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三題噺する。

▶︎三題噺する。(雑学編)031

落語の一形態に「三題噺」というのがあります。寄席で観客から適当な単語を3つ挙げて貰い、それらを折り込んだ噺を即興で作って演じるというものです。三題噺を元にした演目の代表作としては「芝浜」が有名で、明治時代の名人、三遊亭円朝が観客から貰った「酔漢」「財布」「芝浜」の3つから傑作を生み出しました。

魚屋の勝は酒好きのあまり仕事をすっぽかす事が多く貧乏暮らしが続いています。年の瀬が押し迫って来たある朝、女房に叩き起こされて渋々天秤棒を担いで芝浜河岸に向かいますが、時間を間違えてしまったため辺りはまだ薄暗い。しかたがないので夜明けの浜辺でひとり顔を洗っていると、足元に何かが引っかかる。引き上げてみるとこれが革の財布で中には50両という大金が入っていました。慌てて家に戻った勝は、取り敢えず仲間を呼んで飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。翌日、二日酔いで起きた勝が女房に財布を出せと言うと、そんなものはない、それより昨日の支払いをどうするのだとおかんむりです。勝も青ざめて、さては財布を拾った夢でも見たかと、今回ばかりはさすがに反省して酒を断ち、心を入れ換えてて真面目に働くことにします。

三年後、表通りに小さいながらも店を構える事が出来た夫婦は生活も安定し幸せな毎日を過ごしていました。そしてその年の大晦日の晩御飯のこと、女房がとんでもない話を打ち明け始めます。実はあの朝、勝が財布を拾って来たのは夢じゃなく本当だったこと。しかし十両盗めば死罪だと思ったら恐くなったこと。それで長屋の大家に相談して勝に嘘をついて財布は落し物として役所に届けたこと。そして三年経っても落とし主が現れなかったため財布がお下げ渡しになったこと。女房は泣きながら勝に詫び「こんな女房は離縁しておくれ」と言うのでした。

事実を知って驚く勝。しかし女房の嘘のお陰で真人間へと立ち直った事を思えば女房の機転はむしろありがたかったと勝は妻に強く感謝します。すっかり打ち解けた二人。女房は今夜はお祝いだからと言って勝に酒を勧めます。始めは拒んだ勝でしたが、やがて杯を手にして嬉しそうに口元まで運ぶのですが、しかし、すぐに杯を膳に置いて、「よそう、また夢になるといけねえ」

「物語を作る」ことは作家だけではなく、演出家にも俳優にも必要なことです。登場人物たちが台詞として喋っていない部分。相手の台詞を聞いてどんな感想を持ったのか。彼らの過去にどんな事があったのか。未来をどうしたいと考えているのか。それら全てが「物語」なのです。女優の芦田愛菜さんの聡明さは周知の事実ですが、彼女の「聞く力」と「想像力の深さ」は実に素晴らしい。それらはきっと彼女の膨大な読書量から培われたものだと思われます。

僕は自分が主宰する劇団や、専門学校の学生たちにも時々この「三題噺」をやって貰う事にしています。稽古場や教室で他の俳優や学生たちから3つのお題を貰い即興で物語を作って貰うのです。短い物語しか作れない者もいれば、3つのお題を上手に組み合わせて量感のある物語を作る者もいます。将来、良い俳優に育つのは間違いなく後者の若者たちでしょう。

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