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「ハリポタ」を超えた「バービー」


1.映画「バービー」の世界観

昨年2023年の夏に公開された映画「バービー」。私も子供時代に着せ替えを思いっきり楽しんだバービー人形は、日本のリカちゃん人形より長身で、プラスチックの人形にはそぐわない表現だが、堂々と自信に満ち溢れた雰囲気があって、女性の可能性を感じさせてくれる存在だった。実際、バービーのキャッチフレーズは「You can be anything」(なりたい自分になれる)だ。
 
日本で販売されたバービー人形は、米国で売られたバービーのごく一部だったようで、映画では歴代のバービーに扮する女優が次々と現れる。アメリカで販売された種類はなんと200種類を超えて、人種、肌の色も多様な上、職業では、最高裁判事バービーに、宇宙飛行士バービー、大統領やノーベル賞受賞バービーまでいるそうだ。

ここはバービーランド

まず、主役のバービー扮するマーゴット・ロビーは、容姿においてありえないスタンダードを体現しているが(バービー人形への批判のひとつでもある)、全く嫌みがない。そのなりきりぶりが、爽快で、まさにハマり役だ。理想の世界・バービーランドに住み、全てのリーダーは女性が務める。毎日がパーティーとサーフィンと、とにかく楽しくて悩みとは縁のない女性にとって夢の世界。

それが、一転、バービーは身体と精神に異変を感じ、リアル・ワールド(現実社会)行きを決断するのだが、、そこは男性優位の社会だった!はっきり言って、あまりに単純な設定なのだが、バービーランドのポップでワクワクする雰囲気という映画ならではのエンターテイメント性を発揮しながら、痛切な批判を盛り込んでいるのだ、現代社会でのジェンダーの立場の入れ替えを通じて。人間の住む現実社会を経験したバービーと、恋人のケンに現れた内面の変化の様子に、観る人がそれぞれの経験によって感情移入していく。そして、最後はとても爽やかな現実とともに幕を閉じる。

2.ハリポタを超えるセンセーション

私は飛行機でこの映画を鑑賞したのだが、隣に座っていた10歳の娘は、ピンク色に彩られた、ただただ華やかで、楽しい、そしてポップなバービー映画の世界を覗き込みながら、「どんな映画?私も観たい。」と言ったものの、いくら単純な設定とは言え、この映画の深淵なメッセージの理解は早くても中学生にならないと無理だろうと、説明ができなかった。

さて、映画「バービー」は2023年の映画では最高ヒット作となった。世界での興行収入は「ハリポタ」の最高収入作品、最後の死の秘宝 PART2を超えたことでも話題になった。

なのに、数日前に発表されたアカデミー賞2024の候補が発表されてみると、散々な結果だった。世界中で社会現象を引き起こしたといわれた「バービー」が、監督賞にも、主演女優賞にもノミネートされておらず、冷遇ととらえる向きがある。自身は助演男優賞にノミネートされている立場で、『(監督と主演の)2人が各部門にノミネートされなかったことに、控えめに言っても失望している』と書面でコメントを出したのは、ケン役のライアン・ゴズリングだ。

3.ライアン・ゴズリングが異例の声明文!?

主演のマーゴット・ロビーと、ケン役のライアン・ゴズリング

ところで、ライアン・ゴズリングと言えばフェミニストとして有名だ。なので、主役だけでなく、この映画では助演の配役もよく考えられている。

自身は助演男優賞の候補者という立場で出した異例の声明文の中で、オスカーのノミネートから漏れた監督のグレタ・ガーウィグや、主演のマーゴット・ロビーについて、『2人は、この世界中で称賛された歴史的な作品の一番の貢献者』であり、『バービーなしにはケンは存在しない。』というバービーランドの現実について語っている。

『バービーなしにはケンは存在しない。そして、グレタ・ガーウィグとマーゴット・ロビーなしには本作は存在しなかった。2人は、この世界中で称賛された歴史的な作品の一番の貢献者です。・・・彼女たちの才能、気概、そして類いまれなる能力があったからこそ、本作に関わった人々を称えることができるのです。・・・2人が各部門にノミネートされなかったこに、控えめに言っても失望しています。』

オスカーの受賞レースが始まったことに端を発し、2月2日から日本各地でバービーのリバイバル上映が決定している。バーベンハイマーの炎上で、鑑賞を控えた人もいらっしゃるかもしれないので、この機会の観賞を是非おススメしたい。

4.鑑賞後に語り合える作品

監督のグレタ・ガーウィグ
代表作にレディ・バード、若草物語がある

映画バービーの「冷遇」については、アメリカ国内で批判が相次ぐ事態に発展していて、CNNも同局の文化・映画を専門にするライターによる記事を投稿している。内容は、アカデミー賞の100年近い歴史の中で、これまで女性監督がノミネートされたのは8人だけだと指摘しつつ、今回グレタ・ガーウィグが候補にさえならかかったことについて、『家父長制は文化のあらゆる側面に組み込まれ、女性が公平に扱われるのはとても難しいという、まさにこの映画のテーマを反映したものだ』と書かれている。

私は決して映画ファンといえる人間ではないので、このような皮肉った意見が的を射たものかの判断はつかない。ただ、日本より女性が「なりたい自分になれる」であろうアメリカであっても、まだまだ家父長制が根強いと表現することが憚られない社会であるならば、ジェンダー・ギャップ指数現125位の日本の社会では、どこまでそれが深く根付いているものなのか、考えるだけで暗澹たる思いがする。映画「バービー」のポップで夢うつつの女性たちの感情とはまさに対照的な感情だ。個人的には、バービーとケンの両方の立場それぞれに感情移入した場面があったけれど、いつか、中学生くらいになった娘と一緒に鑑賞をして、バービーとケンそれぞれの生きづらさについて、議論してみたいと思える作品だ。


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