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韓国文学の読書トーク#特別版『ワンダーボーイ』(キム・ヨンス著、きむ ふな訳)

この特別版は「CUON BOOK CATALOG 2021」(2021年5月発行)に掲載された「韓国文学の読書トーク」をもとに、再構成したものです。

田中:このシリーズでは、韓国文学という広大な城を巡っていきます。僕たちはまだ門の前にいる程度の入門者ですけどね。
竹田:我々と同じように韓国文学をこれから楽しんでいこうという人に向けて話していきましょう
田中:竹田さん、いま「城」って聞いてカフカっぽいって思いましたよね?
竹田:え、田中さん心読めるの!?
田中:さ、というわけで今回は『ワンダーボーイ』(キム・ヨンス著 きむ ふな訳)をご紹介します

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竹田:まずは、あらすじから。
田中:物語の始まりは1984年、人の心が読める超能力を持った15才の少年「ワンダーボーイ」ことキム・ジョンフンの目線から、言論弾圧など政治的圧力に巻き込まれる市民の姿と彼の家族の物語を描いた小説です。
竹田:主人公はひとつの場所に留まらないし、留まれない。常に移動していて、その中で人としての視野が広がっていきます。
田中:さあ、ここからは普段やってる読書会みたいな雰囲気で感想を話しましょう。
竹田:僕は、表現方法の自由さが気に入りました。超能力で心を読み取っている場面は、本音と建前を一つの文章で表すためにフォントを変えてみたり、小説の途中に銀河の写真が挿入されて、クイズのような文章が読者に投げられていたり。目が楽しい。

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田中:この写真を見て、子どもの頃の感覚がリアルに呼び起こされました。それは「こんなにも広い宇宙で、なぜこんなにもツライ思いをしながら生きているのだろう」という青春の苦しみです。
竹田:なるほどね。物語は80年代の歴史を中心に書いた小説でディストピア的にも読めるけど、僕も田中さんと同じでひとりの青春を描いた作品として楽しめました

田中:この小説は各シーンを切り取って読んだとしても、言葉の魅力を感じられる作品だと思いました。
竹田:どんなシーンが好きでしたか?
田中:冒頭の青春小説っぽさもいいけど、記憶力がずば抜けているイ・スヒョンが円周率を覚える方法を描いた場面が好きです。数字を文字で置き換える。意味の無い数列が彼の脳内では物語として立ち上がっている。
竹田:冒頭はいいね。僕は、すごい細かいけど、読書法の話をしているところかな。
田中:ページをかじるとか、匂いを嗅いでみるとか、突拍子もない。寅さんみたいだと思いました。これは何頁ですか?
竹田:265頁ですね。

「そういう話じゃない。読書の方法について話をしてるんだ。本をもっているなら、まずはその本を触ってみるんだ。くんくん匂いをかいでみたり、ページの耳をちぎってかじってみたり。するとどんな本なのか、少しはピンとくるだろう? 次に本を開いて、著者の言葉と目次を読んでみる。ほとんどの本にはカバーの表と裏に何か書いてあるが、それを読めばどんな内容なのか九十パーセント察しがつく。次は本を閉じて想像することだ。その本のテーマについて、自分は何を知っていて、何を知らないのか。もし自分が同じ構成で本を書くとしたら、どんな内容でページを埋めていくのか。そんなことを考えてから本を読むと、自分が知らなかったことが何なのか、よりはっきりするだろう。そういう点で、本を読む一次的な目的は自分が何を知らないのかをはっきり自覚することだ」
(キム・ヨンス著、きむ ふな訳『ワンダーボーイ』265ページ)


田中:頁数を聞くと、いつもの読書会みたいですね。
竹田:ちなみに、田中さんは超能力が手に入るとしたら、どんな能力がいいですか?
田中:朝起きたら蟲(むし)になる能力ですかね。
竹田:僕は城にたどり着けない能力ですかね。
                 (二人の会話は尽きないのであった)

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キム・ヨンスさんがK-BOOKフェスティバル2021 in Japanに登壇します!
ナビゲーターは『ワンダーボーイ』の翻訳者、きむ ふなさんです。
(詳細はコチラから ⇒ https://kim-hoshino-talk.peatix.com/ )

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また、「韓国文学の読書トーク」を毎月執筆している竹田信弥さん(双子のライオン堂店主)が、韓国大邱市で人文書店「旅行者の本」を運営しているパク・ジュヨンさんと「日韓書店店主対談」を行います。
Youtubeのライブ配信はコチラから ⇒ https://youtu.be/N_xxvUyCLr4

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このほかにも連日数多くのオンラインイベントが開催されています。
K-BOOKフェスティバル公式サイトをぜひご覧ください!
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【Profile】
田中佳祐

街灯りとしての本屋』執筆担当。東京生まれ。ライター。ボードゲームプロデューサー。たくさんの本を読むために2013年から書店等で読書会を企画。企画編集協力に文芸誌「しししし」(双子のライオン堂)。好きな作家は、ミゲル・デ・セルバンテス。

竹田信弥
東京赤坂の書店「双子のライオン堂」店主。東京生まれ。文芸誌「しししし」発行人兼編集長。「街灯りとしての本屋」構成担当。単著『めんどくさい本屋』(本の種出版)、共著『これからの本屋』(書誌汽水域)、『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)など。FM渋谷のラジオ「渋谷で読書会」MC。好きな作家は、J・D・サリンジャー。
双子のライオン堂 公式サイト https://liondo.jp/

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