田窪一世

1988年に創立した劇団「座キューピーマジック」を主宰。劇団では劇作、演出、出演を担当…

田窪一世

1988年に創立した劇団「座キューピーマジック」を主宰。劇団では劇作、演出、出演を担当しています。劇団代表演目は「黒いスーツのサンタクロース」「道化師の森」35年間で培って来た僕なりの演技観を、演技初心者の方や演劇部顧問の先生に役立てて頂けたら嬉しいです。

最近の記事

バックグラウンド①

▶︎バックグラウンド①(概念編)032 演技するとき初心者は、泣こう、笑おう、怒ろうとします。しかし人が泣いたり、笑ったり、怒ったりするには理由があります。その理由は一人一人の人生の人間関係(主に親子関係)や、過去の出来事に起因しています。 僕の友人に鶏肉が食べられない男がいます。食べて気持ちが悪かったとか、アレルギーとかではなく、とにかく見るのも触るのも駄目なのです。しかも本人は鶏肉が苦手になった理由がまったくわからないと言うのです。実は彼は幼少期、田舎の祖父の家に行っ

    • 三題噺する。

      ▶︎三題噺する。(雑学編)031 落語の一形態に「三題噺」というのがあります。寄席で観客から適当な単語を3つ挙げて貰い、それらを折り込んだ噺を即興で作って演じるというものです。三題噺を元にした演目の代表作としては「芝浜」が有名で、明治時代の名人、三遊亭円朝が観客から貰った「酔漢」「財布」「芝浜」の3つから傑作を生み出しました。 魚屋の勝は酒好きのあまり仕事をすっぽかす事が多く貧乏暮らしが続いています。年の瀬が押し迫って来たある朝、女房に叩き起こされて渋々天秤棒を担いで芝浜

      • 物語を作る。

        ▶︎物語を作る。(雑学編)030 「物語は36通りしかない」ある脚本家を育成する専門学校の校長先生がおっしゃっていた言葉です。 世界中には何万、何十万の物語が存在しています。しかし物語を骨格だけで考えると確かに36通りに絞られるのかも知れません。 例えば、黒澤明の「七人の侍」は、毎年収穫の時期になると野武士たちがやってきて、せっかく作った米や若い娘たちを持ち去られ、すっかり疲弊した百姓たちが、強い侍をスカウトして来て一丸となって野武士と戦うお話です。おや、これって骨格だ

        • 血液型と演技。

          ▶︎血液型と演技。(概念編)029 日本人は血液型占いが好きです。しかし科学的根拠などないとも言われていて、実際のところ真偽のほどはよくわかりません。ところが最近面白い説を耳にしました。それは「民族の主食と血液型の関係」というもので、たとえば「穀物を主食にしている農耕民族に多いのがA型」「乳製品を主食にしている遊牧民族に多いのがB型」「肉食を主食にしている狩猟民族に多いのがO型」そして「干し肉を主食にしている民族に多いのがAB型」というものです。 なるほど米を主食にしてい

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        バックグラウンド①

          感情は体のどこから生まれて来るのか。

          ▶︎感情は体のどこから生まれて来るのか。(雑学編)028 人の感情は身体のどこから生まれてくると思いますか?脳でしょうか?心臓でしょうか?脳は情報処理をしている臓器ですから感情が生まれている場所とは考えにくい。では心臓はどうでしょうか。 胸が痛い 胸が熱くなる 胸が躍る 胸が騒ぐ など「胸(心臓)」と感情を繋げる言葉は沢山あります。しかし心臓=心という概念は元々キリスト教のものです。キリストの人類に対する愛の象徴である心臓を示す言葉として、聖心(せいしん・みこころ)があ

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          相手の台詞を聞く前に。

          ▶︎相手の台詞を聞く前に。(実践編)027 かつてアル・パシーノは、アクターズスタジオ・インタビューに答えて「演技で大事なのは相手の台詞を聞く事だ」と言いました。この珠玉の言葉は、当時の日本の演技者たちの心を鷲掴みにし、脳を振り回してくれました。僕も当時は大いに影響を受けて、稽古場で俳優たちに「ほら相手の台詞をちゃんと聞かなきゃ」などと指摘していました。俳優たちも懸命に「聞こう」「聞かなきゃ」と意気込むもののなかなか成果はあがりません。 「聞く」という作業は「受信」です。

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          相手の台詞を聞く前に。

          馴れる脳。

          ▶︎馴れる脳。(概念編)026 世界で最初に映画を上映したのはフランスのリュミエール兄弟です。世界初の映画は白黒で、もちろん無声です。しかもわずか50秒の記録映画が2本でした。ひとつは「工場の出口」で、ただ大勢の人々が工場から出て来るだけのものでしたが、当時の観客は動いている写真に度肝を抜かれました。もう1本は「駅のホーム」遠くから線路上を走って来る汽車に観客はびっくりし、汽車が間近に迫って来るとみんな映画館から慌てて出て行ったそうです。 当時の人にしてみれば写真が動くと

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          馴れる脳。

          危険な物語と想像力。

          ▶︎危険な物語と想像力。(雑学編)025 AIの進歩によって将来無くなる職場があります。レジ打ちスタッフ。タクシードライバー。データ入力。そして意外かも知れませんが、弁護士や医者も将来的には要らなくなると言われています。確かに法律や判例にだけ基づいて判断する弁護士や目の前の患者よりデータにだけ捉われている医者ならばAIの方が優秀かも知れません。しかし医者はいなくなっても看護師という仕事は無くならないという意見もあります。やはり患者にしてみたらロボットよりも生身の人間に看護し

