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障害ある社会をデザインで変える「エキマトペ」(株式会社方角) | インクルーシブデザイン事例インタビューVol.2

株式会社方角(ほうがく)活動概要と名前の由来

-まず初めに、活動内容に関してお聞かせてください-

方山氏:株式会社方角は、聴覚障害者の方をはじめ、コミュニケーションにバリアのある方々を主にデザインで支援する会社です。
具体的には「エキマトペ」という駅の音を視覚化するサービスの提供や音声認識アプリのUI/UXなどのデザイン業務なども行っています。他にも、聴覚障害者の方に特化した求人プラットフォーム「Gratuna(グラツナ)」を運営しています。

-「方角」という社名の由来をお聞かせいただけますか?-

方山氏:私の名前は「方山」と言いますが、方という字を「片山」などとよく間違えられちゃうんですよね。方角という社名にしたら間違えられないかなと思って方角にしました。でも全然間違えられますね。笑
「方」っていう漢字が好きで、自分は結婚をして名前が変わっていますけど、社名として名前を残したいなと思いました。

聴覚障害者に焦点を当て活動を始めたきっかけ

-聴覚障害者の方々に焦点を当てて活動をはじめたきっかけはどのような事だったのでしょうか?-

 方山氏:株式会社方角はもともとインクルーシブルデザインをやりたいと思って作ったわけではなくて、普通のデザインの会社だったんです。
2021年に「エキマトペ」というプロジェクトに携わり、それをSNSで投稿したらすごい勢いで拡散されました。当事者の方々からすごい反響をいただいて、たくさんの方からTwitterをフォローされました。 Twitterをフォローされると、「これからのあなたも見てますよ」みたいなそういう印象を抱きました。笑

それまで私はデザイナーとしてキャリアを積む中で、そんなにアウトプットが上手だったわけではありませんでした。そんな中「エキマトペ」を担当してたくさん反響をいただいたことで、この人たちを幸せにするためにデザイナーをやっていたんだなと思いました。これが始めたのがきっかけです。

インクルーシブルデザインといってもいろんな個性があると思います。弊社も聴覚障害だけでなく他の障害を持つ方々も幸せにしたいという気持ちでいますが、聴覚障害って一括りに言ってもすごくたくさんの人がいらっしゃいますし、様々な問題があります。ですので、今は聴覚障害に真摯に向き合う時期と思っています。聴覚障害にフォーカスし、聴覚障害と関係の深い問題を解決していきたいと思っています。
そして、ここからきっと他の障害を持つ方々へのアプローチも増えていくかもしれないと思っています。

インタビューに答える方山れいこ氏
インタビューに答える方山れいこ氏

「エキマトペ」のプロジェクトの経緯とこれまでの改善

-エキマトペのプロジェクトに参加した経緯を教えてください-

方山氏:「エキマトペ」の担当者が私の大学の時から友人で、『今度「エキマトペ」という実験的なものをするので、素早く動いてくれそうな小さいデザインの会社を探している。どうかな?』って声をかけられ白羽の矢が立ちました。

-「エキマトペ」は2021年巣鴨駅に設置。2022年にアップデートを加え上野駅に設置されました。このアップデートの過程に関して教えていただけますか?-

方山氏:2021年は3日間しかやらなかったこともありますし、 すごく短期間で実験的なものでした。その短期間に、SNSなどですごく反響をいただきました。その中で「もっとこういう表示をしてくれたらわかりやすい」とか、フィードバックをいただく機会がありました。
例えば「ピンポンパンポーン」みたいな文字だけだったら分かりづらいものにイラストのアニメーションをつけたりすることで、どういう状況で音が鳴っているか分かりやすくしました。

2021年の時は黒白オンリーでやっていたんですね。すごく短期間だったということもあり、色よりもまずは情報を伝えるということで、色は後回しにしました。2022年、ホームに京浜東北線と山手線という違う路線の電車が入るということもあり、それを見分けるために色を少し変えたりしました。
他にも手話の表示を大きくしたり、頂いたフィードバックを活かしつつ短時間ではできないアップデートをさせていただきました。

エキマトペのユーザーインターフェイス

-アップデートされた「エキマトペ」に対して、改善点や変えて良かった点など教えてください-

方山氏:改善点としては、細かく言えばいろいろあります。駅のホームは、すごく厳しい条件のある場所なんです。乗客の安全を守らないといけないので、それを阻害するものは基本的に出来ません。加味しなければならないこともありもう少しやれたことはあったなとは思いますが、短い時間の中では十分出来たのかなと思います。 

やって良かったなと思うことは2つあります。
1つは、 選択したフォントと色についてです。
このプロジェクトにDNP(大日本印刷株式会社)さんも参加されていました。 「エキマトペ」にはDNPさんのフォントを使わせていただきました。
そのフォントがたまたまディスレクシア(LD)という文字が見づらい方も見やすいフォントだったんです。
色の選択も、京浜東北線って結構明るい水色で、山手線も明るい緑で、そのままの色を出してしまうと、色覚障害の方は色が分からなくなってしまいます。なのでそのまま使うのではなく、明度の差をつけてわかりやすくしました。
聴覚障害という障害を知れたからこそ、違う障害に向けたアプローチができたのは良かったかなと思います。
もう1つは、上野駅なのでパンダのアニメーションを出しました。
パンダが、「ドアがしまっちゃうよ!」といったアニメーションを付けてみたら、意外と好評でした。

