に地下アイドルのオタクは「主現場」と呼ばれる自分の一番好きなグループを軸に、「界隈」と呼ばれる、音楽性が近くイベントなどでよく一緒になるグループ、仲の良いグループのライブに通うのが常である。
従って、現在星の数ほど地下アイドルグループは存在するが、ほとんどのオタクはその「界隈」から出ることはなく、推しの卒業や主現場の解散などによって少しずつその「界隈」を移動していくだけである。
事実、僕もくぴぽを知ったのは同じ事務所だった代代代がきっかけだ。
そうなると、一つの「界隈」にいるオタクの母数というのは限られてくる。
活動の維持、拡大にはファン層を拡大していくことが不可欠であるが、地下アイドルはいい意味でも悪い意味でも顔ぶれが変わらない「界隈」にとらわれてしまうため、ほとんどがそのまま活動を終える。

そのことから、「界隈」にとらわれない新たなファン層がどれだけ大事かお分かりかと思う。
特異な例ではあるが、元々は限られた「界隈」で活動していたBiSHや元ゆるめるモ!のあのちゃんなどが活動の幅や規模が著しく大きくなったのはそういった地下アイドルオタクではないまだ見ぬファン層に見つかったからだと言える。

くぴぽの場合、そこまでのブレイクスルーがあったかというと2023年の今ではまだ感じ取れてはいないが、しかし、僕の体感としていわゆる「界隈」の外のファンというのは確実に増えてきており、くぴぽの楽曲、ライブの楽しさや面白さが今以上に外に伝わっていけば必ず面白いことになると思っている。

閑話休題。

服部フェス後は前述した再録EPの発売がコンスタントにあり、音源の発表が活発であるというのは対外的なイメージも良く、くぴぽは順調に歩みを進める、かに思われた。

2022年6月、まことちゃんの一時活動休止が発表される。 
前メンバーのひめちゃんと同じく、仕事をしながらくぴぽの活動を続けていたまことちゃんであったが、健康面精神面でかなりの疲労が溜まっていたと思われる。
まことちゃんはその後も東京でのライブにはいくつか出演していたが、7月に卒業を発表。
卒業公演は9月に行われることになった。

コロナ禍のダメージは大きく、2年をかけじわじわと地下アイドル界を蝕み、2022年も多くのアイドルが解散していった。
僕を地下アイドルの世界へ引きずり込んだヤなことそっとミュートも2022年6月に活動を休止している。
くぴぽは2020年から歩みを止めることはなかったが、メンバーは入れ替わり続けた。
去る側も残る側も、常に人生の選択をし続けねばならない、辛い時期は続いていた。

9月、まことちゃんの卒業公演は西永福JAMで行われた。
まことちゃんに縁のあるグループ、まことちゃんが好きなグループが集められた昼夜2公演の対バンイベントであった。

まことちゃん卒業に際し僕が書いたnoteはこちら。

まことちゃんはくぴぽらしくなくて、くぴぽらしい子だった。
今のくぴぽの雰囲気の元となるもの、特にまきちゃんが以前と比べて柔らかくなったのは彼女と接した時間によるものも多分にあると僕は思う。

2022年9月、くぴぽはまきちゃん・しゅりちゃん・うのちゃん・ちあきちゃんの4人になった。
コロナ禍に翻弄され入れ替わり続けたメンバーのラインナップは、ここから1年と3ヶ月続くことになる。

2022年10月23日には、うのちゃんの2回目の生誕イベントがあった。
推しが卒業しても好きなグループだから通い続ける、というのもオタクとして一つの道ではあるが、僕はあらゆるタイミングと運命を信じて、うのちゃんを推していこうと決めた。
そして迎えた生誕については、たくさんの胸に迫る出来事があり、このnoteとも内容は被るのですが、詳しくは以下に書いています。

2022年11月、それまでの数ヶ月で再録EP全5枚という十分にボリューミーな音源を発表してきたくぴぽだが、ここで披露済みの新曲と未発表の新曲が収録されたEP「水槽が割れた」を発表する。

これは2022年4人体制での初の音源となり、またそれまでライブで披露されてきた楽曲が音源化されるということで大きな期待が寄せられた。
「水槽が割れた」は音楽性の全く違う5曲を収録しており、今後のくぴぽの方向性を示唆するものであった。

そしてEPの余韻に浸る間もなく、間髪入れずすぐに次の一手が打たれる。
2023年初頭に「水槽が割れた」収録曲を含むフルアルバムを発売することが発表されたのである。

