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船と格納庫 -ポール・ルドルフと清家清の初期作品について-

「コクーン・ハウス」はポール・ルドルフの設計により1951年にフロリダ州サラソタのシエスタ・キーのほとりに建てられた住宅です。このノートでは彼と同年生まれの日本の建築家である清家清が1952年に設計した住宅「斎藤助教授の家」を引き合いに出して、両住宅を比較してみます。なぜこの2つの住宅を比較しようと思ったかというと、単に年代を同じくするからというだけではなく、二人の年譜に共通する事項があるからです。ともに1918年生まれの二人はその青年期を太平洋戦争に捧げているのです。

ルドルフは1943年にはハーバード大学での学業半ばでMITへ送られブルックリン海軍工廠に配属し、造船に携わります。対して清家もまた戦時中は日本海軍機関学校の教官となっており、戦闘機の格納庫を数多く設計していました。

ここでの経験はたしかに両住宅に大きな共通点をもたらしています。例えば新素材の導入です。ルドルフがコクーンハウスに吹き付けた繭のようなプラスチック繊維は、もともと海軍が船や機器の防腐梱包に使っていた素材です。同様に清家は斎藤助教授の家の屋根に、戦闘機に用いられていたアルミ板を転用しました。両者とも部分的にスラブをカンチレバーで浮遊させているところも、仮設性や運搬性を想像させる点において海軍的なデザイン原理だと言えるでしょう。

しかしここで注目したいのはむしろ「造船」と「格納庫設計」という仕事内容の違いです。

造船の基本的な設計理念は「省スペース」に他なりません。限られた空間に設備を固定していき、最終的には構造と設備が一体化して、造形的な区別がほとんど無くなります。なるほどコクーン・ハウスは小さな敷地の中で構造と環境設備の統合が実験されていて、無駄のない船のような佇まいです。特に、先にも説明した屋根のプラスチック繊維は構造にも防水にも寄与していて、構造と設備の統合を体現しています。

ところが戦闘機の格納庫は違います。大扉以外の設えを持たず巨大な架構だけで完結しています。「斎藤助教授の家」でも、清家はまず広々とした架構を用意し、そこに自由な「補設」として可動間仕切り等を配しています。清家は格納庫設計の経験を踏んで、日本建築の柱間装置を架構(スケルトン)と補設(インフィル)の観点から再解釈した。つまりルドルフとは対照的に構造と設備を意識的に分離させたわけです。

ここに両住宅の大きな相違点があります。構造と設備が統合されたリジッドな「船」、構造と設備が分離されたフレキシブルな「格納庫」。それぞれ「ハイテク・スタイル」と「サポートとインフィル」の系譜に関連づけるのも不自然ではないと思います。

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