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          ロー、セカンド、サード、トップ。

          ▶︎ロー、セカンド、サード、トップ。(実践編)024 最近ではほとんど死語ですが、かつてMT車(マニュアルトランスミッション車)の1速をロー、2速をセカンド、3速をサード、4速をトップと呼んでいました。これを演技に応用してみると、人の会話を簡易的ですが明確に分類することが出来ます。 ①「ロー」1対1の会話。言葉の内容を冷静に伝えたい。 ②「セカンド」5、6人の会話。感情を伝えたい。 ③「サード」聴衆、世間に訴えたい。ことさらに当てつけたい。 ④「トップ」相手に向かって感情

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          ロー、セカンド、サード、トップ。

          パーソナルスペースを意識する。

          ▶︎パーソナルスペースを意識する。(実践編)023 恐竜時代、僕たちの先祖は大型のネズミのような哺乳類でした。その頃のご先祖様は単孔類と言って、カモノハシやハリモグラのように卵を産んでいました。そして小さくて力の弱いご先祖様たちは恐竜の格好のエサでした。母ネズミは恐竜に襲われると卵を見捨てて逃げます。自分の命は助かりますが、卵は恐竜に食べられてしまうのでまた産まなければなりません。ある時、突然変異が起きます。1匹の母ネズミがお腹の中で子供を育て始めたのです。身重の母ネズミが

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          パーソナルスペースを意識する。

          マイノリティ。

          ▶︎マイノリティ。(雑学編)022 生物学的に見て人間は肉食動物、草食動物のどちらだと思いますか?答えは「肉食動物」です。その理由は顔の正面に目が2つ付いているから。 かつてホモサピエンスとネアンデルタールは同じ時代に共存していました。ネアンデルタールは体も大きく力も強かったのですが、生存競争に勝ったのはホモサピエンスの方でした。ネアンデルタールが滅んだ理由として考えられるのが、彼らは自身の強さを過信して家族単位で活動していたため、弱いがゆえに徒党を組んで戦うホモサピエン

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          Xシステムとは。

          ▶︎Xシステムとは。(概念編)021 自動車教習所で運転の手順を教官から説明された時、やらなければならないことがあまりにも多くて途方に暮れました。当時はまだマニュアル免許が主流で「エンジンを始動させる」「右足でブレーキペダルを踏む」「左足でクラッチペダルを踏み込む」「左手でギアを1速に入れる」「左手でパーキングブレーキを解除する」「左足でクラッチペダルを緩める」「右足でアクセルを踏んでクラッチを繋ぐ」「両手でハンドル持つ」「アクセルを踏み込んで発車する」これだけの作業を一瞬

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          心の台詞。

          ▶︎心の台詞。(実践編)020 初心者は、まず台本を渡されると、自分の役をどう演じようかだけを考えて、感情を先に決めてしまいます。個人プレイならそれでも構いませんが、チームプレイでは成立しません。 サッカーや野球の場合、敵チームの選手や味方のチームメイトがどう動くのか、何を仕掛けてくるかは予想出来ません。それと同じで、たとえ台本に相手の台詞が書いてあっても油断してはいけないのです。 同じ台詞でも、いつもより大きな声で叫ぶかも知れません。小さい声で呟くだけかも知れません。

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          脳内宇宙戦争。

          ▶︎脳内宇宙戦争。(雑学編)019 大竹しのぶさんは台本を一度読んだだけですべて覚えてしまう、という話を聞いた事があります。やはり天才は凄いと思うのですが、本来は誰でもが持っている能力なのだそうです。 たとえば夢の中に出て来る人物に全く見覚えの無い人がいたりしたことはありませんか?人が夢を見るのは、その日に見聞きしたことを整理して必要ないものは破棄し、必要なものを残すためですが、実は昼間、横断歩道の向こう側にいて一瞬見ただけの人をあなたの脳は覚えているのです。 小さいお

          脳内宇宙戦争。

          教室公演の勧め。

          ▶︎教室公演の勧め。(実践編)018 高校3年生の時、NHKの舞台中継でシェイクスピアの「ハムレット」を見ました。主演のハムレットを演じたのは市川染五郎(現松本白鸚)さんでしたが、これがもうめちゃくちゃカッコ良かった。染五郎さんの独特な台詞回しやスマートな立ち居振る舞いに刺激された僕は自分でもやってみたいと、すぐに行動に移す事にしました。 高校に入学した直後、学校に演劇部が無かったことを知った僕は軽いショックを受けましたが、それでも2年生になった時に友達を集めて演劇同好会

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          教室公演の勧め。

          生物としての人間とは。

          ▶︎生物としての人間とは。(雑学編)017 人間の脳の中心には爬虫類脳(本能)があります。その上に被さっているのが旧哺乳類脳(感情)。さらに人間だけに備わっている新哺乳類脳(理性)。人間の脳はこの三層構造になっていると言います。生物が進化して行く過程で脳も進化して来たわけですが、人間の脳の中心に爬虫類脳が残っている限り戦争は無くならないだろうと言う学者もいます。 よく猫が死期を悟ると死に場所を探して誰にも見つからない場所でひっそり死ぬという話がありますが、あれは病気や怪我

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