「Gratuna(グラツナ)」サービス概要

-自社サービス「グラツナ」が、2023年2月にリリースされました。このサービス内容を教えてください-

方山氏:「グラツナ」は聴覚障害者の方に特化した求人プラットフォームです。
私たちが、聴覚障害者の方と繋がったり、お仕事させていただいたりしている中で、聴覚障害者の方が普段感じている悩みや課題の原因が基本的に社会の中にあるなと思っていました。
そのような社会を変えるためにはどうしたら良いか?ということを考えていました。それにはまず私たちが面識のある聴覚障害者に対してアクションを増やすことでそれが拡がり、これまで関わりのなかった聴覚障害者にも優しくなれるような社会を作ることができるのではないかと思い始めました。

色々な方に「聴覚障害者の方に今まで何人くらいで会ったことがありますか?」と聞いているのですが、「 小学校の時に1人いました」とか、日常で関わったことがない人がほとんどなんです。私も2021年まではゼロ人でした。自分の身の回りに当事者がいるかいないかで、身の振り方は変わってくると思っていますし、得られる知識も違うと思います。
私自身もそうですが、知らない状態からたくさんの聴覚障害者の方と出会い知った事はすごくたくさんありました。
電車に乗った時に、もしかしたら隣の人が耳の聞こえない人かもしれない、このまま電車が急停止した時に怖い思いをする人がいるかもしれない、ということを考えるようになりました。意識することってすごく大事だと思いました。
聞こえる人たちの周りに聞こえない人たちを増やすということが必要なんだと思っています。それを今は「聴覚障害者の雇用」という形でやっていますが、雇用だけを促進する会社ではなく「聴覚障害者の社会進出」にもっと貢献できるような会社にしたいなと思っています。

聴覚障害者の方に向けたプロジェクトを多く手がける中で感じる困難

-聴覚障害者の方に向けたプロジェクトを多く手がける中で感じる困難を教えてください-

方山氏:自分は耳が聞こえるので、聞こえない人の立場に100%立つことはできません。
プロジェクトを進める際に、聞こえる側にいる自分が担当して良いんだろうかとすごく考えていました。
当事者性というのはとても大事だと思っているので、現在作成中のアプリのデザインを弊社のデザイナーに任せています。やはり、当事者だからこそわかることがすごくあるんです。そういう点は積極的に当事者の協力を仰いでいきたいと思っています。

-会社の中では聴覚障害者の方の雇用やコミュニケーションツールを筆談などで行っているという記事を見ました。今でも行っているのでしょうか?-

方山氏:うちは基本リモートなんですけど たまに週一、二日で集まっているときに手話で話したりしています。
でも、私は込み入った話を手話ではそれほどできないので、専門的な用語などを使うときは電子メモを使用しています。

-電子メモを導入しようと考えた経緯を教えてください。-

方山氏:「こういうものが欲しい」って言われたんですね。結構値段がするので、結構するんだなという感じに思っていました。笑
でも実際にあると、安心感がすごいんです。 めちゃくちゃ使えるし、想像以上に活躍しています。

「エキマトペ」の反響

-「エキマトペ」を実験的に設置した後の反響で特に印象的なものを教えてください-

方山氏:たくさんありますが、特に印象的だったのは『自分は聞こえなくなってから、活字の世界でしか生きていませんでした。でも、「エキマトペ」のようなこういう楽しい文字を見ることができて、すごく楽しい気持ちになった』という声がありました。
あと、『息子がずっと電車の音を真似していて、何の音かわからなかったけど、「エキマトペ」を見て、あ、この音の真似をしていたんだってことがわかりました』というお声がありました。その方々の生活に基づいた音を「エキマトペ」によって理解できたという声をいただいて、すごくうれしいなと思いました。

-「グラツナ」の反響はいかがですか?-

方山氏:「株式会社方角が、こういうモノをこういう感じで、こういう人向けにリリースします」と発表することは、最初は結構緊張するんですよね。変な方向性ではないか、当事者にとって迷惑になっていないかと緊張しながらリリースするんですけど、大体好意的な意見を頂いてありがたいなと思います。
その一方で、なかなか求人数が増えていかないという感覚があります。それは色んな要因があるんですけど、なんとかそういう状況を打開したいなと思っています。

インタビューに答える方山れいこ氏
インタビューに答える方山れいこ氏

今後の展望と挑戦したいこと

-最後に、今後チャレンジしていきたい課題や展望などあればお聞かせください。-

方山氏:いくつかあります。
「グラツナ」に限って言えば、現状会員登録をしなくても利用する形態にしていますが、それを会員登録ができるような仕組みにしていきたいなと思っています。大体7月に予定しています。「グラツナ」というサービスを、どんどんアップデートしていく予定です。

株式会社方角としては色々課題はありますが、今年(2023年)がインクルーシブデザイン元年だと思っていて、これからガッとくるんじゃないかなと思っています。しかし、まだまだその必要性を感じていない会社の人たちがいると思うんです。例えば、いろんなバリアフリー製品がありますけど、 バリアフリー製品を当事者が実際に関わって作成しているプロジェクトってすごく少ないんです。
当事者性というものが大事になってくる時代が来てるのではないかと思っていますし、それをいかに社会に伝えられるか、という時代が来ていると思います。

【会社概要】

株式会社方角
代表者:
方山れいこ
所在地:神奈川県川崎市中原区新丸子東 1-791-3 朝日サンライズ多摩川マンション311
事業内容:
ソフトウェア開発、Web制作、UI/UXデザイン、ビジネスモデルデザイン、ブランド体験デザイン、組織デザイン


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