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レイヤー 2を巡るブロックチェーン生き残り戦略

1,はじめに


最近、イーサリアムの「レイヤー2」がトレンドになっています。

例えば、Optimistic Rollupを利用したモジュラー式の「Mantle Network」はメインネットをローンチしました。そして、Metamaskの親会社であるConsensysが開発した「Linea」がメインネットのアルファ版を公開しました。さらに、以前には、Coinbaseも自社で開発した「BASE」のテストネットワークの開始を発表しています。パブリックブロックチェーンである「Celo」が独立したレイヤー1からイーサリアムのレイヤー2へと転換するとのことです。

なぜ今こんなにレイヤー2に参入する企業やプロジェクトが増えているのでしょうか。ビジネス的な観点からレイヤー2を考えてみようと思います。

出典:Coinbaseのツイートより

2,レイヤー1の競争を振り返る


昨今のレイヤー2の競争がなぜこんなに激しくなっているのか。その説明の前に、メインネットであるレイヤー1の収益モデルと、その競争の歴史を振り返ってみましょう。より、今のレイヤー2のトレンドを理解できるようになると思います。

2-1.イーサリアムキラーの台頭

パブリックブロックチェーンは、そこにアプリケーションが立ち上がることを想定しているため、インフラとしてその経済圏ができてしまえば、ネットワーク効果によりトークンのユーティリティが拡大しやすく、持続可能性の高いビジネスモデルが作れます。

ブロックチェーンプラットフォームは魅力的なビジネスモデルであるため、イーサリアム以外にも多くのパブリックブロックチェーンが開発されました。その多くが「イーサリアムキラー」として、イーサリアムが苦手とするスケーラビリティを強化することで、DAppやユーザーを呼び込もうとしました。

もちろん、新しいパブリックブロックチェーンを作ってそれをビジネスとして成立させることは簡単なことではありません。まず、このカテゴリーの王者であるイーサリアムと戦うために高いスケーラビリティを持たせつつ市場が認める安全なコンセンサスメカニズムを開発する必要があります。次に、ネットワークの安全性と分散性を保証するために、多くのノードを集める必要があります。最後に、アプリケーションやユーザーを呼び込むために他のブロックチェーンプラットフォームと差別化するストーリーを作り、プロモーションを行う必要があります。このように、新しくパブリックブロックチェーンを作るとなると、膨大なコストがかかるものの、それ以上のリターンを期待して、2017年〜2022年にかけて多くのブロックチェーンプラットフォームが立ち上がりました。

2-2.死海と化すレイヤー1市場


ビジネス的なを「旨み」を感じて多くの新規参入者がブロックチェーンビジネスに参入しました結果、現在レイヤー1の市場は完全に供給過多になっているのが実情です。DeFiLlama のデータによると、現在、200 近くのパブリックブロックチェーンが存在します。そのうち、レイヤー1は190ほど存在しています。全体の9割はレイヤー1が占めているこの状況は、例えるなら、水に溶けている塩分濃度は基準を超えており、死海のような状態です。

出典:PANews

しかもレイヤー1は190程あると言っても、TVLで見るとイーサリアムがそのシェアの6割を締めており、それに次ぐTron、BSC、Polygonを合わせると全体の8割を占めます。ブロックチェーンプラットフォームのビジネスは供給過多になってる一方で、ほぼ寡占状態となっており、今からお金と時間をかけて競争していくという選択はビジネスの観点からは賢明な選択ではありません。

その中でレイヤー2の市場競争環境は、まだマシな状況です。現状、Optimistic Rollupのレイヤー2はOptimismとArbetrumが優位なポジションにいるにせよ、本格的な競争はまさにこれからですし、期待されてるZK Rollupを使ったレイヤー2もいくつか期待されてるプロジェクトはあるにせよそれらはほぼ横並びの状況だと言えます。

3,投資効率のいいレイヤー2


レイヤー1は、ゼロから開発するとなると、資金的にも経験的にもハードルが高いものですが、レイヤー2はどうでしょう?個人的には、レイヤー2に参入することはレイヤー1よりもハードルが低いのではないかという結論です。

まず、核となる技術は「OP-Stack」や「Polygon CDK」など、開発キットがあるので完全に1から開発する必要はありませんし、レイヤー2はトランザクションの処理と実行の役割を担えればいいのでブロックチェーンの肝となるコンセンサスやセキュリティを気にする必要もありません。取引手数料はETHでいいので原理的には独自トークンも不要です。

このように、レイヤー2を作る際の、そのコストと難易度はレイヤー1を作るよりはるかに低く、投資効率がいいと言えます。

データもそれを裏付けていて、PANewsの記事によると「Token Terminal 」の過去 6 か月間の収益データで、トップ 10 プロジェクトのうち、レイヤー1に限って見ると、Ethereum、Tron、BNB Chain のみがこのランキングに挙がっており、レイヤー2 の Arbitrum もこのランキングに入っています。これらの レイヤー1と Arbitrum を開発機関の観点から比較すると、純利益の観点から Arbitrum の方が費用対効果が高いとPANewsの記事では結論付けています。

出典:PANews


また、CoinbaseやCeloなど既に世間で一定の認知を獲得していたりユーザーを抱える企業がレイヤー2に参入することが増えていますが、既存サービスからレイヤー2にユーザーを移行しやすいことから、大幅に顧客獲得コストを抑えることができます。また、既に構築されたサービスと新たに作るレイヤー2をうまく連携させることで魅力的なユーザーエクスペリエンスを提供できるという狙いもあるのかもしれません。

このように、初期投資を抑えつつ、巨大なエコシステムにアクセスできる利点があることから今後レイヤー2に参入するWeb3企業は増えていく可能性が高いのではないかと予想しています。

4,まとめ:「真っ向勝負」から「華麗なる寄生」へ


以上、レイヤー2のトレンドをビジネス的な観点から考察してみました。

数年前のパブリックブロックチェーンの戦いの歴史を思い出すと、多くのプロジェクトが「イーサリアムキラー」として、イーサリアムに対抗してその牙城を崩そうとしていました。しかし、現状イーサリアムが劣勢を強いられているかと言うとそうは見えません。確かにイーサリアムは取引量が多くなると取引速度が遅くなったりガス代が高くなるなどの問題はあるものの、それでも多くの開発者とユーザーはイーサリアムを選択しています。このような状況を見ていると、多少使い勝手が悪くても人が集まるところに人が集まるんだなというのを思い知らされます。ブロックチェーンの競争は今後も続いていくと思われますが、その中身はこれまでとは違うものになるかもしれません。言うなれば、「真っ向勝負」から「華麗なる寄生」に移行していくのではないでしょうか。

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