見出し画像

私の父

両親との思い出は、なぜか母より父とのものの方が多い。
父は、仕事の都合で東京や横浜に単身赴任がたびたびあり、私は母と過ごした時間の方が圧倒的に多いのに、なぜか思い出となると父だ。

父の日を少し過ぎてしまったけれど、父とのエピソードをいくつか書いてみたいと思う。

食事のマナー


お箸

私自身はさほど食事のマナーを厳しく言われた自覚はないが、今、私が親になり子供のマナーに気を配る立場になった時に、父なりのしつけがあったと感じる。

箸の持ち方は特にうるさかった。
握り箸は言うに及ばず、箸先は3センチまでしか汚してはいけない、と言われた。
必然的に、食べ物をつまむのにちょうど良い角度になる。
必要以上に寝かせると叱られた。
今でも、お箸を立てすぎて食べている人や、逆に水平に近い角度で食事をしている人を見かけると違和感を感じる。

特に鍋

鍋の際もピシリと言い渡された、「一度箸で掴んだものは小皿に取れ」と。
我が家では、冬は鍋の日が週1であったし、すき焼きは通年。
たいてい父が仕切っていたが、自分の小皿に取る際に、鍋を自分の箸で探り回したり、嫌いなものをつまんでしまって放したり、このようなことをとても嫌う父だった。
特に、鍋はそこにいるみんなで囲むものだから、誰かが不愉快になる食べ方は避けなくてはいけない。
一度自分の箸でとらえたものを「やっぱ、やめた」と離すのがマナー違反ではないご家庭もきっとあると思う。
しかし、私はそう父に言われて育ったので、今でもあらかじめ鍋の中をよく観察して、狙いを定めて箸を伸ばすようにしている。
嫌いなものをうっかり小皿に取ってしまった場合は、そのまま残していた。
コレはアリな我が家だった。

え?それはいいんですか?

休日、庭仕事で汗をかいた父は、勝手口からどかどかと台所に入り、お米用の計量カップを水道に差し出し、水を飲んでいた。
そして、「ふぅ〜、うまいな」と独り言を言って、計量カップをささっと洗い、元あったように伏せておく。
弟などは、「お父さん、それ、お米量るやつやで」と嫌がっていた。
私が、「なんで計量カップで水飲むの?」と聞くと、
「何 cc飲んだか分かるやん」


魚の目

小学4年生の頃、私の足の指にうおのめができた。
ちょうど、数日前に魚の目を食べたので、あれが悪かったのだろうか?
確か、左足のお母さん指に出来た。
私の足の指は、お母さん指が一番長い。親指よりも長い。うおのめは、お母さん指の左側面の上部に出来た。

父が、うおのめ専用の治療薬を用意し、毎日私の足に塗って上からバンドエイドを貼った。
予定では、柔らかくなったうおのめから芯が抜けていき、完治することになっていた。
しかし、2週間ほど続けても目立った効果はなく、うおのめ自体はふやけて白っぽくなっているが、芯が取れないし、バンドエイドの粘着のせいで爪が剥がれそうになってきていた。

荒療治

父は、「こりゃ、もう爪が保たんな」と言い、なんと!!
小さなハサミを取り出し、「これでうおのめを切ってしまおう」と言い出した。
もちろん、私は抵抗した。
痛いのは絶対にごめんだ。
しかし、父はオキシドールでハサミを拭き、私のうおのめを切った。

痛みは全くなかった。出血もほぼなかった。
あれはタコなんかと同じで、皮膚の組織が硬くなっていて神経も血液も通っていないのだろうか?
今でも、足にヒールダコなどができてそこだけ硬くなると、専用のリムーバーでそっと削っているが、いわゆるlive skinにさえ到達しなければ、痛みも出血もない。
これと同じことだったのか?

足指にほんの少し、血がにじんだので父がオキシドールを含ませたコットンで患部をおさえてくれた。
その時に、私が
「そのハサミ、オキシドールの消毒で良かったん?」と聞くと、
「今、こうやって足の指を消毒してるからじゅうぶんや。外で石につまづいて転んだら怪我するやろ。血も出るやろ。せやけど、つまづいた石は消毒してるか?してへん。ハサミもそれとおんなじや」

何かおかしい、と思いつつ、「つまづいた石は消毒されてない」理論に納得した私。

その後、うおのめは再発もせず、患部がどうこうなることもなく今では普通の皮膚に戻っている。

孫が生まれて

さて、私が出産した時に、両親が手伝いに来てくれた。
私たち世代の父親はほぼみんな同じだと思うが、新生児のお世話をするスキルがない。
抱っこしてあやす程度。
母とて、もう現役ではないのだが、オムツ替えは上手だしあんなにくにゃくにゃしている赤ちゃんの着替えも器用にしてくれる。
退院してきたばかりの息子の着替えを私がやっていたとき、横で見ていた母が、
「ああ、そっちに腕曲げたら取れてしまう!」と言い、サッと代わって着替えさせてくれた。
危ないところだった。

また、母は家事を代行してくれる。
洗濯をして干して、取り入れてアイロン掛け、畳む、などのめんどくさい作業をやってくれるし、美味しい食事も作ってくれる。
父は、母と買い物に行ったり食事の後片付けをしたり、私のPCで孫の写真を友人にメールで送ったり。

父が生まれたばかりの孫を膝に抱いてあやしていた。
その表情がとても柔らかく満足げで、父のこんな表情を見たのは初めてだったので、思わず聞いてみた。
「孫ってそんなにかわいいの?」

父は顔をあげて「よしえも孫が出来たらわかるわ」
ドヤ顔だった。

・・・・。
明らかにおかしい。
父が膝に抱き、愛おしそうに眺めているその赤ちゃんは私が産みました。
父は自動的におじいちゃんになっただけ。なのに、なぜに上から目線?

今年の夏、父は80歳になります。
まだまだ元気です。


読みに来てくださった方に居心地の良さを提供できるアカウントを目指しています。記事を読み、ひと時あなたの心がほぐれましたらサポートお願い致します。