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くぴぽ「WATER」のライナーノーツのようなもの

最初に

2023年3月8日。
僕が追いかけているアイドルくぴぽがニューアルバムを発売したので、またライナーノーツのようなものを書いてみることにする。

前作「絶対結婚しような!!!!」が発表された際も、オタクとしての観点からnoteを書いた。

このアルバムはサウンドとしては明るいもの、勢いのあるものが多く、まきちゃん以外の方が作詞された曲も半数あり、普遍的なテーマや共感を得やすいテーマを扱っているため、わかりやすく、そして聴いていて多幸感を感じられる内容だ。
実際、この1年で「このアルバムの曲を聴いて新たにファンになった」という人は、僕の周りにも本当に多い。
ただ、アルバム発表時のくぴぽを取り巻く状況はといえば決してポジティブ一辺倒とは言い難く、アルバム発表の翌月にメンバーが2人卒業しているし、その後もメンバーの加入・卒業があり、2023年3月現在、このアルバムの収録に参加したメンバーはまきちゃんしか残っていない。しかしながら、現メンバーはこのアルバムのポジティブなパワーを受け継ぎ、力強く活動していく。

2022年に入り、過去の楽曲を再録したEPを定期的に発表し、楽曲への解釈を深めパフォーマンス力を高めていったくぴぽは、本作にも収録されている新曲5曲で構成されたEP「水槽が割れた」を2022年末に発表し、2023年初頭にニューアルバムを発売することを発表する。

こうして発表されたアルバム「WATER」だが、前作から1年半が経ち、まきちゃん・うの・しゅり・ちあきという4人編成になった今のくぴぽは非常に強力なケミストリーで結ばれており、新曲の歌唱に関してもそれぞれの個性を発揮しながらも、「くぴぽ」として筋の通ったものが出来上がっていると感じる。

まきちゃんは前作に対して「明るすぎた」「ポップすぎた」という印象を抱いているという話をよくしていた。
その反動からか、今作はまきちゃん作詞(または共作詞)の楽曲の割合がぐんと増え、非常に内省的、私小説的であり、他者や外の世界に救いを求めるような歌はあまりなく、自己の中に救いを見出す、または救いがないと思えるようなものが多い。

各種サブスクは以下のリンクより聴くことができるので、未聴の方はこのnoteはいったん閉じて、まずは聴いてみていただきたい。

1.GOODBYE IDOL

アルバム1曲目は発表時からその歌詞の内容が衝撃的だった「GOODBYE IDOL」。
サウンドとしてはスピード感のあるギターロックで非常にポップだが、地下アイドルの現実と苦悩をリアルに表現した歌詞で、いきなり救いのない内容であり、これから始まるアルバムへの色んな意味での期待感を高めてくれる。
個人的には、「ダメな人間がダメなまま終わっていく(生きていく)」感じに筋肉少女帯(大槻ケンヂ)的なフレーバーを感じた。

2.Cool!Peace!Pop!

続く「Cool!Peace!Pop!」は数多くのアイドル楽曲を手がける佐々木喫茶氏の手によるもの。00年〜10年代に流行した電波ソングのような掴みどころのない歌詞と忙しなく詰め込まれたメロディに翻弄されながらも、ひたすらキャッチーでコールアンドレスポンスなども盛り込まれた楽しい楽曲だ。
中盤、半分のテンポでサビが歌われるパートがあるが、ここで改めてメロディの良さにはっとさせられ、氏のメロディメーカーとしての才が伺える。

3.September Pool

3曲目「September Pool」はティンカーベル初野氏による楽曲。
くぴぽと初野氏の縁は2022年4月に行われた、くぴぽ×色々な十字架(初野氏がフロントマンを務める90年代ヴィジュアル系リバイバルバンド)という異色の対バンから始まり、10月には初野氏ソロでも共演、色々な十字架の大阪ワンマンへのくぴぽのゲスト参加など、傍から見ても親交が深まっていった様子が伺えたし、この共作は待望だった。
この曲については初野氏本人がライナーノーツを書かれており、そちらも参照いただきたい。