くぴぽの驚異的なところは、メンバーが入れ替わりながらも年に1枚はアルバムを発表しているところだ。
これをバンドに置き換えても割と早い頻度だが、こと地下アイドル界においてはライブ活動が何よりも優先され、ちゃんと録音された音源が発表されることは少なく、そもそも新曲が発表されること自体が年に1,2度というのも珍しくはない。
活動中に一度も音源が出ないまま解散するアイドルも多くいる。
これは多くのバンドと違いアイドルの音源の制作には外部の協力を仰がないといけないことが殆どのため、そこに時間と予算を割かねばならないわけで、運営面でも、またメンバーにとっても大変な負担だ。

この辺りにはプロデューサーであるまきちゃんの音楽への深い愛、もっと言うなら呪いのようなものが感じられる。

これは僕の想像でしかないが、だが、恐らくは僕が過ごしてきた人生と同じように、音楽に救われ、音楽に翻弄され、それでも決して自分を裏切ることなくそばにいてくれる音楽というものに対しての愛と執着が、まきちゃんを動かしているのではないかということだ。

要は、まきちゃんという人は、音楽を作り続けること、表現をし続けること、そして今は、仲間たちをアイドルとして輝かせること、それが目標というよりは、もはや生きることそのものになっているのではないかということだ。
本人はどう思っているか分からないし、そもそも本人に自覚があるのかもわからないが、僕はそう思う。

まきちゃんはよく言う。
「アイドルをやめたいと思ったことはたくさんあるけど、やめ方がわからないし、やめたとしてもどう生きていったらいいかわからない」

そんなアルバムへ向けて裏では準備が進んでいるであろう中、平穏無事に2022年のライブ活動が終了する…かと思いきや、最後の最後にまきちゃんとしゅりちゃんがダウン。

2022年最後のくぴぽの東京ライブは、うのちゃんが一人で遠征し、ちあきちゃんとの二人体制で行うことになってしまったが、2人はこれまで培ってきた地力で見事にこなし、逆にレアなライブとして印象に残った。

アクシデント続きではあったがそれもまたくぴぽらしさであり、アルバム発売という希望を残しながら、2022年は締めくくられた。

晴 -2023年-

くぴぽの2023年は例年通り三が日過ぎまでお休み、一週目の半ばからまきちゃんの生誕イベントなどで活動がスタートしたが、1月の後半には年末の遅れを取り戻すかのような怒涛の告知が放たれた。

4thアルバム「WATER」のタイトル発表とともに、2月中に大阪、三重、福岡、東京を回るツアーも発表。
しかし、アルバムのリリース日は告知されず、アルバムがリリースされていないまま各地を回るという前代未聞のリリースツアーとなった。

これは年末のまきちゃんのダウンによりレコーディングなどの制作スケジュールが年頭にずれ込んだため、ツアー前~中にアルバムを完成させることができなかったためであるが、「アルバムのリリースツアーなのにツアー中にアルバムが出ない」という突っ込みどころのあるくぴぽらしさと、各地でそれぞれが楽器を持ちエアバンドで(実際の演奏はせず)パフォーマンスを披露する企画や、CDケースとブックレットのみの肝心のCDが入っていない“エアアルバム”を発売するなど、まさに“エア”リリースツアーであり、逆境を逆手にとった洒落たツアー名であった。

先程も書いたが、ツアーは2月中に全て消化する日程になっており、かなり忙しないが、この裏でメンバーはアルバムのレコーディング作業と新曲の振り入れもしていたというのだから驚異的だ。
まきちゃんにいたってはその全てをディレクション、マネージメントしている上に遠征のドライバーまでやっているのだから、いつ死んでもおかしくないスケジュールだった。死ななくて良かった。

ここまで触れてこなかったが、まきちゃんが近年くぴぽの過密スケジュールをこなせている一因として、いずこねこ、夏の魔物などの活動で知られる泉茉里さん(現在はDISCOMPO with 泉茉里で活動)がここ数年マネージャーとして携わるようになったのが大きいと思う。
泉さんがいることでまきちゃんが全てこなしていたくぴぽに関する総務を分散することができ、まきちゃんはクリエイティブ面や演者としての活動に以前よりも注力できるようになったそうだ。
また、大阪において、東京において、それぞれの場所でスタッフもある程度固定され、安定したように思う。
それでも全ての決定権はまきちゃんにあり、責任もまきちゃんが負うのは変わらずなので、大変なのには違いないだろうが。

