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闇と光の狭間

12月の寒い夜。

私は学校の近くにある公園へ一人で向かいました。広い公園で、外周が3キロメートル程あります。

木々は枯れ、落ちた葉が地面を覆い、夏の間には鬱蒼と生えていた雑草も、茶色く項垂れていました。

私の行き先は既に決まっており、そこに向かうように公園を突っ切りました。午後10時、予想通り人を見かけることはありませんでした。

着いた場所には、立派に枝を延ばした太いサクラの木がありました。私はこの木を事前に選んでおいたのです。決め手は登りやすそうだったことです。しかし、私の目的はただ木に登ることではありませんでした。

私が背負ってきたリュックには、複雑な結び方をした縄が入っていました。一本の縄の片方を輪になるように結んだものです。私はその縄をリュックから取り出し、握り締めながら木に登りました。その木の枝の内、太くてある程度の重さに耐えられそうな一本に、縄の輪になっていない方を括りました。高さも十分です。

そして、木に繋がれた縄の先の輪に、枝に腰掛けた状態で頭を通しました。おもむろに深い呼吸を数回してから、縄が括られた枝に手を掛け、手に全体重が掛かるように枝から降りました。首には縄が纏わり付いています。

あとはこの手を離すだけ、何度もそう心の中で呟き、少しずつ、少しずつ指の力を抜いていきました。

そうして指が枝から離れ、ストンと首に衝撃が走った瞬間、ブチッという音が頭上から聞こえました。

地に足が着いたとき、落差はかなりあったはずなのに、なぜかバランスを崩さずに真っ直ぐ立っていられました。

ふと、空を見上げてみると、そこには闇が広がっていました。けれど公園に灯りが少なく、辺りも真っ暗だったからでしょうか、不思議にも、その中に浮かぶ幾千の星たちの、目映く素晴らしい光を確認することができたのです。あんなに世界が輝いて見えたのは初めてでした。

私は家に帰る決心をしました。サクラの木に別れを告げ、この木が、また春には満開の花を咲かせることを願いながら、歩き始めました。

切れた縄は途中の屑籠に捨てました。

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