蔵居 おりょう

おりょうといいます。 徒然なるままに、 思ったことを書いていこうと思います。 短編小…

蔵居 おりょう

おりょうといいます。 徒然なるままに、 思ったことを書いていこうと思います。 短編小説等もたまに書きます。

最近の記事

  • 固定された記事

LAST OF EARTH

暑い、暑すぎる。どうしてこのド田舎は20分も自転車を走らせないとケーキ屋に辿り着けないんだ。こんな真っ昼間の猛暑にもかかわらず車にも乗れない。なぜなら僕はまだ運転免許も取れない高校2年生。バイクを買えって?バイクって意外と高いなと思ってしまう高校2年生。 辺りには田圃が広がり、田植えをしたばかりの稲の青葉が風に棚引いている。その間を縫うように畦道を走ると、右手には延々と続く雑木林。そこから聞こえる蝉の声が、ツクツクミンミンジージージーと折り重なり、夏の暑さを演出する。 今

    • 天気雨と余分な涙

      天気雨が身体を包む。傾いた西陽が、幾重もの雲の隙間から、私の視界を優しく和ませる。それはとても遠く、とても近い。雨と太陽が競り合うように私の身体に手を伸ばし、どちらかを選べと迫る。 違う。私は選ばない。どちらも受け入れる。穏やかな幸せも、幸せの隙間に刺さる苦悩も。 ずっと前は、苦悩ばかりを拾い集めていた。幸せを拾ってしまったら、次に現れる苦悩があまりに大きく、醜く感じてしまうから。苦悩だけを集めていれば、それに慣れることもできるだろうと、思っていた(実際、慣れることなんてな

      • この世から消える、その時に、私はこの世に何も残していきたくない。天に富や名声を持ち込みたいという浅はかな理由では決してない。私は、私の身体、私の使った物、私が影響を与えた物、それら全てを排除したい。骨の一部、その微粒子でさえも、この宇宙から消滅させてしまいたい。私達は皆、何も無いところから生まれ、何も無いところに還っていく。だから、この世にも何も残してはいけないのだと思うのである。私達の一生は、一貫して無である。どんな大発見をしても、どんな大勝利をしても、どんな功績を讃えられ

        • 超獣奇譚

          ここは深々と雪が降り積もる真っ白な森。そこには優しすぎるトラと獰猛なネズミがいました。 トラは優しすぎる故に、餌にありつくのも一苦労です。本来トラは肉食ですが、彼は他の動物を殺し、食べることが、ひどくいたたまれない気持ちになってしまうためにできないのでした。 トラが森の中で食べられるものがないか探し歩いていると、一匹のネズミが叢から現れました。獰猛なネズミです。 「やい、トラ公。そんなに痩せちまって、お前さんは本当にトラなのかい」 「なんだよ、藪から棒に。僕はトラさ、

        • 固定された記事

          闇と光の狭間

          12月の寒い夜。 私は学校の近くにある公園へ一人で向かいました。広い公園で、外周が3キロメートル程あります。 木々は枯れ、落ちた葉が地面を覆い、夏の間には鬱蒼と生えていた雑草も、茶色く項垂れていました。 私の行き先は既に決まっており、そこに向かうように公園を突っ切りました。午後10時、予想通り人を見かけることはありませんでした。 着いた場所には、立派に枝を延ばした太いサクラの木がありました。私はこの木を事前に選んでおいたのです。決め手は登りやすそうだったことです。しか

          闇と光の狭間

          猟奇的な月

          夜明け前に目覚め、今日は何人に罵声を浴びせられるかと考えながら身支度を整える。朝食に食べたシュガートーストは、錆びた味がして、腐っているのはトーストなのか私の味覚なのか判らなくなり、一口食べただけで食欲を失った。いや、食欲なんてもとより無かったのかもしれない。食欲が無い理由を求めていただけかもしれない。 外に出る頃には東の空が薄く黄みがかっていた。東南東に眼を移すと、そこには猟奇的な月があった。髪の毛ほどに細く、ナイフのように空を裂く鋭さを持ち、血に濡れたように朱く光って

          沈む夕陽

          あと何度、この夕暮を見ることができるのだろう。鋭く傾いた西陽が、街を、道を、焦がしながら沈んでいく。電車の車窓から見えるものは全て、太陽の色を借りて火照っている。小高い丘に建設されたマンションの窓から反射した西陽が、チラチラと私の網膜をくすぐり、枯れた緑地が空気の冷たさを嘆くように棚引いている。街のあらゆるものが私の前を通り過ぎ、その合間合間に聳える、白い骨を晒した鉄塔が、ただじっと、夕陽が沈むのを待っている。 あと何度、この帰り道を見ることができるのだろう。駅から家に向か

          死神

          鏡を見ると、奴がいる。じっとこちらを見据えては、まだかまだかと訴える。 私達は何故死を恐れるのか。痛みや苦しみを伴うからだろうか。ならば、その痛みや苦しみが無ければ私達は死を恐れずに、自ら川を渡ることができるのだろうか。 私達の根本的な恐れは、おそらく飢餓からきている。動物が死を免れるためには、まず食べることを続けなければならない。これが絶たれた時、私達は飢えを感じ死を直感する。この時、飢えに苦しみが伴われなければ、私達は何の嘆きも無く、眠るように死ぬことが出来るだろう。