まきちゃんがギター、しゅりちゃんがベース、うのちゃんがキーボード、ちあきちゃんがドラムを担当するエアバンド形式のライブも好評で(YouTubeにはいくつか動画があるのでぜひ)、福岡ではゆるめるモ!やきのホ。とコラボしたり、三重はしゅりちゃんの凱旋公演となるなど、メモリアルなツアーとなった。

ツアーファイナル東京ではサプライズで新衣装を披露。
プロレスラーの衣装も制作されているタマキチヒロさんによるメンバーの個性をより強くよりカラフルにしながらも機能性が重視された素晴らしい衣装だ。

そしてツアー終了後の2023年3月8日についに4thアルバム「WATER」が発売された。

このアルバムの前作以上に幅広い作家陣による楽曲群はくぴぽというグループの変幻自在さをよく表している。
このアルバムについては前作同様ライナーノーツのようなものを書いたので、ご興味があればご高覧ください。

ツアーには間に合わなかったものの、リリースに伴いリリースイベントも開催され傑作アルバム「WATER」のセレブレーションは続いた。

そして2023年3月18日&19日には2回目となる服部フェスが開催。

前回同様ジャンルに垣根のない豪華な出演陣、そして前回の経験を活かしてXの公式アカウントの開設、フードの販売、クラウドファンディングを行うなど、多くの面で進化したフェスとなった。

前年9月に4人になったくぴぽは半年間にアルバムの制作、ツアー、アルバムの発売、主催フェスをこなし、チームとしてより強固なものになっていった。(これがたった半年弱で起きているのが恐ろしい)

5月にはアルバム「WATER」リリース記念ワンマン「『WATER』yatto chanto RELEASE siteno ONEMAN」が行われ、ツアー中にアルバムリリースできなかったことへのリベンジがなされた。
このワンマンライブがつとに素晴らしく、たくさんの経験を経てきたくぴぽの2023年前半の集大成とも呼べるライブだった。
その時書いたライブレポートはこちら。

このライブも含めて、くぴぽは2023年に全6回のワンマンライブを敢行した。

これまた元々まきちゃんがワンマンライブに懐疑的で(ワンマンライブに懐疑的ってなんなんだ)くぴぽはこれまで節目節目でしかワンマンライブをやって来なかったわけだが、4人のくぴぽが練度を高め長尺のワンマンをこなす体力と表現力を身につけたこと、ワンマンになら来る、という客層が存在することが2023年に定期的にワンマンを開催した主な理由と思われる。
特に後者は前年の項でも述べたが、いわゆる「界隈」外のファンが多くついてきたことの証左であり、ワンマンにしか来ない、というと聞こえが悪いが、くぴぽだけ観られるライブがあるなら行ってみたい、と考える層が厚くなってきたということでもあり、今後の活動にも大きく関わってくるのではないだろうか。

6月には沖縄遠征というレアな遠征ライブもあった。
沖縄では盟友であった代代代との共演や、共にオフ会(合同ではないが同会場)もあり、印象深い遠征となったが、後に代代代は8月に解散することを表明。
これが最後の共演となってしまったが、まきちゃんが長らくマネージャーを務め、うのちゃんの古巣でもあった代代代と最後に共演できたことは良かったと思う。

僕自身、くぴぽを知るきっかけが代代代であっただけに本当に寂しいものがあったが、これからも彼女たちの残してくれたものを大切にしていきたいと思う。
代代代の以前のライブ映像や主要な音源などは今でもYouTubeやサブスクで視聴可能なので、まだ代代代をご存知ない方はぜひご覧&お聴き下さい。

くぴぽは歩みを止めず、対バンイベントや主催イベントなど挟みつつ、8月にちあきちゃん、10月にうのちゃん、12月にしゅりちゃんの生誕イベントとしてワンマンライブを行う。

それぞれの生誕イベントでは、ちあきちゃんはDJ、うのちゃんは宇野祐生佳時代の楽曲を歌うソロ、しゅりちゃんはソロと寿々木ここねさん(SAKA-SAMA)、USABENIさん(宇佐蔵べに ex-あヴぁんだんど)とのコラボステージなど、それぞれの個性を生かしたステージを披露した。

それに加えて、毎回80分超のワンマンライブをしたのだから凄い。
これらは基本的には特別な演出等があるコンセプチュアルなライブではなく、「くぴぽのライブを長時間やる」というものであり、2023年に定番化したフロアライブなども含め、くぴぽのライブの“楽しい!”を濃縮して詰め込んだ素晴らしいワンマンライブであった。

10月22日に行われたうのちゃんの生誕ライブはうのちゃんの地元・滋賀で行われ、くぴぽ加入3年目にして満を持しての凱旋ライブとなった。
このライブについては僕もたくさんの思い入れと想い出があり、後日なぜか2本も記事を書いた。

