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1_1ハラスメントはなぜ問題なのか


昨今、ハラスメントは人権問題とも言われるようになってきています。それは、ハラスメントは個人の尊厳や人権を侵害し、精神的・身体的に甚大な被害と悪影響を及ぼす可能性があるからです。「これぐらいなら問題ないのでは?」と、ハラスメントは小さなことから始まることが多いです。しかし、初めは小さなことであっても積み重なれば、いずれ大きな事柄に発展していく恐れがあります。気が付いたときには、相手に大きな被害を与えてしまう恐れがあります。

また、相手に対してだけでなく、そこで働く職場環境、企業活動の観点についても回復しがたい重大な人権上の被害をもたらすこともあります。

ハラスメントが継続すると、ハラスメント自体を容認したことになり、徐々にハラスメント行為が広がっていきます。その結果、企業全体でハラスメントが蔓延し、企業イメージを大きく損なう事態にも発展しかねません。

ハラスメントは、企業にとって回避すべきリスクです。そして、ハラスメント対策を行えば、企業イメージの向上にもつなげることができます。

今回は、ハラスメントに対して、より危機感を持っていただく為に、具体的な問題点について見ていきます。


 【具体的な問題点】

1. 働きやすく、こころが通い合う快適な職場環境(心理的安全性)が侵害される。

 心理的安全性とは、簡単に言えば「自分の考えや想い、気持ちを安心して発することができる状態」です。会社で言えば、「なんでも話し合える環境」といっても良いかもしれません。心理的安全性が確保できていれば、組織内コミュニケーションは活性化し、生産性向上につながっていきます。

しかし、ハラスメントが行われている場合、「不用意な発言をして、怒鳴られるかもしれない」「発言しても否定されるだけ」「間違ったことを言って、社員同士で悪口を言われるかも」など、話すことを恐れてしまうことがあります。

結果として、コミュニケーションが阻害され、うまく仕事ができない事態に陥ります。


事例①

 上司が、部下からの連絡に対して必ず問題点を指摘していた。仕事上必要な指摘ではあったものの、「それは違う」や「間違っている」など、部下の意見を聞く前に否定をしていた。上司としては、当然の指摘と考え、むしろ期待しているからこそ厳しくしていたとのこと。しかし、部下は何をやっても否定されてしまうと恐怖を抱き、上司にうまく話すことができなくなっていった。この状況が続き、部下は上司のパワハラを訴え、別の会社へ転職してしまった。


2. 長く「心の傷」として残ることがある。(PTSD、フラッシュバック)

  ハラスメントは、暴力(叩いた、殴ったなど)による身体的な傷だけでなく、恐怖といった心の傷をつけることがあります。また暴力だけでなく相手を傷つける言動もハラスメントに含まれ、相手の心を直接傷つけることも起きています。

心の傷は、表情や仕草から本人が傷ついているか気づくことが難しいです。そのため、相手が苦しんでいることに気が付かず、継続してハラスメント行為を行い続けてしまいます。その結果、心に深い傷をつけてしまうことがあります。

心に深い傷を負ってしまった場合、動悸や呼吸困難、鬱など様々な症状が出ます。これらの治療には長い年月を要します。またハラスメントを受けた時に近い状況(発言、仕草、音、臭い、家具の配置など)を見たり、触れたり、聞いたりするだけで、当時の状況をフラッシュバックし、社会復帰するまでに更なる時間を要する可能性もあります。

ハラスメントによる被害は一時的ではないことを理解していただくことが大切です。


事例②

 同僚に対して、冗談で身体的な特徴を揶揄することを継続して言っていた。同僚は、嫌がるそぶりを見せていなかったので、冗談として受け取ってもらえていると思い、何度も繰り返し使っていた。ある時、同僚が仕事を休んだ。鬱になってしまったそうで、取引先との関係で何か問題があったのかと心配し、連絡を入れるもつながらない。その後、人事部より自分の冗談が原因であることを知らされた。5年も前のことだが、今も同僚は仕事に復帰できていない。


3. 信頼関係が崩れ、人間関係が悪化する。

 信頼関係は、ちょっとしたことで崩れる可能性があります。遅刻や連絡忘れなど、原因は様々ですが、継続して配慮を怠った時に崩れることが多いです。しかし、ハラスメントの場合は、たった一回の行為で信頼関係を崩す可能性が高いです。相手を傷つける行為は、信頼関係を崩すだけでなく、相手に敵対心を生み出すこともあります。

 信頼関係から敵対関係に発展していけば、会話どころか顔を合わすことも困難になっていきます。当人同士の問題で済めば良いですが、最悪の場合、所属するチームや部署、会社間など集団による敵対関係にも発展していく可能性があります。

 人間関係は、ハラスメント以外でも悪化することはありますが、相手を傷つけるハラスメント行為は、たった一回の行為で悪化させるため、注意が必要です。


事例③

 取引先の営業担当とは、頻繁にやり取りを行うほど関係が良く、互いに信頼していた。ある時、取引先の営業担当が発注ミスをしてしまい当社に損害が発生した。大事には至らなかったが、自身が責任を取ることになったため、怒りを覚えきつく相手に苦言を呈した。それ以来、営業担当とのやり取りはなくなり企業同士の付き合いも距離を置く様になってしまった。振り返ると、こちら側の伝達不足も原因の一つであり、取引先の不手際とは言い切れなかった。


