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片麻痺が左手(非利き手)を使うということ

 右利きの人間が右の片麻痺になったときの1つの例として、左手の練習などについて書いてみたいと思う。左手の練習は厳密にはリハビリではないのかも知れないが、自分の意識としては同じ流れだし、作業療法士(OT)のメニューに左手の訓練も入ることがあるので、リハビリの一部として考えることにする。

 麻痺にせよ何にせよ、利き手が使えなくなることを想像したことはない。母親がくも膜下出血で片麻痺になったが、そのときは歩けず車椅子生活になることの方が大変で、手の麻痺どころの騒ぎではなかった。だから自分がそうなったときは最初よくわからなかったし、自分で動いてみたり医師や看護師に言われてから徐々に意識するような感じだった。

 最初に左手を使い始めたのは、リハビリや訓練ではなく食事で、箸ではなくスプーン。その時期頭にあったのは、右手がいずれ動くだろうという甘い見込みだけでなく、左手で箸を使う練習を始めるのは右手を諦めたことになるという変な意地もあった。しかしあるとき刻まれた麺をスプーンで食べるイライラに直面して考えを変えた。食事は毎日3回確実にあるので、麺類に限らずスプーンでストレスになることは何度くり返してもストレスのままなので、まあ限界だったのかも知れない。

 そして箸。右手でどう使っていたかは右手が動かないので参照できず、おそらく正しいであろう持ち方もすぐにはできない。結果すぐに使えるが力感も繊細さも美しさもない、初めて箸を手にした外国人旅行者みたいな持ち方になった。2~3ヶ月それで過ごしたが、おかしなもので正しくないやり方でも毎日やってるとそこそこ上達してくる。一方で正しくないと力の入り方も繊細さも上達には限界がある。限界を越えるには努力が必要だが、どうせ努力するなら正しく使おうと、ここから正しい箸の訓練が始まる。

 YouTubeでいくつか映像を検索し、左手で箸を使う基本的な形と動きを確認する。

「ニカクメ」というチャンネルは、箸以外にも片麻痺のために色んなやり方やグッズを紹介しているので、今後もお世話になりそう。

 単に箸を使うだけなら、そんなに時間はかからない。実際に問題になるのは、利き手が使えないことよりも、「片方しか使えない」ことのほうだった。左手で箸を使うとき、右手で器が持てれば「かき込む」ことが可能なのに、それが不可能。ご飯でいうなら、最後の一粒まで箸で掴んで口まで運ばなければいけない。絹ごし豆腐を落とさず、崩さずに掴まなければ食べられない。力だけではなく繊細さも思ったより必要なうえ、両手使えたときの利き手よりも求められることが多いのだ。これは一生かかっても満足いかないかも知れない。

※施設にいる間は食べたいものが食べられるわけでもないし、食事が楽しみではなくリハビリと思っているので箸を使う。自宅に戻ったらフォークやスプーンなど食べやすい方法を使うつもり。逆に言えばカレーライスや麻婆豆腐などスプーン使うメニューが出るのは練習ができず残念だったりする。


 次に字を書くこと。箸と同じようにYouTubeを検索したが、箸より厄介だったのは、手は逆になっても字の形や並びは逆にはならないということ。そして多くの文字が右利きには自然で合理的に書けるように出来ていて、左手には不自然なことが多いこと。いくつかポイントを気にしながら練習しないと上達も遅いし疲労度も高くて、ただ練習すればいいわけでもないので難しい。意識が甘いとすぐに「鏡文字」になってしまったり、そこまでではなくても斜めの払いが逆になってしまったりする。そして、字が書けるようになっても文になるとまた違って、手の動きの流れやイメージまで含めての訓練が必要。日本語は表意文字なので、視覚情報の影響が大きいというのは改めて感じた。

この映像で、「(左から右への)横棒」「時計回りの○」などが左手には難しいということを認識。

 この文章を書いた段階で、ノートほぼ4冊分の練習が終わっているが、まともに書けるとはとても言えないレベルだ。平仮名、片仮名、漢字それぞれ単体ならば下手だが読める、しかし複数文字の単語や文になると文字の間隔や位置、大きさなどのバランスが整わず非常に読みにくい。横書きの場合書いた文字が左手で隠れるのが原因の一つで、そこは瞬間的な記憶やイメージ、そして経験でカバーするしかないか。

 しかし役所の届け出などでやたら手書きが多いのはどうにかならないか。昭和じゃあるまいし。

 字の場合も左手で書くこと以外に右手が使えないことがネックになる。紙が動いてはキレイになど書けるわけがなく、文鎮みたいなものが必要になる。どうにか右手が、せめて重しにできる程度に自由になってくれれば。
 左手の練習と合わせて右手のリハビリもまた続けていかねば。箸の場合は1日3回ある意味強制的に練習できるが、文字は自分から能動的に練習しないとどうにもならないので、むしろ精神状態こそがポイントかも知れない。

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