初野氏のライナーからもわかるが「アイドルらしい楽曲を」という当初の初野氏の考えと、「ティンカーベル初野らしい楽曲を」というまきちゃんの思惑がぶつかり合い、異質すぎる歌詞が出来あがっているのが本当に面白い。
初野氏本人が立ち会い、細かいところまでディレクションされた歌唱にもこだわりが表れており素晴らしい。

4.はつ恋ランデブー

「はつ恋ランデブー」はmekakushe氏による楽曲で、突出したポップセンスで紡がれたメロディを普段よりもやや低めのキーで歌うメンバーが特徴的だ。
何故低めのキーなのかというと、まきちゃんがメインで歌うことを想定されて制作された楽曲だからである。

まきちゃんのnoteを読み込んで落とし込まれたという歌詞はとても感じ入るものがあるし、まきちゃんという存在を他者の視点から解釈して書かれた歌詞をまきちゃんが歌うというこの構図が非常にエモーショナルである。
また、この2年でシャウトなど飛び道具的ではない「まきちゃんの歌」のファンが非常に増え(僕もその一人だ)、多くのまきちゃん推しがまきちゃんメインの楽曲を期待していたと思うので、それに応えてくれたのも嬉しい。
本人はいつも謙遜というか自虐気味に「まきちゃんいらんやろ」と言っているが、まきちゃんの歌は要るんだよ、くぴぽに。

5.走馬灯

5曲目「走馬灯」は、まきちゃんと猫まみれ太郎氏の共作で、まきちゃんと付き合いが長く、時にはヘルプでくぴぽのスタッフもしてくれている太郎氏なので、相性も良く、非常にクオリティの高い楽曲になっている。
都会的だが湿り気のある質感のトラックやメロディは完全に氏の楽曲という感じだが、そこにまきちゃんらしい諦観を含んだような歌詞が乗り、独特の世界観を醸し出しており、個人的にはとても好きな曲。こういう恋愛っぽい?テーマは珍しいかもしれない。

6.波紋

6曲目は「波紋」。
EP「水槽が割れた」にも収録されており既にライブでもかなりの回数披露されてきたヒダカトオル氏(THE STARBEMS, ex-BEAT CRUSADERS)の手による楽曲。
ヒダカ氏のバンドのようなノリの良いパンキッシュな楽曲かと思いきや、巧みに作られたアイドルポップスという印象でいい意味で裏切られる。
EPのときには独立した楽曲だったが、歌詞を読むと一つ前の「走馬灯」と関連するワード(「雨」や「傘」など)が散りばめられており、一つのストーリーを別の視点から描いたものなのかなという気がする。
「走馬灯」よりは幾分か希望が見える歌詞だが、「走馬灯」があることにより、背後に見え隠れする寂しさのようなものも感じられる。

7.fish

続く7曲目「fish」。
こちらも披露されてからアルバム収録までに約1年あり、ライブでは定番曲となっているが、くぴぽとしても、アイドル楽曲としてもかなりの異色作だ。
5拍子を主体としたリズムと低音にフォーカスした不穏なシンセなどトライバルな雰囲気もあるこの曲は、星ひでき氏の作曲。
より深く、内に閉じていくような歌詞世界もまた異彩を放っている。

8.首輪 Lighting DOG

8曲目「首輪 Lighting DOG」もまた星ひでき氏による楽曲で、まきちゃんの自身への皮肉や世間へのカウンターを歌った歌詞が印象的で、この曲と「GOODBYE IDOL」、「カルピコの夢」には強い繋がりを感じる。
楽曲的にも実験性が高く、ピアノロック的な要素を基本にしながら異ジャンルに次々と飛んでいく雑多な展開ながらもメロディは非常にポップで面白い。
大量に用意された既製品の個性の中からいくつか選べば手早く「何者かになれる」この時代に、自己を探求することで「何者かになる」ことに固執し続ける自分への皮肉と、それを歌詞にすることで逆説的に自分の可能性を信じているという歌詞がまきちゃんらしく、大好きだ。