思い入れ過多バージョン↓

一応、客観バージョン↓

2023年後半は音源リリースもしっかりあり、くぴぽの活動の活発さが窺い知れる。
先述したように、地下アイドルとしてはハイペースが過ぎるほどのリリースだ。

まずは10月のうの誕当日の0時にデジタル配信シングル「pomegranate」をサプライズでリリース。

元代代代のプロデューサー小倉ヲージ氏と久々のタッグを組んだ「闇鍋」、そして小倉氏の提供曲でライブでは披露される機会が減っていた「もう恋~」(長いので省略)のリアレンジバージョンという、古くからのファンにはたまらないシングルであった。

うの誕当日のステージでも上記2曲は披露され、当日は小倉氏もうのちゃんのソロステージにVJとして参加。ファンは胸を熱くした。

そして12月のしゅり誕では「しゃぼん玉ホリデー」「紫陽花と短冊」を現メンバーで再録したシングル「orange」を、なんと7インチレコードでリリース。

レコードファンであるしゅりちゃんの「くぴぽのレコードを出したい」という夢が叶うこととなった。
こちらは再録に当たり歌割に合わせて歌詞の変更がされるなど、より“今のくぴぽ”を意識させる内容となっている。

少し時間を戻すが、しゅり誕の前に非常に大きな発表があった。

2024年、くぴぽは新メンバーを加え新体制になるという発表である。

新メンバーはあやぴぃちゃん(2024年1月~)、むぎこちゃん(2024年1月~)の2名。
あやぴぃちゃんは既にアイドルとしてのキャリアがあり、自身のYouTubeチャンネルを持つなど確立されたキャラクターがあり、むぎこちゃんはこれが初のキャリア、地下アイドルの世界もほぼ知らずに飛び込んできたという度胸の持ち主で、そんなある意味正反対の出自を持つ新メンバーが加わり、くぴぽはまきちゃん・しゅりちゃん・うのちゃん・ちあきちゃん・あやぴぃちゃん・むぎこちゃんの6人体制となる。

これまではSNSオーディションを行っていたくぴぽだったが、事前にファンとの交流で参加者の性格やコミュニケーションの技量が知れたり、加入前にファンに愛着を湧かせるというメリットはあるものの、参加者がSNSをすることに注力しすぎてしまい、歌やダンスなどのパフォーマンス面の練習や審査がおろそかになってしまうという懸念がまきちゃんの中であり、従来通りのオーディションに切り替えたという。
実際、2022年後半~2023年初頭にもSNSオーディションは行われていたが、この時は該当者なしで終わっている。

そのような訳で、今回はオーディションをしていること自体は明言されていたが、中間発表などはなく、2人の加入が決定してからの発表となった。

この6人体制は、2024年1月8日のまきちゃんの生誕ライブでお披露目された。

- 2024年2月追記 -
この一週間後の1月16日に僕も新体制を見た。
それについては以下の記事に書いているので、興味のある方はご高覧ください。

これまでと、これから -あとがき-

現在は2023年12月半ば、ここまで約2万字をかけて、僕がくぴぽと出会ってから今までを書いてきた。

あくまで僕が見たものを、想像や推論も交えて書いてきたので、事実と異なる部分はあると思うし、他の人が見てきたものとは違うだろう。
当事者であるメンバーたちがその時本当は何を考えていたのかも、もちろん知る由もない。
いつか、他のオタクが思っていること、メンバーが思っている(思っていたこと)などを聞いたり、文章として読める機会があったら嬉しい。
まぁ、そういうことは知らぬが花ではあるが。

僕自身、ここまでくぴぽのことを好きになって、活動を追いかけ、何本もの文章をnoteに書くことになるとは思ってもいなかった。
今まで8年近く地下アイドルのオタクをしてきたが、こういうことをやるようになったのはくぴぽに出会ってからだ。

くぴぽには他のアイドルとは違う、何か僕の心の根源のようなものに訴えるものがあるんだろうな、と思っている。
これだけ文章を書いていながら、まだそれを言語化できてはいないが。

これからも、僕はくぴぽの行く先を見ていたい。
くぴぽは、これまでのメンバー、今のメンバー、そして新メンバー、彼女たちの生き様そのものだと思うから。

つづく

- 2024年2月追記 -
K's CINEMA 『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』紹介ページ

3月2日(土)~8日(金)限定公開。
公開期間中は毎回まきちゃん+ゲストが上映後に登壇予定。

無料公開『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』冒頭映像


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