          カサブタ

          山奥の無人駅。私以外には誰もいない。時刻表の、一時間に二本ずつしか列車が通らないことを示す数字が、掲示板に浮いた錆と共に、この土地の中途半端な淋しさを物語っていた。 待合の、コの字型に配置された木製のベンチの端に腰掛ける。私以外には誰もいない。時刻は午後四時。そろそろ夕暮というものが山肌を紅く焦がすであろう。ベンチの背凭れの上に開いた吹き抜け窓の向こうに、所々紅葉し秋の気配を孕んだ山が聳える。 次の列車が到着するのは三十分後。私は立ち上がり、ホームから身を乗り出してレールを眺

          彼岸

          私は「お彼岸」に生まれた。 9月20日はお彼岸の入りの日となる。死というものに憧れ、不明瞭で危うげなこの世界に不信感を抱いていた私にとって、この日に生まれたことに運命的な意味がないとは到底思えないのである。彼岸とはつまり死者が進むべき道、この世の先のあの世である。私はこの日に生まれ、そして同時に悟っていたのかもしれない。人生の非業を。 私は「あの世」に生まれた。 簡単な言葉遊びで、お彼岸をあの世と言い直してみるとよく分かる。この世界に生まれ、そして死ぬまでこの世界に縛り

          雑食について

          この世で最も健康的な動物は肉食動物で間違いないだろう。彼らは食べるために走る。走らなければならない。猛速で走った直後に良質なタンパク質を供給することによって、彼らの疲弊した筋肉は更に増強され、食べていくための力を養う。加えて、誰よりも速く走らなければならないため、無駄な脂肪は付けない。彼らの逞しく優雅な姿は、この習慣から生まれている。 一方で、草食動物といえば、殆ど動くことは無い。自分の首が動く範囲に草が無くなったら三、四歩移動してはまた食べるの繰り返しである。彼らは四六時

          雑食について

          「比較」をせずに「評価」をすることは可能か。

          上記の命題は、私が大学生の頃に哲学の教授に投げ掛けた疑問である。 当時の私は高校受験や大学受験、差し迫る就職活動に精神を擦り減らしていた。同級生は皆ライバルで、悩みを打ち明けられる友人は一人もいなかった。 私はいつの間にか競争社会に迷い込んでいた。ただ勉強がしたかっただけなのに、どうして人より優れてなくてはならないのだろうか。そう思った私は、先人の知恵を借りようとこの命題を掲げたのである。誰にも比較されることなく、“真に絶対的な”評価をされるために。 結論から言おう。「

          「比較」をせずに「評価」をすることは可能か。

          裏側の世界

          ーアニキ、アニキ、お呼びですか。 ーおう、来たか。 ーへい、遅れてすいやせん。それで話ってなんすか。 ーお前もそろそろ自立する頃だろ?だから、俺達の仕事について、もう一度話をしておこうと思ってな。 ーマジっすか、あざっす、マジリスペクトっす。 ーまずは、おさらいだ。俺達は誰のために働いてるか分かるな? ーへい、ニンゲンっす。 ーそうだ、苦しんでいるニンゲンを助けるのが俺達の役割だ。ならば、ニンゲンを助けるために俺達は何をしなければならないか覚えているか? ーへ

          じいちゃんの形見

          「なあアズマ、お前なんでそんな古めかしい折りたたみ傘使ってるんだ?」 ニシが僕の左手に携えられた濃紺の折りたたみ傘を見ながら尋ねる。 「この時代に手で持つ傘なんて流行らないって」 ニシの言う通り、今の流行りはドローン式の傘。所有者を勝手に認識し、勝手についてきて、勝手に閉じたり開いたりする。僕が持っている傘は、木材でできた柄が摩擦で擦り減り、ところどころ錆びて赤茶けた骨が、なんとも淋しげな空気をまとっている。 「これ、じいちゃんの形見なんだ。じいちゃんが死んで、もう2

          じいちゃんの形見

          破れたTシャツはいつ捨てればいいのか

          Tシャツに穴が空いた。穴が空き始めたのはもう一年以上も前のことである。肩先にあったはずの小さな穴はどんどん広がっていき、今では首の根元までその空隙が侵蝕してきている。 お気に入りのTシャツだったのかと訊かれたら答えに窮してしまう。ただ、いつも着ていたから、何度も洗ってくたびれた生地が柔らかくて、寝巻きには丁度良かったから、私はそのTシャツをいつ捨てればいいのか分からなくなってしまった。Tシャツなら他にもあるはずなのに、何故かその破れた穴を眺めては、広がっていく暗い隙間に吸い

          破れたTシャツはいつ捨てればいいのか

          郷愁

          海岸沿いを走る列車に揺られながら、車窓から流れ入る海の香りに鼻孔を酔わせる。さざなみから立ち昇る懐かしい磯の香り。南中に輝く太陽光を燦々と反射させて蒸発する海水のそれは、ふくよかに清澄である。 時折自分の肌からもこれに似たしょっぱい香りを感じることがある。もう海とは何年も戯れていないが故に、自分と海の不思議な関係性を感じ取り、自分の前世を想像する。 きっと私は深海魚。荒れ狂う海面でもなく、マグマに熱され猛烈に泡を吹く地獄のような海底でもなく、光や音もない、自分の心の微かな