9.カルピコの夢

9曲目は「カルピコの夢」。
これも星ひでき×まきちゃんによる曲だ。
「首輪 Lighting DOG」がまきちゃん自身に向けての歌という事であれば、こちらはメンバーに向けての歌と言ってもいいかもしれない。
ピアノロックによるダンサブルな曲調は一時期の地下アイドル界隈で流行したスタイルを想起させ、それ自体が地下アイドル界への皮肉になっているという構造が面白い。
アイドルとして生きている主人公が「個性」とはなんなのか、自由すぎる世界で何をしたら「自分」が獲得できるのかともがいている内容だが、「好きの原液を割って飲め」という一文に集約されるように、自分が他者や物、事象に抱いている強い「好き」という気持ちを外の世界と馴染ませていくことで生まれるのが個性なのではないか、と僕は受け取った。

10.フルーツの栞

10曲目「フルーツの栞」。
Iguchi winter氏による楽曲で、アルバムの中で随一のストレートで優しい雰囲気を持つ楽曲だ。
寄り添うようなやさしさと祈りのような歌詞が印象的だが、曲中繰り返される
「100年経ったら忘れてね」
「100年経っても覚えてて」
のフレーズが、そばにいながらも別離を迎えてしまったかのような、やはりどこか「終わり」を想起させ、もの悲しさもある。

11.QPPON QUEST~海底のお姫様~

「QPPON QUEST~海底のお姫様~」は洗脳ミームのプロデュースを手掛けていたマモル氏による楽曲。
マモル氏はまきちゃんプロデュースのグループ「鳥 VERY BIRD」にも楽曲提供しているが、そちらもこの曲もチップチューン的なサウンドでおもちゃ箱をひっくり返したようなファンタジックかつ楽しい楽曲になっている。
そんな楽曲の上に、タイトルが表すようにRPGをパロディ化したような歌詞が乗るが、やはりこのアルバムの曲と言うべきか、進む先はハッピーエンドではなく、徐々に目的と意義を失い力尽きていく主人公の姿が描かれており、アルバム中でもはっきりとしたバッドエンドを迎えている曲である。
次の「恋」が少し特殊な立ち位置なので、「恋」をエクストラトラック的なものと考えるならば、アルバム「WATER」のエンディングをこういう形で迎えさせたまきちゃんに恐ろしさを感じる。

12.恋 (2023 ver.)

ラストはまきちゃんが初めて作詞作曲したというオリジナル曲を盟友タカユキカトー氏がアレンジした「恋」。
若き日のまきちゃん(今も9歳なので若いですが)が初めて作った曲という先入観もあるかもしれないが、ひたすらに青臭く、衝動的に作ったであろうメロディと歌詞に心をくすぐられ、否が応でも聴き手のそれぞれの青春時代の想い出へと没入させられてしまうのではないだろうか。
エモーショナルなまきちゃんの歌詞は、誰しもが通り過ぎたであろう初恋や叶わなかった恋の記憶に訴えかけてくる。
まきちゃんの言葉には本当に力があると感じさせられる曲だ。

終わりに

ここまで長々と感想を書いてきてしまったが、これはあくまで僕が「WATER」から受け取ったもの、感じたものであり、このアルバムが持つ感情や煌めきや闇は、きっと聴いた人間一人ひとりの心に訴えかけるものがあるのだろうと思う。
「WATER」…「水」という本来無色透明なものをテーマとしながらも、あまりにも複雑な色彩を描き出す本作は、アカダチアキ氏がデザインされたジャケットに如実に表れている。

楽曲、歌詞、アートワーク、メンバーのパフォーマンスにいたるまで、すべてがコンセプチュアルでありながら、同時に万人へ向けたアイドルポップスであるという矜持も忘れない本作は、僕にとって、そして多くの人にとって忘れられないアルバムになるだろう。

あとがき

このnoteをアップしたのは2023年3月15日の水曜日なのですが、この週末3月18日~19日にくぴぽ主催のフェス「服部フェス」が開催されます。(開催後に読んだ人はゴメンネ)

アイドルに限らず、様々なバンドやアーティストが出演するごった煮フェスとしては、かなり面白いものなのではないかと思います。
ぜひ成功してほしいなぁ。
クラウドファンディングもやっているので、チェックしてみてください。



(もう疲れたので当分書きませんが)つづく…

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