4. メンバーの働く意欲・組織全体の士気が低下し、生産性の悪化につながる。 

 ハラスメントをしてしまった人の話で、「相手のやる気を引き出したかった」「仕事の厳しさを知ってほしかった」など、ある意味で士気を向上させるために仕方なく行っていたと考えられている方がいます。立場に関わらず、相手を思いやり発言することは重要ですが、思いやりがあればハラスメントが許されるわけではありません。ハラスメントは、相手を傷つける行為であり、どれだけ相手のことを考えた言動であっても士気を低下させます。

 またハラスメントは周囲にも影響を及ぼします。ハラスメントの言動を見聞きするだけでも、自身に対しての言動のようにとらえてしまい傷つく人もいます。そのため、仮に1組の間で発生した事案であっても、周囲に広がり、いつの間にか組織全体に影響を及ぼす可能性もあります。


事例④

 部下のやる気を引き出すために、「朝に必ず大きな声であいさつすること」を徹底させていた。自身も若手時代に上司から同様の指導を受けて現在の地位にまでなっており、仕事上必要なことと考えていた。できていなければ注意し、できるまで繰り返し行わせていた。もちろん、全員ではなく直属の部下に対してのみ実施していた。辞める部下もいたがついて来る人材のみが会社に必要と考えていた。ある時、別の部署から指導方法がパワハラであると指摘が入った。指導の声が別部署にも届いており、毎朝私の声を聴くことに恐怖を覚えていたとのこと。その後、人事から多数の部署から指導に対するクレームが届いていると指摘を受け、気づけば組織全体に影響を及ぼしていた。


 5. 企業の信用を失墜させてしまう場合がある。

 ハラスメントは、企業内で完結するわけではありません。ハラスメントは外部にも広がっていきます。ハラスメントは必ずしも公表されるわけではありませんが、従業員のうわさや退職した従業員の口コミなど様々な形で広まっていきます。ハラスメントが起きたということは、ハラスメントを容認していたとも捉えることができます。そのため、ハラスメントが発覚すれば、企業イメージを下げ、信用問題にも発展していきます。

 そのため、ハラスメントが発覚した後、速やかに対策を取ることが求められます。


事例⑤

 社内でハラスメントが発生していたが、被害を受けていた従業員が辞めた為、ハラスメントを行った上席者には注意勧告にて対応した。その後、2か月後に途中入社が決まっていた内定者から入社辞退の申し入れがあった。事情を確認すると、転職サイトに当社にてハラスメントがあったこと、対策が十分に取られていないことが記載されていたとのこと。注意勧告など対策はしっかりと行っている旨を伝えたが、結局入社には至らなかった。それ以来、求人を出しても良い反応を得られなくなっている。


6. 多大な損害賠償の対象になることもある。(加害者・企業とも)

 ハラスメントは法律上でも気をつけなければなりません。ハラスメントは、刑事罰に該当することがあります。暴力行為はもちろんのこと、自殺教唆など、言葉だけであっても刑事罰に問われることが増えてきています。また刑事罰に問われなくても、民事として損害賠償請求を求められることも多いです。そしてこれらは、ハラスメントを行った本人はもちろんのこと、所属している企業の責任も追及されます。実際に様々なハラスメント問題を取り上げた報道が行われています。

 ハラスメントによって損害賠償や刑事罰を請求された人や企業にヒアリングを行うと「こんな大事になるなんて思ってもみなかった」「法律違反を行っていた意識はなかった」など、認識の甘さが見受けられます。そんなつもりはなくても結果として、違反を行っていれば責任の追及をされてしまいます。

今一度、法律に対する認識を改めていく必要があります。


事例⑥

 ある部署にて、暴力行為によるハラスメントが発覚した。ハラスメントを行ってしまった社員に詳細を聞くと、相手を勢いよく押してしまい、転倒させてしまったとのこと。ハラスメントを受けた社員は、念のため病院へ行くことになった。結果的に、大きな怪我ではなかったが、故意に暴力を行われたとして、訴訟にまで発展してしまった。本人だけでなく、以前よりハラスメントは横行しており、企業にも責任があると訴えられてしまった。


まとめ

 いかがでしょうか。ハラスメントの問題は、当人同士の問題ではなく企業、さらには外にも広がっていきます。和解で済む場合もあれば、訴訟にも発展していくこともあります。

 ハラスメントは、対応を間違えれば、二次被害も発生しより大きな被害へと発展していきます。

 ハラスメントの予防に加え、ハラスメントが行ってしまった後の対策も取っていく必要があります。

 自社内での意識向上に加え、外部研修棟を活用し定期的な知識のアップデートをしていくことが良いですね。
文責:善福大(ぜんぷく・ひろし) 中小企業診断士、奈良コンサルティング代表

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